【ライター望月の駅弁膝栗毛】
海上自衛隊・横須賀基地を横に見ながら加速していく11両編成のE217系電車。
訪れた日は、横須賀を母港とする南極観測船「しらせ」が停泊していました。
横須賀には明治17(1884)年に海軍の鎮守府が置かれたことで、鉄道の敷設が求められ、明治22(1889)年、東海道本線・大船から分岐して横須賀まで開業、横須賀線となりました。
そして、この横須賀線の存在が、大船駅に「駅弁」を生んでいくこととなった訳です。
(参考)横須賀市ホームページ
今年で創業120周年を迎えた、大船を拠点とする駅弁屋さん「大船軒」。
南極観測船「しらせ」の由来となった白瀬矗中尉が南極探検を行った翌年・大正2(1913)年、大船駅にいまも続く駅弁、「鯵の押寿し」が誕生しました。
そんな「鯵の押寿し」の掛け紙も、時代と共に大きく変化しています。
大船軒で掛け紙のデザインを手掛ける小川英恵(おがわ・はなえ)さんのインタビュー第3弾、今回は伝統駅弁のリニューアルなどにまつわるエピソードを伺いました。
―伝統の駅弁「鯵の押寿し」の掛け紙にも、デザインがあるんですよね?
昔はスリープ式ではなく掛け紙でしたが、歴史をさかのぼると、緑色ではありませんでした。
恐らく、昭和に入ってから、緑であったり、縞模様が入ってきたのではないかと思います。
緑色についての資料は残っていませんが、深海や湘南の松をイメージしたり、あるいは鎌倉の竹をイメージしているのかも…といった想像は出来ます。
時代によって、掛け紙の緑色も、縞々の太さも時代によって全然違います。―スリープ式になってからのデザインは変わっていませんか?
実は1回、『色』が変わっていて、途中から「黄色」が入りました。
これは消費税率が上がって、値段が変わるタイミングで入れたと記憶しています。
「鯵の押寿し」を販売する現場の方が、消費税率が変わる際、従来のものと取り扱いを間違うことが無いように、その目印として「黄色」を入れたんです。
掛け紙時代の綴じ紐も黄色でしたので、新たに色を入れるなら、「黄色」であれば、皆さんも抵抗感なく受け入れてくれるかと…。―業務上の要請で、「掛け紙」のデザインを変更することも多いんですか?
よくあります。
例えば、大船軒の包装では、製造日時などのシールを貼る部分に「線」を入れています。
実は1枚1枚手作業で貼っています。
これも現場の方から、きれいに貼りたいので、貼りやすい場所に、程よい太さで線を入れてほしいという、アツい要望があって入れるようになったんです。
以来、掛け紙を作るときは、シールを貼るスペースを作ってデザインしています。
―最近は「掛け紙」にシールを貼った駅弁が多いのはなぜですか?今の掛け紙には、価格が載らなくなりました。
実はコレ、デパートさんやスーパーさんなど、駅弁の納品先によって内税であったり、外税であったりするため、表記の価格が若干変わったりするんです。
そこで最近では、価格と消費期限をセットにして、幅広く対応して動かしやすいよう、本体とは別に、シールなどで表記していくケースが増えているんです。―歴史ある駅弁をリニューアルしていくときって、プレッシャーのようなものはありませんか?
駅弁が持っている魅力を損なわないことが大事なので、私の個性を加えるよりは、元の良さを引き出すようにしています。
リニューアルは、ちょうど「子育て」と一緒なんです。
子どもの持っている特性を活かして伸ばすという意味で。
“毒親”にはならないように頑張らないと…という感じですね。―小川さんの「掛け紙づくり」のこだわりって何ですか?
まずは「食べる」ことです。
その食べたときの印象を大事にしようと思っています。
新作であれば試食、リニューアルであれば、いまあるものを「食べて」考えます。
食べたときの味の印象や、作っている方の「ねらい」を聞いて、それを自分のなかで“咀嚼”して、デザインに落とし込んでいく作業をしています。
その上で、会社としては「ミスを起こさない」ことが求められます。
例えば、原材料の表記1つでも、一言一句、製造部門、営業部門などそれぞれの部署から、社員5~6人で何重にもチェックします。
作り直すたびに、原材料はあっているか、誤字脱字は無いか、丁寧に確認作業を行います。―15年以上、駅弁の掛け紙に携わって「変化」も感じますよね?
昔は中身が分かるとか、見た目が素敵、インパクトとか、感覚的にデザインされてきた掛け紙ですが、いまはどちらかというと、お客さまの健康や権利も守るといった点もケアすることが求められるようになってきています。
掛け紙もより高度な要求に応えられるよう、進化を遂げていく必要があると思っています。掛け紙自体、戦時中は戦争のスローガンが刷り込まれたり、戦後は「ゴミはゴミ箱へ」といった案内が入ったりするなど、それぞれの時代を反映したものになっているんですよね。
JRになってからも30周年であれば30周年のロゴが入りますし、税金が上がれば反映されますし、その意味でも、駅弁の掛け紙は「時代を映し出す鏡」なのかなと思います。
(大船軒・小川英恵さんインタビュー終わり)
創業120周年の「大船軒」で、11/4(日)まで開催されているのが「秋の創業祭」。
これに合わせて、明日(10/20)まで大船・鎌倉・逗子の各駅をはじめとした売店で販売されているのが、「鯵の押寿し(3貫)」(120円)です。(個数限定、1人2個まで、売切れ次第終了)
120周年記念で、あの「鯵の押寿し」が3貫「120円」と、破格の値段!!
また21日・日曜日には、大船駅近くの「大船軒」本社駐車場で、今年で5回目を迎える「鯵祭(あじまつり)」も開催され、この会場でも販売が予定されています。(整理券配布10:30~)
お近くの方は、ぜひ足を運んでみて下さい。
なお、「鯵祭」の模様は、週明けの「駅弁膝栗毛」でもお届けしますのでお楽しみに!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/