【ライター望月の駅弁膝栗毛】
背中に朝日を浴び、雪煙を上げて、北の大地を懸命に走るキハ54形気動車。
訪れた日、朝の気温は、およそ氷点下10℃。
鼻をすすっただけで、鼻腔がパリパリッとなる寒さでした。
この厳しい寒さにも負けず、雪にも負けず、定刻通りに運行される北海道のJR。
普通列車1本ですら神々しくて美しく、有難い、真冬の釧網本線(せんもうほんせん)です。
そんなキハ54形気動車に揺られてやって来たのは、網走市内にある北浜駅。
“オホーツク海に一番近い駅”として知られる駅です。
「駅弁膝栗毛」では、昨年(2017年)、夏の北浜駅をご紹介していますが、冬の北浜駅もまた違った趣があるものです。
タイミングがいいと、駅前に広がるオホーツク海の流氷が観られます。
木造駅舎によく似合う、だるま形の郵便ポストの向こうから朝日が輝き始めました。
北浜駅の朝日は、知床連山から昇ってきます。
私は網走に泊まる時、天気が良ければ、ホテルに荷物を置いたまま、網走6:41発、釧網本線の始発列車に乗って、北浜駅まで朝日を見に来ることがあります。
網走へ向かう反対列車が来るまでのおよそ20分間、ピンと張りつめた空気の中、オホーツクの朝日を眺めると、不思議と心がスッとして、晴れ晴れとした気持ちになるんです。
そんなオホーツク海に輝く太陽をイメージしたような包装になっているのが、網走の駅弁「帆立弁当」(900円)です。
網走では、以前ご紹介した「かにめし」と並んで、よく買い求める駅弁の1つ。
オホーツク海沿岸は、北海道を代表するホタテ貝の養殖地域でもあります。
製造元は、昭和初期から網走駅弁を手掛ける「モリヤ商店」です。
スリープ式の包装を外すと、梅干しを真ん中にいっぱいのホタテが現れました。
網走の「帆立弁当」は、一般に「姫ホタテ」といわれる、小ぶりのホタテ(稚貝)が特徴。
この小ぶりの帆立の甘露煮が、コロンコロンと炊き込みご飯の上に載っていて、錦糸卵、椎茸の煮物、絹さやなどと組み合わせながら、飽きることなくいただくことが出来ます。
しかも、それぞれの食材に、甘めの煮汁がよくしみ込んでいるのが分かります。
ビジュアル的には、とかく大きい帆立がフォーカスされがちですが、駅弁としていただくには、このくらいの大きさのほうが食べやすいもの。
改めていただくと原材料もシンプルで、駅弁屋さんの手作りの想いがよく伝わってきました。
酒のつまみとしての相性もよく、凍てつくオホーツクの海を眺めながら、暖かい車内でぬくぬくビールや酒で一杯やりながら、鉄道旅が楽しめる駅弁です。
今シーズンの網走は2月2日に、流氷の「接岸初日」となりました。
この流氷のシーズンだけ運行される釧網本線の臨時列車が「流氷物語号」。
3/4(日)までの毎日、網走~知床斜里間を2往復する全車自由席の普通列車です。
網走9:45・12:50発の列車は北浜で10分、知床斜里11:30・13:48発の列車は、浜小清水で長めに停車し、眺望や地場産品の買い物が楽しめます。
オホーツク海に沿って走る唯一の鉄道・釧網本線は、今が一番の楽しみ時です!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/