【ライター望月の駅弁膝栗毛】
行楽の秋、横須賀線で鎌倉方面へお出かけの方も多いですね。
東京・千葉・埼玉方面からは乗り換えなし、西からの方は大船で乗り換えて2駅。
そんな大船・鎌倉・逗子など、各駅で販売されているのが「大船軒」の駅弁です。
「大船軒」は、今年(2018)年で創業120周年を迎えた老舗の駅弁屋さん。
実はこの「大船軒」に、全国でも珍しい「掛け紙デザイナー」の方がいらっしゃいます。
小川英恵(おがわ・はなえ)さん、東京都出身。
小さい頃から、食べることと、絵を描くことが大好き。
美術系の大学を卒業後、大手食品メーカーの開発部で商品デザインに携わっていました。
結婚をきっかけに神奈川へ移り、平成11(1999)年に大船軒入社。
平成12(2000)年から、大船軒の駅弁の掛け紙のデザインを担当されています。
―「大船軒」に入られたきっかけは?
子育てで神奈川へ来て、近くの「大船軒」がデザイナーを募集していたことがきっかけです。
それまで、掛け紙は外注していたようですが、よりスピーディーに対応できないかということでデザイナーの募集がかかったようです。
私自身は前職で、Macでデザインを制作していましたので、入社の際にパソコンを入れてもらって、以来、大船軒の駅弁の掛け紙は主にCGでデザインしています。―最初に作られた「掛け紙」は?
最初に作ったのが「鯛ごはん」の掛け紙です。
薄い和紙の表と裏、両方に刷ったもので、裏にはすごろくを付けたものです。
2000年4月10日の「駅弁の日」に合わせて販売したいということで作りました。
―初めての「掛け紙」を作ってみて、いかがでしたか?駅弁って、本当に自由だなぁと思いました。
それまで大手食品メーカーでデザインをやっていたので、駅弁のデザインをするとなったときに、「紙の質とかも選んでいいよ」と云われたので、それにとても驚きました。
折箱の形、掛け紙の質、綴じる紐の色など、ものを作ることに対する自由度が高くて、「駅弁作りって、とても楽しいなぁ」と感じました。―駅弁って中味が先にできるんですか、それとも掛け紙が先にできるんですか?
中味と掛け紙は、どちらが先ということは決まっていません。
並行で進んでいくこともよくあって、実際に「鯛ごはん」のときも並行でした。
「鯛ごはん」は茶色いご飯なんですが、彩りが素朴で可愛らしくて、温かみや手作り感もありました。
比較的早い段階から試作を見せていただけたので、デザインを手掛ける上で、とてもイメージしやすくて、いくつか案を作らせてもらって、その中から絞り込んでいきました。―「すごろく」が付いた掛け紙、私も憶えていますが、あれも小川さんのアイディアですか?
「せっかくなら裏面もやりましょう!」となって、「すごろく」を付けることになりました。
いま思うと、結構ざっくりしたものだなぁと思うんですが、当時は買ったお客さまが、列車のなかで召し上がるときに、路線図があったらいいよねという思いから作ってみたんです。
ただ、他の社員から「いまはあまり列車のなかでは食べないけど、雰囲気は楽しめていいよね」と云われて、それまで私が「駅弁」に抱いていたイメージと、実際の「駅弁」は違うものなんだなぁと感じて、とてもいい経験になったという記憶があります。―いまでは、季節で掛け紙を変える駅弁もありますよね?
「つまんでよし、食べてよし 酒肴弁当」(1,100円)は、年間で3つの掛け紙があります。
通常バージョンと春の桜バージョン、そしていまは、秋の紅葉バージョンです。
(9月1日から12月上旬ごろまでの予定)
その名の通り、お酒に合う駅弁として開発されましたが、「お酒以外でもイケますよ!」ということで、「つまんでよし、食べてよし」という名前が付きました。―この駅弁の掛け紙には、温かい雰囲気の人が描かれていますよね?
最初、描いたときには「オジさんじゃん!」と云われたんですが、私のなかでは仕事が終わって、東海道線や横須賀線で「お疲れさま!」という感じで一杯やってるお父さん…。
あのイメージがあったので、“オジさん”で押し通させてもらいました。
このオジさんも春になればお花見はするでしょうし、秋は行楽で出かけたりする訳で、その意味ではいろんなシーンに、この“酒肴オジさん”はいると思います。
女性の方でも隣にいる方がこんな感じだったり(心のなかにはこんなオヤジがいたり?)、いろんな想像をして、召し上がっていただけたらなぁと思います。
(大船軒・小川英恵さんインタビュー、つづく)
【お品書き】
・中巻き
・細巻き(かんぴょう、沢庵、鮭そぼろ)
・押寿し3種(マス、小鯛、穴子)
・あぶり〆鯵
・ひじき煮
・チャーシュー
・アイガモスモーク
・かまぼこ
・スモークチーズ
・煮物(里芋、椎茸、竹の子、人参、高野豆腐)
・ポテトサラダ
・玉子焼き
・大根漬
仕事が終わった後のおつまみ駅弁としてはもちろん、普通の幕の内系駅弁としても楽しめる、「つまんでよし、食べてよし 酒肴(しゅこう)弁当」。
鎌倉の歴史散歩を楽しんだ後、心地よい汗を拭きながら、横須賀線のグリーン車に揺られて、この駅弁で一杯やりながらいただくのが、最高のシチュエーションかもしれません。
いただいた後にはきっと、掛け紙のオジさんのような笑顔になっていることでしょう。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/