【ライター望月の駅弁膝栗毛】
かつて「ひばり」「やまびこ」「はつかり」といった多彩な特急列車が活躍していた東北本線。
昭和30年代には、蒸気機関車が引っ張る客車列車もたくさん走っていました。
昭和57(1982)年6月の東北新幹線開業で、長距離輸送は新幹線にその役目を譲り、現在、福島県内の東北本線は、毎時1~2本運行される普通列車が中心です。
程よい乗り換え時間があると、駅弁も買えて、普通列車の乗り継ぎ旅も楽しくなりますね。
国鉄郡山工場で製造され、東北本線を走った「D51形蒸気機関車264号機」は、ふるさと・郡山の憩いの場「開成山公園」で静かに保存されています。
その264号機のプレートと動輪が、郡山駅弁「福豆屋」の本社にも…。
訊けば、福豆屋が郡山工場の食堂を担当していた時代、工場から直接贈られたものだそう。
交換等で生まれた実物か、あるいはレプリカか、ちょっと興味深い存在です。
株式会社福豆屋の三代目・小林文紀(こばやし・ふみき)専務にお話を伺っている「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第16弾、いよいよ今回は完結編となります。
大手電機メーカーや海外の高級宝飾品ブランドの日本法人で会社員経験を持つ小林専務。
二代目のお父様が病に倒れ、直接仕事を引き継ぐことができないまま、三代目の姉妹で、駅弁屋の経営を担うようになったと言います。
●三代目姉妹だけで、試行錯誤の船出
―駅弁屋の経営に携わるようになって、ご苦労も多かったでしょうね?
最初は何もわからず、周りにはたくさん迷惑をかけたこともありました。
母も後を追うように他界してしまったので、姉妹だけで本当にやっていけるのか不安でした。
幕の内中心でやってきた「福豆屋」ですが、当時はご飯におかずを載せた“のせ弁”全盛期で、“のせ弁がない駅弁屋さんはダメ!”というくらいの雰囲気でした。
幕の内はどうしても、見た目が地味…という印象だったんですよね。
―平成23(2011)年の「東日本大震災」では、どのような影響があったんでしょうか?
東日本大震災では、福島で「食」に関する仕事はできなくなると思いました。
震災前まで「福島牛牛めし」という駅弁をかなり作っていたんですが、震災後、福島牛を扱うことができない時期があり、現在は「福豆屋の牛めし」(1200円)を販売しています。
本来、福島県は中山間地域が広がっている県なので、豚肉も牛肉も美味しく作ることができる地域なんです。
(小林専務インタビュー、駅弁紹介を挟んで後半へ)
依然として、肉駅弁は根強い人気があるのだそう。
牛めし駅弁は各社で作られていることもあり、牛めしの前に「福豆屋の…」と屋号を冠したネーミングが目を引きます。
黒と赤にゴールドの文字で大きく「牛めし」と書かれたシンプルな掛け紙が、十字の綴じ紐でキリッと結ばれている様子が、凛とした雰囲気を醸し出しているように感じます。
【おしながき】
・白飯
・牛肉煮(福島県産牛使用)
・きんぴらごぼう
・煮物(里芋、椎茸、人参)
・しば漬け
・野沢菜漬け
東北らしい濃いめの味付けが楽しめる「福豆屋の牛めし」。
ふたを開けた瞬間からいい香りが漂い、冷めても美味しくいただくことができます。
幕の内を十八番としながら、のせ弁でもしっかり仕上げてくるところが老舗の技。
なお、これまでのり弁と牛めしをミックスしていた「海苔のり牛めし」は、残念ながら、6月で終売となりましたが、これからも郡山の牛肉駅弁は健在です。
●幕の内弁当に一層磨きをかけて、ニッポンの駅弁を盛り上げる!
―「福豆屋」が駅弁作りで最も大切にしていることは何ですか?
福豆屋の社是は、「いつも笑顔でまごころで」です。
これは、先代社長の大切な教えです。
今後、力を入れていきたいことは、品質の向上。
駅弁屋は毎日毎日365日営業なので、従業員の皆さんと常に心がけています。
例えば、海苔のりべんもいまは2段ですが、3段のりべんもできたら面白いですよね。
―これからニッポンの駅弁をどんな形で盛り上げていきたいですか?
懐かしく、無条件に食べたくなるおかずと、冷めても美味しいご飯を丁寧に作ること。
やっぱり、「幕の内弁当」ですね。
家庭ではなかなかできない手間暇をかけたお弁当こそが駅弁屋の腕の見せどころです。
「福豆屋」としては、ここに軸足を置きながら、和菓子屋をルーツとするお店ですので、駅弁と合わせて、気持ちがほっとするようなスイーツ・お菓子も提供したいです。
●ぜひ福島・郡山へ足を運んで「駅弁」を!
―「駅弁膝栗毛」は、できるだけ現地で駅弁を…という思いでやっていますが?
郡山駅隣・ビックアイの「郡山市ふれあい科学館スペースパーク」をぜひ訪れてほしいです。
ここの22階は無料で入れる展望ゾーンとなっていて、たっぷり新幹線が見られます。
時速300㎞以上で「はやぶさ・こまち」号が通過して行くのですが、いままで鉄道に興味がなかった方でも、思わず鉄道好きになってしまいそうな風景です。
ちなみに、ココの喫茶店は、「福豆屋」がやらせていただいております。
―おしまいに改めて「海苔のりべん」は現在、どのような形で販売されていますか?
7月から毎週金曜日と土曜日のみ、東京駅の「駅弁屋 祭」での販売を行っています。
最近は「海苔のりべん」が東京駅にない…ということで、大変申し訳ないのですが、東北新幹線に乗って郡山駅まで買いに来て下さるお客様もいらっしゃいます。
とても手間のかかる駅弁ですので、たくさん作り置きできないことをご理解いただいて、よろしければ是非、福島・郡山へ足を運んでいただけたらと思います。
(株式会社福豆屋・小林文紀専務取締役インタビュー、おわり)
「海苔のりべん」の製造過程を見せていただいて、手作りで焼き上げていく「玉子焼き」に、思わずウルッとなりそうなくらいの感激を憶えました。
正直、この手間がかかった駅弁を、東京でのんびり買うのは申し訳ないくらい…。
東京~郡山間は新幹線で1時間15分あまり、普通列車でも十分日帰り可能なエリアです。
この夏はぜひ、福島・郡山を自分の足で訪ねて、絶品の駅弁を味わいたいものです。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/