松阪駅「松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん」(2,900円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.7あら竹編⑥)

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】

(ワイドビュー)南紀

キハ85系・特急「(ワイドビュー)南紀」、紀勢本線・多気駅

紀勢本線(亀山~新宮間)唯一の公式駅弁販売駅・松阪。
国鉄(JR)の駅弁屋さんとして始まり、2000年代からは並行する近鉄線でも販売が始まりました。
伊勢参りのお客さんはもちろん、尾鷲・熊野出身の方にも愛される松阪の駅弁。
駅弁屋さんの厨房ですよ!・第7シリーズ「株式会社新竹商店」、新竹浩子(あらたけ・ひろこ)社長のインタビュー、本日いよいよ完結編です。


●「ご縁」を大事に、“一弁”入魂!

 

新竹浩子

あら竹四代目・新竹浩子社長

―松阪駅は、新幹線が無く、特急の始発駅でもありません。それなのに「駅弁」が続く理由・・・どう分析されていますか?

地方の駅弁屋さんは、やっぱり「ご縁」だと思います。
ただ、その「ご縁」に繋がるための努力は、人一倍しています。
例えば、(鉄道イベントなどで)お世話になった方には、お礼の手紙と共に(そのイベントの)レポートを書くようにしています。
私がイベントなどの記録として残したいということもあるんですが、およそ100ある駅弁屋さんで、事後に相手にレポートをしている駅弁屋さんは、そんなに多くないと思います。
忙しくなってきて大変ですが、出来るだけ、そのお手紙はちゃんと書くことを自分に課しています。

―駅弁作りで心掛けていることはありますか?

もしも、誰かに色紙書いてと言われたら、「一生懸命」、「努力」という言葉を書くと思います。
あと、好きな言葉は、私の造語なんですけど、「一弁入魂」です。
100個作っても、1,000個作っても、お客様にとっては「その1個」なんですよね。
だから1個1個(丁寧に)作らなければいけないんです。


●珍しい!?ファンクラブのある駅弁屋さん!

 

キハ25形

キハ25形・普通列車、紀勢本線・三瀬谷駅

―ファンクラブがある駅弁屋さんも珍しいですよね?

「あら竹駅弁友の会」ですね!
ちょうど、紀勢本線50周年のイベントの頃がきっかけでした。
フェイスブックなどで、ファンの方と繋がることが出来るようになったことで、生まれてきました。
「牛肉弁当」で懐かしい鉄道風景を使った“鉄道掛け紙シリーズ”などを出したのも、ファンの方が増えてくれることに繋がりました。

―ファンクラブの会則のようなものはあるんですか?

会費、会則とかもなくて、「あら竹」の駅弁が好きと言ってくれる方は、みんな「あら竹駅弁友の会」ということで・・・そのくらいのフリーなファンの集まりと考えていただけたらいいと思います。
お住まいの地域に合わせて、「あら竹駅弁友の会・○○支部」と呼んだりしています。
「あら竹」「駅弁」という言葉を軸にして、ユルッと集まる場所という感じですね。

―新竹社長もSNSをよく活用されていますね?

ここ10年、SNSが広がっていることもあり、さらにその発信力が伸びていっているのを、私も凄く感じています。
「あら竹」はあまり資本力のない会社ですが、その分、お客さんが「あら竹」を助けてあげようと、駅弁の情報を発信して下さる・・・これはとても有難いです!!
私が行けない東京のイベントでも、お客さまが(イベントの様子を)ツイッターで上げてくれて、30分で完売した様子を伝えてくれました。
その場には行けなかったけれど、会場の雰囲気がよくわかって嬉しかったです。


●紀勢本線の海と山を眺めて駅弁を!

 

紀勢本線

紀勢本線の車窓(紀伊長島駅の手前)

―新竹社長お薦めの「駅弁をイチバン美味しく食べられる車窓」は?

紀勢本線の山の中、葉っぱが当たりそうなところを走って、紀伊長島(きい・ながしま)の手前で、パァーッと左手に湾が開けるところですね。
あとは、新鹿(あたしか)のカーブです。熊野灘が見える所ですね。
松阪で駅弁を買ってから少し我慢してもらって、海が見えるのに合わせてフタを開けるとか、「牛肉弁当」と「モー太郎弁当」、2個買ってもらうのもいいのかな?

キハ25形

キハ25形・普通列車、紀勢本線・紀伊長島~三野瀬間

―紀勢本線の普通列車は、最近、新しい車両になりましたよね?

紀勢本線の普通列車は、ロングシートタイプのキハ25形になりました。
私自身も、新宮までキハ25に乗って体感しましたが、これが意外にイケます。
駅弁が憚られるほど混むことも少ないので、大きな窓から景色を眺めていただいて下さい。
アップダウンあり、峠越えあり、海の車窓あり、紀勢本線の旅は楽しいですよ!


●もっと松阪を「みんなに来てもらえる街」に・・・!!

 

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

―今後、力を入れていきたいことは?

みんなに松阪に来てもらいたいです。
JRなら「(ワイドビュー)南紀」もありますし、近鉄なら「伊勢志摩ライナー」もあって、駅弁を積み込むことは出来ますが、お客さまが1本遅らせてでも、松阪で下りて貰えるような街にしていきたい。
松阪って、肉があり、本居宣長さんがいて、松阪城跡もあって、「文化」の街だと思うんです。
でも、みんな松阪牛だけ食べて、スグ伊勢へ行っちゃうので、まずは松阪の風景を1カ所でも見てもらって、それでよかったら「あら竹」の弁当も食べていってもらいたいです。

松阪もめん柄 コースター

松阪もめん柄のコースター

そんな意味を込めて、一昨年(2015年)に発売したのが、「松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん」(2,900円)という駅弁です。
松阪には江戸時代に江戸の男女にもてはやされたという「松阪もめん」という伝統品があります。
ホントは「松阪もめん」を入れたかったんですが、よい品でお値段もそれなりですので、代わりに、紙の「松阪もめん柄」のコースターを付けました。

松阪牛証明書

「松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん」に同封されている松阪牛証明書

あと、いろんな所に松阪牛があふれていますが、皆さんにホントのいい松阪牛を見極める目を養って貰えるよう、正しい情報発信をしていかないと・・・と思います。
「あら竹」で駅弁を買っていく方の中には、自分は和田金さん、牛銀さんなどで松阪牛を食べても、待っている奥さんや家族のために買っていこうという人も多くいらっしゃいます。
そんな時、「ホントの松阪牛」の駅弁を作れるのは、「あら竹」だけだと思ってやっています。

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

仕事の心意気は、松阪の名誉市民になったお祖父ちゃんから学びました。
仕事の仕方は、父から教えてもらいました。
これまで「あら竹」がたくさん種をまいてきた新作駅弁を、今、私は育てている段階です。
まずは、私が出来ることで松阪に恩返しをしていきたい。
『松阪のチアリーダー』でありたいと思っています。

(新竹浩子社長インタビュー、おわり)

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

「あら竹」創業120周年と、「駅弁」誕生130周年を記念して作られた駅弁でもある「松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん」。
あら竹の十八番・赤ワインを使った「松阪牛赤ワイン醤油煮」に、いただく直前で松阪牛の煮汁をかけていただくのがポイントです。
「モー太郎弁当」でもサッとかけられていたうま味が凝縮した煮汁・・・コレはたまりませんね!!

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

松阪牛と本居宣長さんと松阪もめん

いい肉ならではの気品のあるフワッとしたやわらかさ。
添えられた本居宣長ゆかりの桜の塩漬けが、日本ならではの鉄道文化、「駅弁」らしさを感じさせてくれます。
本居宣長が江戸時代、国学を通じて「日本のよさ」を再発見したように、この駅弁は「日本の食の素晴らしさ」を改めて気付かせてくれる・・・そんな気持ちになりました。

(ワイドビュー)南紀

キハ85系・特急「(ワイドビュー)南紀」とキハ25形・普通列車、紀勢本線・伊勢柏崎駅

今、日本の駅弁販売駅の多くは、①新幹線停車駅、②特急始発駅、③温泉のある駅。
概ねこの3つに分類されますが、この3つに当てはまらないのに、しっかり地元に根差しながら、駅弁文化を守っているのが、松阪の駅弁です。
『松阪牛』という唯一無二のブランドがあるとはいえ、駅弁を売り続けるのは大変なこと。
新竹社長のすてきなキャラクターもまた、商人の街・松阪だからこそ育まれたといっても過言ではないでしょう。
伊勢参りを済ませて、満足しているようではまだまだ!
松阪で下りて、日本の心を知り、商人の心を知り、あら竹の牛肉弁当で駅弁の心を知って初めて『伊勢の旅』なのです。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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