仙台駅「独眼竜政宗瓣當」(1,050円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.12「こばやし」編(3))

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】

HB-E210系 仙石東北ライン 特別快速 石巻行 東北本線 仙台 東仙台 駅弁

HB-E210系・仙石東北ライン特別快速石巻行、東北本線・仙台~東仙台間

仙台駅弁「こばやし」の本社は、駅近くの東北本線と仙山線に挟まれた所にあります。
東北本線の線路にほぼ毎時1回のペースで、ディーゼルエンジンの音と共に顔を出すのが、仙石東北ラインのハイブリッド車両・HB-E210系です。
平成27(2015)年に運行を開始した仙石東北ラインは、東北本線と仙石線の直通サービス。
最も速い「特別快速」は、仙台~石巻間を52分で結び、スピードアップに貢献しています。

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株式会社「こばやし」本社

「こばやし」本社の玄関に掲げられているのは、昭和50(1975)年から、40年以上にわたって「こばやし」のイメージキャラクターを務める、小林亜星さんをキャラクター化したマーク。
当時、TVドラマ「寺内貫太郎一家」などで人気を博していた亜星さんに、同姓のよしみから、代理店を通じてキャラクター就任を依頼、快諾いただき、CMソングも作っていただいたそう。
CMソングはいまも年末のおせちや春の花見シーズンなどに、仙台ローカルで流れるそうです。

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株式会社「こばやし」・小林蒼生代表取締役

亜星さんのマークと共に「こばやし」のトップに立って30年、小林蒼生(こばやし・しげお)代表取締役が指さすのは、伊達家ゆかりの松島瑞巌寺百二十八世、加藤隆芳氏の揮毫による「政宗瓣當」の文字です。
仙台駅弁・株式会社こばやしを特集している「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第12弾、今回は、仙台の看板駅弁の1つ、「独眼竜政宗瓣當」(1,050円)の製作秘話を伺います。

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仙台駅(2007年撮影)

―昔から仙台の駅弁は2社体制、JRになってからは3社、いまは仙台にも「駅弁屋 祭」があるので、競争が激しいですよね?

それぞれの会社が「負けたくない!」と思いますから、競争が激しくなります。
このため、常にタイムリーな弁当を出すことを心掛けています。
苦い思い出があります。
1980年代、他社さんが「はらこめし」(注)にちなんだヒット商品を出されました。
じつは同じ頃、こばやしでも同じような商品を考えていたんです。

(注)「はらこめし」…宮城県亘理町発祥とされる、鮭といくらの郷土料理。


―「こばやし」でも、「はらこめし」…出していたんですか?

しかし、先代の社長である亡くなった母が、鮭といくらを使って作る「はらこめし」は、秋の食材なので、秋に鮭が揚がって来るのを待って売ろうと言いました。
そのうちに他社さんが「はらこめし」を出されて人気を博してくると、こばやしが秋に出しても、もう二番煎じでしかなくなってしまい、「やられた!」と…。
私は本当に悔しくて悔しくて仕方なかったんです。

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伊達政宗騎馬像(2012年撮影)

―その悔しさ、ドコにぶつけたんですか?

そんな折、仙台を舞台にした大河ドラマの制作が決まったという情報が入りました。
仙台が舞台の大河ドラマと言えば、伊達政宗だろうということで、ひそかに準備を進めました。
そして昭和62(1987)年の大河ドラマが「独眼竜政宗」に決定と報じられた段階で、「それイケッ!」と開発に入りまして、放映半年前、昭和61(1986)年の夏から「独眼竜政宗瓣當」の販売をスタートさせました。
「はらこめし」の教訓がここに活きることとなりました。
やっぱり、複数の駅弁屋さんが入っている駅では「先に売らなきゃダメ」、これが鉄則です!

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旧バージョンの独眼竜政宗瓣當(2004年、筆者撮影)

―「独眼竜政宗瓣當」、どうやって作っていったんですか?

「独眼竜政宗瓣當」を作る際は、米沢で生まれ、岩出山で育ち、仙台と移ってきた伊達政宗の人生を反映させて、その土地の名物を使ったストーリー性のある弁当に仕上げました。
最初は2段重ねの弁当でした。
2段重ねにしたのは、じつはヒントにした駅弁があります。
小淵沢駅弁「丸政」さんの「元気甲斐」です。


―TV番組「愛川欽也の探検レストラン」でできた「元気甲斐」…どうしてヒントに?

実は私、「元気甲斐」という駅弁が大好きなんです。
「元気甲斐」の製作プロジェクトはTVでも見ていましたし、発売日は愛川欽也さんやプロジェクトのメンバーが小淵沢駅に集まったんですが、あの現場に私も行っていたくらいなんです。
あれだけ1つ1つのおかずに手間をかけて、1つの駅弁を作り上げていった様子を見ていて、私もストーリー性のあるしっかりとした駅弁を作りたいという思いを強くしていました。
そこで「丸政」の先代の社長さんに「2段重ねのアイディアをいただきたい」と断りを入れて、承諾していただき、出来たのが「独眼竜政宗瓣當」なんです。

(株式会社「こばやし」・小林蒼生代表取締役インタビュー、つづく)

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独眼竜政宗瓣當

昭和61(1986)年の発売から30年あまり、仙台駅では有数のロングセラー駅弁となっている「こばやし」の「独眼竜政宗瓣當」。
2000年代に入ってリニューアルされ、現在は1段の弁当となっています。
でも、瑞巌寺・加藤氏揮毫の書はそのまま、瑞巌寺所蔵の木像(宮城県重要文化財)を複写して描かれた政宗公もそのままの掛け紙が掛けられています。

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独眼竜政宗瓣當

【お献立】
・おむすび(白飯、くるみおこわ、味噌)
・焼き魚(銀鮭照り焼き)
・笹かまぼこ
・しそ味噌巻
・鶏照り焼き
・梅れんこん
・煮物(帆立、人参、たずな蒟蒻、ごぼう、絹さや)
・牛肉甘辛煮
・こごみのごま和え
・紅大根
・仙台長茄子
・栗
・銀杏

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独眼竜政宗瓣當

ラジオ番組同様、基礎となるコンセプトがしっかりしている駅弁は残ります。
米沢の牛、岩出山のしそ巻き、仙台の笹かまなど、1つの折で旅気分も味わえます。
大河ドラマ駅弁は毎年、各作品のご当地に登場しますが、30年以上残る駅弁は珍しいもの。
ちなみに、仙台が舞台の大河ドラマには、昭和45(1970)年の「樅ノ木は残った」もあります。
じつはこのときも、他社に「樅ノ木弁当」という駅弁を先に出されてしまい、まだ学生だった小林社長は、対抗できる術もなくて、本当に悔しい思いをされていたのだそうです。
その意味では、17年分の悔しさが1つの作品となって爆発したのが「独眼竜政宗瓣當」。
政宗公の天下取りへの思いと小林社長の駅弁への思いをオーバーラップさせていただくと、より一層、味わい深くいただくことが出来るでしょう。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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