それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
このコーナーではこれまでに、おいしいラーメンやその開発話をいくつかご紹介して来ました。
災害が起きるたびに被災地に駆けつけ、熱いラーメンを作ってふるまう「九州ラーメン党」の話。昭和20年創業、父親の味を守り続ける神田「栄屋ミルクホール」の話。イノシシの骨でダシをとった「猪骨ラーメン」の話。ミシュランの「ビブグルマン」に載った中古車屋さんが作るラーメンの話。
みんなおいしそうで、その裏には、それぞれのドラマがありました。
今回も一杯のラーメンをご紹介します。黒いスープで有名な「富山黒醤油らーめん」や「白えび塩らーめん」を展開する「麺家いろは」の代表取締役会長・栗原清さんが、また新しいラーメンを作りました。
「麵家いろは」は、2009年から2012年までと2014年の計5回、「東京ラーメンショー」でV5を達成! 国内で9店舗、国外で17店舗の合計26店舗を展開している、ラーメン界のレジェンドとも言うべき存在です。
しかし、ここまでの道は決して平坦ではありませんでした。大学卒業後、栗原さんは運送会社に勤務。責任あるポジションを任されますが、サラリーマン生活に飽き足らず、脱サラをしてしまいます。折しも世の中はカラオケブーム。栗原さんは鉄道のコンテナを使ったカラオケボックスで話題となりますが、大手の参入によってたちまち窮地に追い込まれ、気がつけば億単位の借金を背負っていたと言います。そして、僅か3年で倒産。
栗原さんは、当時をこんなふうに振り返ります。「あのときは、いっそ死のうかと思ったほどでしたが、友だちや知人の助けで、好きだったラーメンを商売にできないものかと考えたんです。これを新たなビジネスとして再挑戦を試みたんです」
栗原さんの店の一号店は、金沢の小さな居酒屋の裏の物置を改装して作った『ザ東京ラーメン』! 平成4年のことでした。早朝から深夜までラーメンつくり一すじの人生が始まりました。平成17年、株式会社『天高く』に組織変更。
こうしてラーメンに愛と情熱を注ぎこんで来た栗原さんが、いま取り組んでいるのは「ハラル」対応のラーメン!「ハラル」とは、イスラム教の教えの1つで「イスラム法上、許されている」という意味になります。
イスラム教では、豚肉やアルコールを口にすることを固く禁じています。つまり、豚の骨でスープを取り、麺にアルコール分を含んでいるラーメンは、イスラム教の人たちにとって禁断のメニューでした。「こんなにおいしいラーメンを食べられないなんて…」この想いは、栗原さんのなかで大きな矛盾でした。
「でも宗教上の問題はとってもデリケートなんです。無理矢理に食べさせたり、入っているものを入っていないと言ったり、そういうことは絶対に許されるものではありません」
こう語る栗原さんに残された道は1つ! ブタを一切使わないスープとアルコールを含まない麺だけで、ラーメンを完成させなければならない。
一般社団法人「ハラル・ジャパン協会」の監修の下、およそ3ヵ月かけて「ハラル」対応のラーメンを開発! 去年10月の「東京ラーメンショー」に出品しました。トリを使った鶏白湯をベースに、12種のスパイスを入れたカレー風味のスープにノンアルコールの麺を使い、サラダチキンを乗せた一品。
これまで、日本一に5回も輝いた「麺家いろは」のラーメンでしたが、残念なことに数字はふるわず、過去最低の数字だったと言います。しかし、栗原さんは胸を張ります。
「数字は、もういいんです! イスラムの人たちが食べられるラーメンができた! この意味が大きいんです! 世界の人口の4分の1はイスラム教徒なんですから!」
現在、完成しているラーメンは2種類。「とりパイタン」と「スパイスカレー」! 栗原さんはこれを次のように命名しました。『ムスリム フレンドリーメニュー』!
栗原さんの店で開かれた試食会では、生まれてから1度もラーメンを食べたことのないイスラム教徒たちの驚きの声がひびきました。
「オイシ~イ!」
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ