【ライター望月の駅弁膝栗毛】
東京と伊豆の温泉地を結ぶ185系電車の特急「踊り子」号。
なかでも、東京9時発の「踊り子105号」と12時発の「踊り子115号」は、途中の熱海まで、在来線特急最長の15両編成で運行されます。
熱海からは前10両が伊東線・伊豆急行線直通の伊豆急下田行、後5両が三島・伊豆箱根鉄道駿豆線経由の修善寺行に分かれて運行されます。
修善寺に到着した「踊り子」号を待ち受けるのは、河津駅や松崎方面へ向かう「東海バス」グループの各路線バスです。
河津駅行に乗れば、湯ヶ島・湯ヶ野など、小説「伊豆の踊子」の舞台となった温泉地へ。
松崎行に乗れば、西伊豆海岸にある、土肥・堂ヶ島などの温泉地へ行くことができます。
修善寺駅の東海バス窓口では、2日間有効の往復割引乗車券も販売しています。
今回、松崎行のバスに揺られてやって来たのは、伊豆市の「ものわすれの湯 船原館」。
国道136号沿いにあり、バス停「船原温泉」の前にあるのが嬉しいところ。
私も長年、船原温泉の存在は知っていたのですが、ずっと国道から見ているだけでした。
この日はご縁あって、初めての宿泊。
初めてのお宿って、いったいどんなお湯が湧きだしているのか、ワクワクしますよね!
午後3時のチェックインに合わせて入り、早速、この日の一番風呂へ。
内湯の山の湯は、ゴボゴボと音を立てて湧きだした温泉が豪快にかけ流されています。
毎分150ℓが動力揚湯される源泉は45.6℃、ph8.0、成分総計716.9mg/kgの単純温泉。
併設の露天やもう1つの川の湯に使われるほか、深さ1.2mの貸切たち湯もあります。
じつは、このたち湯を活かした“新しい温泉文化”が、船原館では人気を博しています。
その名も、「温泉WATSU(ワッツ)」!
「ワッツ」とは、日本の指圧を学んだアメリカ人が始めた「WATER SHIATSU」の略語で、力を抜いてインストラクターにただ身を委ねるだけという究極のリラクゼーション法のこと。
これをかけ流し温泉で実現したのが船原館の「温泉ワッツ」(30分4000円・宿泊者料金)。
水着着用でご主人の鈴木さんに委ね、湯の香を感じてプカプカすれば、思わずウトウト。
かけ流しの温泉を存分に楽しみながら癒される、とても贅沢なひと時です。
天城周辺の温泉宿では、塩焼きをはじめ、川魚のあまごを使った料理が楽しめますが、その「あまご」を駅弁としたのが、「天城紅姫 あまご寿司」(1360円)。
沼津駅・三島駅の駅弁を手掛ける「桃中軒」が製造しています。
平成23(2011)年、「しずおか食セレクション」に認定された「伊豆天城 紅姫あまご」を使った押寿しの駅弁です。
包装を開けると、鮮やかなサーモンピンクの押寿しが現れました。
大きくなっても成熟による肉質の劣化が無いとされる「伊豆天城 紅姫あまご」だけあってナイフで切り分ければ、うま味がギュッと詰まった肉厚な身が感じられます。
寿司飯にポツポツと見えるのは、三杯酢で漬けられたという茎わさび。
天城のわさび田を育む清らかな水で育ったあまごのお供にはピッタリの組み合わせです。
保存期間が少し長めなので、伊豆土産の1つとしても重宝な駅弁です。
東京・横浜と、西伊豆や天城の玄関口・修善寺を乗り換えなしで結ぶ、特急「踊り子」。
いまや希少な国鉄の特急エンブレムを掲げ、これまた希少な窓が開く185系電車の大きなモーターの音に懐かしさを感じながら、およそ2時間の温泉旅。
夏の疲れがいっぱい溜まってしまった方は、伊豆半島の恵み・温泉のチカラで癒されて、美味しい食べ物と共に秋の元気をチャージしてみてはいかがでしょうか。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/