【ライター望月の駅弁膝栗毛】
海岸まで迫る山裾にへばりつくように通る、非電化単線のローカル線。
そんなローカル線の小さな駅に、カラフルな2両編成の気動車がやって来ました。
この列車は、愛媛県のJR予讃線を走る観光列車「伊予灘ものがたり」。
週末を中心に、松山~伊予大洲・八幡浜間で1日2往復が運行されています。
全国各地で花盛りの観光列車の中にあって、ひと際高い人気を誇ります。
「伊予灘ものがたり」は、全車指定・グリーン車の普通列車。
このため、乗車券に「普通列車用グリーン券」(980円)をプラスするだけで乗車出来ます。
車両は、普通列車用のキハ47形気動車を改造して生まれたキロ47形。
1号車(手前)が「茜の章」、2号車が「黄金の章」と銘打たれ、車内はレトロモダンな内装に4人用のボックスシート、2人用の対面シート、1人でも楽しい展望シートが並びます。
「伊予灘ものがたり」の目玉は、何といっても車窓いっぱいに広がる伊予灘!
向井原~伊予長浜間を中心に伊予灘がよく見える区間では、列車もゆっくり走るほか、途中の下灘駅では10分前後の停車時間も設けられています。
こうしたダイヤが組めるのは、松山以遠の予讃線が、国鉄末期に出来た内子回りの短絡線と、伊予長浜回りの旧線に分かれており、宇和島方面の特急列車は内子経由で運行。
「伊予灘ものがたり」が走る伊予長浜回りの線路は、普通列車が1~2時間に1本程度走るローカル線となっているため、ゆったりとした列車が運行できるのです。
この美しい伊予灘を眺めて楽しみたいのが、「伊予灘ものがたり」名物の食事!
「伊予灘ものがたり」には、朝、松山発伊予大洲行で運行される「大洲編」、その折り返しの「双海(ふたみ)編」、午後に松山発八幡浜行で運行される「八幡浜編」、その折り返しの「道後編」と4つのバージョンがあり、それぞれで出される食事が異なります。
「大洲編」では、地元野菜をふんだんに使ったモーニング(2,500円)が楽しめます。
【キューブパンでモーニングプレート】
・ぱんやさんRinよりこだわりの国産小麦使用「さつま芋と黒ゴマのキューブパン」
さつま芋の揚げスティック マスカルポーネ はちみつ
・かぼちゃのクリーミースープ かぼちゃの種
・秋の吹き寄せ風
ローストビーフサラダ 自家製ドレッシング
契約農家奥村さんの安心安全な生野菜サラダ
自家製ローストビーフ
紅花卵卵のスクランブルエッグ トマトソース
秋茄子と柿のソテー
かぼちゃのハニーバルサミコソテー
舞茸と蓮根チップス
季節のフルーツ2種
・ホットコーヒー
このモーニングを手掛けたのは、松山市内の「ヨーヨーキッチン!」というお店。
今回のこだわりは、「さつま芋と黒ごまのキューブパン」なのだそう。
契約のパン職人さんが、「冷めてもおいしく」食べられるよう、国産小麦を使ったオリジナルの配合で焼き上げてくれたといいます。
駅弁とは違うジャンルではありますが、“冷めても美味しい”という列車の食事ならではのこだわりに、「伊予灘ものがたり」への強い思い入れを感じずにはいられませんよね!
食後は朝日に輝く伊予灘と、瀬戸内の島々を眺めながら、のんびりモーニングコーヒー!
コーヒーは、食事を頼んだ方・1人1人に違うデザインのカップで出されます。
そんなところでも、とても優雅な気持ちになれるもの。
「ティファニーで朝食を」という物語がありますが、“キハに(~)て朝食を”楽しめちゃうのが、「伊予灘ものがたり」なのです。(正確にはキロですが…)
松山から伊予大洲までは、「伊予灘ものがたり」でおよそ2時間の旅。
大洲といえば、やっぱり平成16(2004)年に復元された「大洲城」は訪れたいものです。
大洲城は昔の資料が充実していたこともあって、建築基準法の適用を除外させて、戦後初めて、当時の工法によって復元された木造のお城なのです。
しかも、この天守からは…?
予讃線の列車もバッチリ見られます。
眼下を流れる肱川(ひじかわ)の鉄橋を渡っていくのは、キハ32形気動車の普通列車。
もちろん、この区間のエース・特急「宇和海」や午後の「伊予灘ものがたり」も見られます。
特に「伊予灘ものがたり」の時間は、本丸で地元の皆さんが旗を振って歓迎が行われており、列車運行日の午後3時台と4時台、一般の方でも無料で旗振りに参加できます。
「伊予灘ものがたり」の食事は、東京の駅でもJR東日本のみどりの窓口・びゅうプラザなどで、乗車日の1ヶ月前から4日前までに「食事予約券」を購入することで楽しめます。
松山駅を朝8時25分に発車する「大洲編」は、松山周辺で泊まって乗るのが一般的。
例えば、道後温泉の宿で素泊まりして、本館の1番風呂を楽しんで早めのチェックアウト。
8時過ぎに松山駅にやってきて、「伊予灘ものがたり」でモーニングもアリでしょう。
次回は、この折り返し列車「双海編」をお楽しみに!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/