【ライター望月の駅弁膝栗毛】
2017年秋から週末を中心に土讃線・高知~窪川間で、1日1往復運行されているJR四国の観光列車「志国高知 幕末維新号」。
龍馬の脱藩ルートと一部が重なる、高知10:14発の下り列車は「龍馬立志の巻」と命名され、途中、佐川、須崎、土佐久礼の3駅に停まり、ビューポイントでの徐行を繰り返しながら、およそ2時間半をかけて、のんびりと終着・窪川を目指します。
幕末維新号は、乗車券に指定席券(520円)のプラスで乗車できる全車指定のトロッコ列車。
トロッコ車両のキクハ32形に乗車できるのは途中の伊野~土佐久礼間で、その他の区間は、一緒に連結されているキハ185形の座席車を利用します(2両とも座席番号は共通)。
そんな座席車の予約が入っている席の窓枠に、手作りの花が飾りつけられていました。
このような車内の装飾を手掛けたのは…?
土讃線沿線にある「高知県立伊野商業高校」のキャリアビジネス科ツーリズムコースに通う「生徒の皆さん」なのです。
伊野商業というとライオンズファンのおじさん世代にとっては、1985年・春のセンバツで優勝、88年のドラフト1位で活躍した渡辺智男投手の母校という印象しかなかったのですが、実は2012年から単位制・コース制のキャリアビジネス科が設けられ、去年から「幕末維新号」で、ツーリズムコースの皆さんによる車窓ガイドや車内販売が行われているんですね。
※生徒の皆さんが乗車しない日は、地元の「佐川くろがねの会」の皆さんが乗車します。
生徒の皆さんが案内を行うのは、トロッコ車両に乗車する伊野~土佐久礼間。
芋けんぴやぼうしパン、ドリンクも「ごっくん馬路村」をはじめとした高知のご当地名物は勿論、ビール・日本酒などのアルコール類も販売しています。
各座席の壁面には、車販メニュー表がマグネット付きのクリップで据えつけられており、風が吹きこむトロッコ車両ならではのひと工夫も施されています。
全国的に観光列車ではおなじみの乗車記念撮影用ボードも、生徒の皆さんが乗客1人1人に声をかけて、それぞれのスマートホンやカメラで撮影していきます。
龍馬とツーショット写真が撮れるのも、「幕末維新号」ならではのアイディアですよね。
ちなみに、今季の乗務に当たっては、8月に多度津~大歩危間で運行されている観光列車、特急「四国まんなか千年ものがたり」で研修を行ったそうです。
車内では沿線の案内だけでなく、生徒さんを中心に幕末・維新にまつわる歴史クイズ大会が行われたり、須崎市のゆるキャラ・しんじょう君のダンスを生徒の皆さんが披露。
所々にあるトンネルでは、カウントダウンによる盛り上げも行われます。
鉄道ならではの広い空間、ゆっくり走る列車だからこそ出来るおもてなしがいっぱいです。
指定席券に記載された座席番号を使った車内抽選会では、地元のお菓子をプレゼント。
幸運にも当選しまして、いただいた景品には中岡慎太郎のイラストが描かれていました。
そんな高校生の皆さんが企画から関った、「幕末維新号」の新作限定弁当が9月から登場。
坂本龍馬の初恋の相手とも云われる平井加尾にちなんだ「加尾の彩り御膳」(2,000円)です。
コチラも前回の「龍馬のお弁当」と同様、土佐市にある「魚菜 稲月(うおな・いなつき)」が製造、「仁淀ブルー観光協議会」が乗車4日前まで電話予約を受け付け、販売しています。
この限定弁当とお金の引き換えも、高校生の皆さんが担当しています。
※仁淀ブルー観光協議会(電話:0889-20-9511、受付時間10:00~16:00、土日祝日除く)
【おしながき】
(上段)
・鯨のカツ赤ワインソース
・うるめいわしの蒲焼き風
・炊き合わせ4種
・トマトの寄せ
・豚の角煮
・笹カスタード
・彩葉紅葉
・抹茶葛餅
・柿の葉饅頭
・リンゴのタルト
(下段)
・鰹そぼろ入り五目寿司
・生姜おかかのまぜ御飯
・梅じそ生姜の小巻寿司
・烏賊の柚子味噌和え
・牛肉の牛蒡巻き
・さつまいもの甘露煮
・鮎の塩焼き
・ウツボの唐揚げ
・トマトの寄せ
・甘酢蓮根
乗車していた生徒さんにお話を伺いましたら、「龍馬のお弁当」を試食した際、女性にとっては、少し量が多かったり、おかずのサイズが大きいという印象を持ったそうです。
そこで「加尾の彩り御膳」では、巻き寿司などを取り入れ、女性でも食べやすいサイズに改良したり、見た目の華やかさも意識して、季節に合わせたスイーツを取り入れたといいます。
鰹、鯨などの高知らしい食材も入りながら、2段重のおよそ4分の1がたっぷりスイーツ!
“彩り御膳”の名にふさわしく、若い皆さんのキラキラ感溢れるお弁当に仕上がっています。
キラキラのお弁当でお腹を満たした頃、陽光にキラキラ輝く太平洋が車窓に広がりました。
ここがトロッコ区間のクライマックス、土讃線・安和(あわ)駅付近。
「幕末維新号」もしばしの間停車、のんびりと潮騒に耳を傾けていると、正午を告げる自治体のサイレンの音が鳴り響きます。
龍馬の「日本を今一度洗濯いたし申し候」という言葉が有名ですが、黒潮洗うこの車窓は、“人生を今一度洗濯くれそう”な美しい眺め。
仁淀ブルーに始まり、太平洋で〆る「幕末維新号・龍馬立志の巻」は癒しの旅でもあります。
「志国高知 幕末維新号」は高知から2時間半弱をかけ、土讃線の終点・窪川駅に到着。
そのまま、予土線の観光列車「しまんトロッコ」へ乗り継げるダイヤも魅力です。
「幕末維新号」も14時過ぎの折り返しまで、しばしの休憩に…。
高校生の皆さんもトロッコ区間が終わると、行きでの問題点を洗い出し、帰りに備えます。
車内販売の品揃えなども、このフィードバックからブラッシュアップしているのだそう。
「幕末維新号」は営業列車ながら、れっきとした“学びの場”にもなっているんですね。
私が乗車した日は、首都圏や関西圏など都市部のお客さんも多かった「幕末維新号」。
土佐の豊かな自然、素朴で温かいおもてなしに、きっと満足度も高かったことでしょう。
まだまだ粗けずりながら、伸びしろはたっぷりの高校生の皆さん。
弁当開発をはじめ、2年目の観光列車をどう磨きをかけていくのか、先輩から後輩へどう受け継いでいくのか、そして地元の方を巻き込んで、高知へ人をどう呼び込んでいくのか?
これからがとても楽しみな観光列車に出逢うことが出来ました。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/