【ライター望月の駅弁膝栗毛】
雪に覆われた水田地帯のなかを走り抜けるE3系新幹線電車の「つばさ」号。
フル規格の新幹線では、高架やトンネルの区間が長い上、線路もコンクリートで固められ、スプリンクラーが設けられたり、除雪もしっかりと行われてしまいます。
じつは雪のなかに伸びる2本のレールの上を新幹線車両が走る風景は、山形・秋田のいわゆる“ミニ新幹線”の区間ならではの風景なんです。
そんな「つばさ」号のお供・米沢駅弁を手掛けて120年、株式会社「松川弁当店」の林真人代表取締役にお話を伺っている「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第14弾。
林社長が掲げるのは、毎年秋に行われている「駅弁味の陣」で、2014年に「米澤牛焼肉重松川瓣當」(1,600円)で、見事トップの「駅弁大将軍」に輝いた際の記念の盾です。
今回は、バリエーション豊かな「米沢牛」の駅弁について、お話を伺いました。
●驚愕! およそ3分に1回、商品が変わる製造ライン!!
―今回、駅弁の製造ラインを見せていただいて驚いたのは、およそ「3分に1回」くらい、作る弁当の種類が変わっていたことなんですが、本当に駅弁の種類が多いですよね?
駅弁は「登録制」ですので、「松川弁当店」では1度登録したものをずっと残しています。
お客様には、高級な弁当が欲しいという方も、1,000円前後までという方もいらっしゃいますので、多彩なラインナップのなかからお選びいただけるようにしています。
作り手としては大変ですが、弁当作りでは(製造する駅弁の)切り替えがいちばんカギでして、1人遅れると他に波及しますので、スタッフのチームワークが大事になっています。
―どうして新商品を作り続けるんですか?「牛肉道場」のようなスタンダードな商品が長く売れてくれることは、とてもいいことです。
でも、新商品は作り続けないと、もしも定番がダメになってしまったときのリスクがあります。
お客様からもよく「新しいのは無いの?」と訊かれますし、電話で会社にお問い合わせをいただくこともあります。
やっぱり、お客様のニーズに応えて行くのは、我々の宿命だと思っています。
●良質な米沢牛をまとめて仕入れ、手ごろな価格でお客様へ!―林社長の代になって「松川弁当店」は、米沢牛の駅弁が増えたように感じますが?
じつは「米沢牛」をパーツ買いするようになったことと関係しています。
それまではスライスされたものを仕入れていたんですが、パーツで仕入れたものを「松川弁当店」のプロの職人が切り分けるようにしました。
例えば、「米沢牛炭火焼特上カルビ弁当」の肉を切り分けますと、そのほかの肉がありますので、その肉をほかのステーキなどに使うことでバリエーションが増えているんです。
―自社で加工するメリットは、どんなところにありますか?自社でこれをやらないと、とてもこの価格で米沢牛の駅弁をお出しすることはできません。
スライス肉を仕入れると、おそらく2,500円くらいの駅弁になってしまうと思います。
駅弁屋で職人がいて、手切りで肉を切り分けている所は少ないのではないかと思います。
以前、スーパーで肉のバイヤーを務めていた方に、「松川弁当店」に入ってもらいました。
肉の仕入れから加工まで厳しい目で見てもらい、いい商品にすることができています。
●米沢の風土が育む米沢牛!―2000年代に入って、米沢牛も「ブランド」が厳しく管理されるようになりましたよね?
「松川弁当店」では、米沢牛の個体識別番号を記録しています。
また、どの牛の肉がどの弁当に使われたかということも記録しています。
加えて、他の牛肉と混ざってしまうことを避けるため、「米沢牛」とほかの黒毛和牛の日で、「仕込みの日」を変えているんです。
牛肉の「入と出」は、しっかり管理しています。
―改めて「米沢牛」のいいところって、どんなところですか?飼育環境がいいことだと思います。
米沢は春夏秋冬、四季がはっきりしています。
特に寒いときは、牛が脂をためることができます。
このいい風土を活かして、いかに美味しいものをお客様に提供できるか、それが私たちの仕事だと思っています。
(松川弁当店・林真人代表取締役インタビュー、つづく)
老舗駅弁屋さんの駅弁への「自信」を推し量るときの1つの基準に「掛け紙」があります。
自信があり、お客様との間に信頼関係のある駅弁なら、まずなかを見せません。
およそ120年前、奥羽本線開通時の立売をイメージしたというレトロな掛け紙に加えて、自社の名前「松川」の名を冠した駅弁…。
この駅弁を初めて手にしたとき、「究極の自信作を出して来た!」と感じた記憶が甦ります。
【おしながき】
・白飯(山形県産はえぬき)
・米沢牛焼肉 にんにくの芽
・米沢牛肉団子
・赤かぶ酢漬
・醤油漬
焼肉と肉団子、2種類の米沢牛の味が楽しめる「米澤牛焼肉重松川瓣當」。
掛け紙を外して、ふたを開けた瞬間から香ばしい焼肉の香りが漂い、いただいて幸せな気持ちになれる駅弁の1つです。
「駅弁膝栗毛」のヘビーな読者さんならお気づきと思いますが、特に「肉を焼く」調理は、各社さんシークレットな部分が多く、それゆえに店の実力が大きく出る部分です。
秘伝のたれを絡めて香ばしく焼いたという米沢牛の焼肉駅弁に自社名を冠し、なかを見せず、加熱式も使わずに売り出しただけで、大きな自信が感じられるもの。
その自信は、“駅弁大将軍”という高評価を受け、松川弁当店の誇りへと昇華しました。
次回以降も、松川弁当店・林社長にまだまだお話を伺って行きます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/