【ライター望月の駅弁膝栗毛】
東京と山形を結んでいる山形新幹線「つばさ」号。
福島までは多くの列車が「やまびこ」号と併結されて東北新幹線を走り、福島から標準軌(1,435mm)に改軌された奥羽本線に入って、山形・新庄方面を目指します。
福島から高架を下りて庭坂を過ぎると、右に大きくカーブを描いて板谷峠越えへ。
この山へ分け入って行く「つばさ」号が、山形新幹線ならではの旅情を誘ってくれます。
「つばさ」号が山形県に入って最初に停まる駅・米沢。
この米沢駅で、奥羽本線が開業した明治32(1899)年から構内営業を手掛け、今年(2019年)で創業120周年の節目を迎えるのが、株式会社「松川弁当店」です。
駅弁膝栗毛のシリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第14弾は、米沢駅から車で5分あまりの所にある松川弁当店の厨房にお邪魔しました。
米沢市のアルカディア地区にある「松川弁当店」の工場。
平成20(2008)年に、市内2ヵ所にあった工場を集約して、1日最大30,000個の駅弁を生産可能な工場として作られました。
この日も製造レーンでは、自慢のご当地ブランド・米沢牛を使った駅弁を生産中。
今回は「米沢牛炭火焼特上カルビ弁当」(1,600円)の製造風景に密着します。
炊飯釜で炊かれ、保存に適するように冷やされた山形のブランド米「はえぬき」。
松川弁当店の駅弁では、およそ8割の商品で「はえぬき」が使われています。
訊けば、「はえぬき」は万能なお米なんだそう。
お米は、駅弁屋さんにそれぞれの哲学があるのが面白いところです。
まずは機械によって1個の分量(230g)に分けられ、手際よく折に詰められて行きます。
「はえぬき」の上には、職人さんの手で1枚1枚手切りにされ、じっくりと炭火で焼かれた米沢牛の特上カルビが、盛り付けられて行きます。
白いご飯が見えないよう、大きなカルビ肉の間には、同じカルビの細切れとなった部分を敷き詰めることで、高級な米沢牛をムラなく、そして無駄なく使用して行きます。
さっそく厨房には、香ばしいカルビならではのいい匂いが漂って来ました。
続いては、おかずの盛り付けへ。
牛肉のうま味をギュッと閉じ込めた焼売を2つ。
さらに玉子焼きと漬物を入れて行きます。
ラインは全く停まることなく、迅速かつ正確な生産が行われています。
仕上げに米沢牛の特上カルビ焼にゴマをふって、松川弁当店・秘伝のたれを…。
昔から継ぎ足し継ぎ足し使われて来たたれで、いまも使った分だけを補充しているそう。
これに焼売にかけるためのしょうゆと辛子パックを入れて行きます。
じつはココまで、まず1分とかからない、極めて短時間の作業なんです。
ふたを閉じ、掛け紙をかけて、農家が使う出荷用の機械を元に作ったというオリジナルの紐とじ機によって、包装が施されました。
これにて、「米沢牛炭火焼特上カルビ弁当」の完成です!!
「松川弁当店」の駅弁のスゴイところは、多くの駅弁で「掛け紙」が健在なこと。
「米沢牛炭火焼特上カルビ弁当」でも、お店のご主人が肉を焼き上げ、かまどのご飯が炊き上がり、それを心待ちにするお客さんの風景が描かれています。
1,600円という駅弁では少し高めの価格設定でありながら、チラリとも中味を見せないこの掛け紙にこそ、昔ながらの駅弁屋の魂と、大いなる味への自信を見ることができます。
【おしながき】
・白飯(山形県産はえぬき)
・米沢牛特上カルビ焼肉
・牛肉焼売
・玉子焼き
・大根塩漬け
平成22(2010)年の「東日本縦断東京駅弁まつり」で人気1位、「駅弁味の陣2013」では味覚賞を受賞した、松川弁当店イチ押しの駅弁「米沢牛炭火焼特上カルビ弁当」。
冷めても決して肉の脂が浮きあがることなく、なのに食感は柔らかくて、口のなかに入れるとトロっとうま味が溶けだして、まるで焼肉屋さんにいるかのような感覚が楽しめます。
この美味しい肉を1,000円台でいただくことができる背景には、一体、何があるのか?
次回からは、松川弁当店の林真人代表取締役にお話を伺って行きます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/