【ライター望月の駅弁膝栗毛】
茨城・水戸と福島・郡山の間、およそ140㎞を結ぶJR水郡線。
水戸都市圏の一部として、毎時1~2本の列車が運行される水戸側に対して、郡山側は、朝夕の通学輸送に特化したダイヤとなっているのが特徴です。
このため、郡山9:18発の水戸行の後、臨時列車の運行がなければ、次は13:45発。
およそ4時間半にわたって、列車の間隔が空く時間帯もあります。
水戸をルーツに、郡山駅の駅弁を手掛けるのが「株式会社福豆屋」。
大正13(1924)年の創業で、今年(2019年)で創業95年の節目を迎えました。
駅弁膝栗毛の恒例企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第16弾は、郡山駅弁・福豆屋の小林文紀(こばやし・ふみき)専務にお話を伺います。
専務は3代目で、お姉さまの小林裕子社長と共に姉妹で経営に当たられています。
●水戸から水郡線つながりで、郡山へ!
―今年で創業95年の「福豆屋」は、水戸がルーツなんですよね?
水戸の和菓子店「井熊総本家」がルーツです。
水郡線つながりで、小林家の次男(専務の祖父)が、水戸から郡山に出店しました。
三男は常磐線つながりで仙台に出店して「株式会社こばやし」となりました。
(「駅弁膝栗毛」では、2018年10~11月にご紹介しました)
女の子は同じく我孫子に嫁いで、いまは唐揚げそばで有名な「弥生軒」となりました。
―「福豆屋」の屋号の由来は?
文献が残っていないので、想像の部分が多いんですが、2つの説があります。
1つは、井熊総本家で工場長を務めていた、手先が器用な祖父に由来する説。
和菓子で大切なものは、何と言っても「小豆」です。
その「豆」と、福島の「福」、幸福の「福」などを掛け合わせて、「福豆屋」という屋号にしたのではないかと思います。
―もう1つの由来は何ですか?
もう1つは、郡山に出て来たときに、お世話になった方につけていただいたという説。
各地から人が集まっている郡山では、いろいろな方が商売を興されていて、「名家」と呼ばれるお家も多かったと言います。
そこで、郡山という新たな土地に馴染むためにも、地元の方に屋号を付けていただいたという話も聞きました。
●幕の内にこだわる「福豆屋」!
―最初の頃の駅弁は、どんなモノでしたか?
初期は幕の内弁当やお寿司などを作っていたかと思います。
そのなかで和菓子屋出身のこだわりがありました。
どのお弁当も折の角を三角に仕切って、手作りの「流し羊羹」や「のし梅」を入れていました。
お茶と冷凍みかんも、全部自分たちで詰めていたと聞いています。
昔は宿場町の名残のあった郡山駅前に社屋がありました。
―いまも「幕の内」系の駅弁が多いですよね?
昔から「幕の内」を基本に据えて、駅弁を作ってきました。
郡山駅は東北新幹線の中間駅で、駅の近くに大きな観光名所もなく、昔ながらの宿場町で、どちらかと言えば、ビジネス需要が大きい駅です。
そのなかで、地元らしい「駅弁」を作るとなると、やっぱりお米なんです。
お米に合う食材は何かということを突き詰めていくと、自然と「幕の内」になっていきました。
●蒸気釜で「冷めても美味しい」を実現するご飯!
―お米にはどんなこだわりがありますか?
「あさか舞コシヒカリ」という、郡山周辺で生産したお米を使っています。
冷めても美味しくいただくことができるのが特徴です。
炊き方は、蒸気釜で湯炊きという、撹拌しながら炊いていく炊き方をしています。
横浜駅弁の「崎陽軒」さんをはじめ、各駅弁屋さんが蒸気炊飯をされていますよね。
この蒸気釜で炊くことも、冷めても美味しいご飯につながっていると考えています。
―現在、販売している幕の内駅弁の特徴は?
「福豆屋」では、長年「ずうずう弁」というおかずがたくさん入った幕の内を作ってきました。
福島の方言集を付けた掛け紙で、2000年代初めまでの看板駅弁の1つでした。
これをご飯を少なめにリニューアルして販売しているのが、「福の島 おとなの幕の内」(1000円)です。
やっぱり、いまはご飯少なめ、おかず多めの時代ですから。
(株式会社福豆屋・小林文紀専務インタビュー、つづく)
【おしながき】
・白飯(あさか舞コシヒカリ) 梅干 ごま
・焼鮭
・玉子焼き
・かまぼこ
・えび磯辺揚げ
・つくね
・牛肉煮
・きんぴらごぼう
・煮物(玉こんにゃく、昆布、人参、筍)
・菜の花醤油漬け
・豆みそ
・漬物
普通の幕の内駅弁では、折の半分が白いご飯となるものが多いなか、折の5分の2程度に思い切ってご飯を抑えたのが、「福の島 おとなの幕の内」。
炭水化物を控えめにする方が多い、“いまどき”の幕の内弁当です。
空いたスペースに幕の内“三種の神器”・焼き鮭、玉子焼き、かまぼこを分かりやすく入れて、たくさんのおかずが少しずつ入った、女子旅の皆さんが喜びそうな構成となっています。
水戸から水郡線伝いに郡山に進出して創業した「福豆屋」。
1世紀近い歳月を重ねて、すっかり郡山にはなくてはならない駅弁屋さんとなりました。
単線の線路をディーゼルカーがのんびり走る水郡線は、駅弁旅にもピッタリの路線です。
次回は郡山から会津へ…。
福豆屋と磐越西線にまつわるエピソードをたっぷり伺いました。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/