【ライター望月の駅弁膝栗毛】
北陸新幹線の開業で、富山県内の旧・北陸本線を引き継いだ「あいの風とやま鉄道」。
石川側はIRいしかわ鉄道・金沢まで、新潟側はえちごトキめき鉄道・糸魚川まで直通運転が行われており、ほぼ全線がICOCAをはじめとした交通系ICカードのエリアとなっています。
JRから受け継いだ521系電車による普通列車が基本で、平日の朝夕には金沢~泊間で、全車指定の「あいの風ライナー」(追加料金300円が必要)も運行されています。
新幹線の開業、在来線の三セク化という富山の鉄道にとっては“激動の時代“に、富山駅弁「源」の舵取りを担っているのが、六代目の源和之社長(40)。
東海大学海洋学部を卒業、20代には、東京の中央線沿線で大手牛丼チェーン「吉野家」の店長も経験されたという、実は“魚も肉”も、よく知り尽くした社長さんです。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第11弾・源社長インタビュー編のラストは、社長個人の話から、駅弁のこれからまで、アツく語っていただきました。
●「吉野家」で学んだ努力!
―源社長は昔、東京の中央線沿いで「吉野家」の店長をされていたそうですが、いま役立っていることはありますか?
とことん努力することですね。
特にBSE問題で一番大変な時で、バイト代も低く、人も集まらない時期でしたから。
吉野家は店長と店員が馴れ合いにならないよう、2~3年で店長が変わっていくんです。
その中で、コミュニケーションが大事とはいっても、人づきあいがナンバー1ではないこと。
いいお店を作っていくにはいいものを提供する、そのためには何が必要か考える・・・といった努力が一番なんだなということを学びました。
そこに人が付いてくると・・・実は辞めてから気付いたことなんですけどね。―富山に戻られて、どんなキャリアを積まれたんですか?
伯父がやっている外食の関連会社が、新規事業を立ち上げるにあたって、頼まれて富山に戻ってきました。
そして5~6年で7店舗ほどの立ち上げをやって、「源」に入りました。
源では営業本部長や、現場の料理を知りたいということで弁当部長も4年ほどやりました。―社長就任5年目、この間で変えたことはありますか?
私なりの新しい「安心・安全」を追求しようと、HACCPに準じる品質管理を導入しました。
そして、お客さまとのコミュニケーションを強化するため、お店にPOSシステムを導入して、より数値的に根拠のある分析が出来るようにしました。
これを元に、部門別にPL(損益計算書)を作って、よりお客さまにいいものを、そして従業員へより還元できるような経営的観点を取り入れていきました。―駅弁の代名詞といってもいい「ますのすし」を作る会社の社長さんとして、ニッポンの駅弁を盛り上げていくには?
駅弁にしかできないことがたくさんありますが、まずは駅弁を通じて「富山らしさを残せてよかったね」と言ってもらえるようになりたいです。
世界的に見ても、経済は安定していそうでいながら、とても不安定です。
大手資本も、富山にどんどん入ってきています。
確かに、大手のほうが経済は回りますが、世の中の「平準化」が進むことにもなります。
これは、地方はもちろん、ひいては日本の特長・特色が薄れていく流れだと思っています。その中で、駅弁を地域の皆さまに育てていただいた糧は何かというと、「地域の特色そのものを残してきたこと」であると考えています。
だから、この大きな流れの中でも皆さんに評価していただけるように、しっかりとした商品作りをしていくこと。
それが最終的に商圏は大きくなくとも、盛り上げていく一番大事なことになると思います。―これから力を入れていきたいことは?
今どきの言葉でいえば、「食育」ですね。
若い世代にも魚を食べていただくということ。
さらに、地元を感じていただくことも、社会貢献の1つではないかと思います。
その一環として、「ますのすしミュージアム」では、魚のさばき方教室を開催しています。●立山連峰、富山湾、散居村を眺めて「駅弁」を!
―おしまいに、「源」の駅弁が美味しく食べられる、社長お薦めの車窓を教えて下さい。
富山駅を出て東へ向かい、滑川へ向かう景色ですね。
右を見れば北アルプス・立山連峰、左を見れば大きないけす・富山湾。
そして、その間に広がる田園風景は最高だなぁ・・・と思います。
ただ、新幹線ですと5分で過ぎてしまいますので、ゆっくり召し上がるなら、「あいの風とやま鉄道」に揺られてみて下さい。
(源和之社長インタビュー、おわり)
明治時代、富山随一の料亭・旅館としてにぎわった「天人楼」にルーツを持ち、「ますのすし」という大きなロングセラーを生み出した、富山駅弁の「源」。
今回、「源」の取材を行いながら、JR線を中心に富山県内各線の列車にも乗りました。
そんな旅の締めくくりに何を選ぶか迷った末、手に取ったのは「富山味づくし」(1,200円)。
風呂敷に包まれ、掛け紙に紐が掛けられた、富山の味覚が詰まった二段重の駅弁です。
【おしながき】
(一の重)
・鰤の味噌焼と酢蓮根
・蛸のうま煮 枝豆添え
・ますひれのうま煮と昆布巻き
・かつお風味のブロッコリー
・玉子べっこう、昆布かまぼこ
・氷頭なますと大根のお酢和え
・梅貝と銀杏串
・ほたるいか甘露煮
・白海老浜焼き
・大学いも(二の重)
・里芋の胡麻味噌掛け
・きんぴら牛蒡
・南瓜、竹の子、蕗、椎茸の煮物
・ますのすし
・赤しそ青しそのひさごご飯
・らっきょうの赤ワイン漬け
源の社員の方がお薦めする富山の名所がウラに描かれた掛け紙を外すと、「天人楼」以来の歴史を彷彿とさせる、富山の名産を上品に使った、20品目のおかずが現れました。
源が誇る昆布巻き、うま煮、そしてますのすし。
ブリ、シロエビ、ホタルイカといった富山湾が育んだ海の幸も、しっかり手が込んだ作りです。
20ものおかずを入れ込む前には、20の工程があるということ。
『富山の良さを何としても伝えたい!』という、源の皆さんの思いも一緒に詰まっています。
富山平野の夏の夕日を浴びて走る、東京行の北陸新幹線・E7系「かがやき」号。
この列車にも、富山駅から多くの方が「ますのすし」片手に乗り込んでいくことでしょう。
庶民的でありながら、凛とした“品格”を、不断の努力で作り上げている源の駅弁。
旧盆の帰省、立山黒部アルペンルート・黒部峡谷などで夏山を楽しまれる方、そして「おわら風の盆」と、これから富山へお出かけになる方も多いと思います。
『富山の良さは“ますのすし”があること』
帰りの新幹線のシートに腰を下ろした時、きっとじんわり、そんな思いに駆られるはずです。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/