【ライター望月の駅弁膝栗毛】
神奈川県の大船~久里浜間を結ぶJR横須賀線。
横須賀線の列車は、古くから東海道本線への直通運転が行われてきました。
平成13(2001)年からは「湘南新宿ライン」の愛称で、逗子から新宿経由で東北本線方面へ直通運転も行われており、一部の列車は大宮以北で快速運転も行っています。
また、「湘南新宿ライン」では多くの列車が15両の長い編成で運行されています。
そんな横須賀線が分岐する大船を拠点にしている駅弁屋さんが、今年(2018年)で、創業120周年の節目を迎えた「大船軒」です。
ココで掛け紙のデザインを担当しているのが、社員の小川英恵(おがわ・はなえ)さん。
芸術の秋にふさわしく、駅弁のアート“掛け紙”のアレコレを小川さんに伺う、第2弾です。
―1つの掛け紙を作るのに、どのくらいの時間をかけますか?
長いもので3か月、短いのでは1週間という駅弁もあります。
3か月かかったのは、他の会社さんとのコラボ駅弁だったと思います。
長くかかる理由は、絵づくりでというよりも、関係各所さんとの調整に時間がかかります。
先方さんからのアイディアをいくつも試作した上で、やり取りをしながらデザインを決めていきますので、その分、出来上がるまでに時間もかかるんです。―自分では納得のいくデザインを作ったつもりが、思わぬ修正を迫られた経験は?
昔は列車関係の記念弁当を出すときに、自分で列車の写真を撮りに行くことがありました。
例えば、(東海道本線)戸塚の大きなカーブに重たいカメラを持って行ったこともあります。
以前、成田エクスプレスがブルーリボン賞を獲ったときに出した記念弁当があるんですが、このときに掛け紙に使われた写真は、私が撮った写真でした。
ただ、自分で撮った写真で作った掛け紙をJRさんや鉄道関係者の方の所へ持って行くと、「写真」にこだわりがある方が多いので、イロイロ仰っていただいたこともありました。
―鉄道写真って、撮ってみて初めてわかることもありますよね?私も最初は分からなかったので、普通に「いい顔」の列車写真を撮ろうとしていました。
でも「列車の写真は編成の最後まで入らないとダメ!」とか、赤いランプが光った写真を見て、「後ろ姿を撮るんじゃなくて、前から来るやつを撮ったほうがいい!」とか、いろいろ教えてもらって勉強になったなぁと思います。
ちなみにいまは、写真が必要なときはJRさんから許諾を受けたものを提供してもらえるようになりました。―大船軒の駅弁は、昔ながらの「なかが見えない」掛け紙が多いと感じていますが、その分、掛け紙のデザインが売れ行きに直結する訳ですよね?
だからこそ、「なかが見えなくても、なかが分かる掛け紙」を意識して作っています。
掛け紙というものは、中味からあまり離れすぎてしまうと分からなくなってしまいますし、「美味しいお弁当だ」ということが分かってもらえるのが前提ですからね。
大船軒は製造部門の方も近くにいるので、意見を交わしたり、試作を見せてもらって掛け紙を作っています。―最近の駅弁における、掛け紙の傾向はありますか?
最近の傾向としては、写真を多く使うようになりました。
駅弁の売り場から「中味が分かる写真を使ってほしい」という要望がよく来るんです。
それといいますのも、最近の駅弁売り場は、従来の対面販売と変わって、スーパーのような陳列ケースのある、大きな売り場が増えました。
このため、説明しないと分からない駅弁よりも、見た目で分かる駅弁のほうが手に取っていただきやすい…ということになるんです。
最近の大船軒の駅弁では「しらす弁当」(1,000円)にも写真が入りまして、お客さまからも選びやすくなったという話を伺っています。【お品書き】
・白飯
・しらす胡麻油炒め
・桜海老
・いくら醤油漬け
・あおさ海苔
・煮物(椎茸、人参、竹の子、高野豆腐)
・大根漬―「しらす弁当」の包装には、絵も入りましたが、これはどうしてですか?
最近は他社さんも、しらすの弁当を出されるようになってきました。
そこでリニューアルに当たって、前のイメージを踏襲しながら、海外からのお客さまにも「しらす弁当」を手に取ってもらいたいということを意識して、広重の東海道五十三次をモチーフにした絵を入れました。
合わせてスリープ式の包装も、丸い切れ込みが入ったものを使うことで、お客さまに箸が入っていることが分かりやすくしています。―大船軒の「しらす弁当」は、ごま油の風味が食欲をそそりますよね!
「しらす弁当」は平成18(2006)年から販売していますが、当時、製造部長だった方が、鯵の陸揚げ現場で、魚の美味しい加工方法について見聞きしたことから着想し、試行錯誤を経て、“しらすをごま油で炒める”という調理法を生み出しました。
これをベースに、社内でも容器の形やおかずなど、様々なチャレンジをしている駅弁です。
「しらす弁当」は、大船軒の鯵に続く“目玉”として育てたいという意気込みで作っています。
(大船軒・小川英恵さんインタビュー、つづく)
湘南・鎌倉エリアの名物「しらす」。
鎌倉や江の島周辺の人気店では、行列が出来て生しらすや釜揚げしらすの丼が飛ぶように売れていきますが、保存が効くことを第一とする大船軒のしらす駅弁では、ごま油の風味が「しらす」の味を引き立てています。
生や茹でたてにはない「しらす」の魅力を、ぜひ駅弁で味わってみてはいかがでしょうか。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/