【ライター望月の駅弁膝栗毛】
実りの秋、米どころ・新潟を目指して、上越新幹線「とき」号が上州路を駆け抜けて行きます。
今年(2019年)春から、「とき」としても活躍するようになったE7系新幹線電車。
一部の編成には、期間限定で「朱鷺色(ピンク)」のラインがラッピングされています。
きょう(10/1)からは、「新潟県・庄内エリアデスティネーションキャンペーン」がスタート。
今回のテーマは「日本海美食旅」…、ズバリ「食」がメインの観光キャンペーンなのです。
全国の駅弁屋さんを訪ね、駅弁の製造過程とこだわりを伺う「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
「伊東」「小淵沢」「水戸」「出水」「長岡」「米沢」「松阪」「横浜」「姫路」「修善寺」「富山」「仙台」「一ノ関」「米沢」「山形」「郡山」「大館」と巡り、第18弾は久しぶりの新潟へ。
東京から上越新幹線「とき」で最速1時間37分、新潟から信越本線の普通列車で20分。
JR新津駅前に本社を構える「神尾弁当部」にお邪魔しました。
神尾弁当部は、明治30(1897)年の創業。
上越・中越・下越・佐渡と広い県域を誇り、いまも7軒の駅弁屋さんが頑張る新潟県にあって、「駅弁」を手掛けたお店としては最も古い、由緒ある駅弁屋さんです。
今回は、一番人気の「えんがわ押し寿司」(1200円)の製造風景を見せていただきました。
東京駅の「駅弁屋 祭」でも、“黒いパッケージのえんがわ寿司”としておなじみですね。
●オリジナルの甘酢と新潟県産コシヒカリが生む、絶妙の味!
ちょうど押された酢飯が出来上がってきたところでした。
神尾弁当部の駅弁のお米は、新潟県産コシヒカリ100%!
食欲をそそる酢の香りが漂うなか、酢飯を1人前分に切り分けていきます。
横では、カラスガレイの「えんがわ」が、オリジナルの甘酢に漬けられていました。
3年かかったという「えんがわの押し寿司」の開発は、脂との闘いだったと言います。
およそ10分、この甘酢にえんがわを漬けることで、身が巧くコーティングされ生臭さを抑え、後から温度差でじわじわ脂のうま味が沁み出して、美味しくなるのだそう。
もちろん、調理場の皆さんが1枚1枚手作業で、えんがわを酢飯の上に載せていきます。
えんがわが載ったら、笹の葉を敷いて、ビニールで包装。
仕上げの別部屋に運ばれ、黒い紙箱のなかに別添のガリ・醤油・わさび、そして切り分け用の小さなナイフと、神尾弁当部のロゴが入った割り箸と共に納められていきます。
そしてふたが閉じられたら、出来上がり!
ココから新潟駅はもちろん、首都圏などの駅へ「えんがわ押し寿司」は運ばれて行きます。
●かつての名物「ひらめずし」の系譜を受け継ぐ、「えんがわ押し寿司」!
今回、お話を伺うのは、神尾弁当部の神尾雅人(かみお・まさと)社長。
昭和37(1962)年生まれの57歳。
学生時代はサッカーで体を鍛え、一時は体育の先生も目指していたと言います。
でも、先代のお父様が亡くなられたことで家業を受け継ぎ、5代目として活躍されています。
さっそく、「えんがわ押し寿司」が生まれた背景を伺ってみました。
―名物の「えんがわの押し寿司」は、どんな背景で生まれたんですか?
先代(父)が最後に開発した「元祖ひらめずし」という人気駅弁がありました。
じつはこの駅弁、当時は「大ヒラメ」と云われていたカラスガレイを使っていたんですが、2000年代に入って、規制が厳しくなったことで、実態に即した「かれいずし」に改めました。
ところが、中身はそのままだったのに、名前が変わったら、全く売れなくなってしまいました。
葉わさびを入れるなど、改良を試みましたが、盛り返すのは厳しくなってしまったんです。
―「ひらめずし」の系譜を受け継ぐのが、いまの「えんがわ押し寿司」なんですね!
ただ、「えんがわ」にも、いろいろ種類があって、脂が強すぎるものもあります。
何度も作り直しながら、試行錯誤を続けて、ようやくいまのえんがわにたどり着きました。
神尾弁当特製の甘酢に漬け、ちょうどいい脂加減が出来上がって、「これはイケる!」となったとき、およそ3年の歳月が経っていました。
ちょうど機会に恵まれて、東京駅の「駅弁屋 祭」で実演販売をしたところ、爆発的に売れて、“黒いパッケージのえんがわ寿司”として、いまでは最も売れ筋の駅弁となっています。
(神尾弁当部・神尾雅人社長インタビュー、つづく)
信越本線・新潟~新津間は、所要時間約20分、列車もおよそ20分間隔の運行です。
このほか上越妙高行の特急「しらゆき」や貨物列車、朝夕は磐越西線からの直通列車なども加わって、多彩な顔ぶれとなります。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第18弾・神尾弁当部編。
次回は神尾社長と一緒に、鉄道のまち・新津の玄関、JR新津駅を訪ねます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/