災い転じて……となるか 今後の国会審議
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「報道部畑中デスクの独り言」(第179回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、新型コロナウイルスの対策に関する与野党党首会談について---
新型コロナウイルスの感染拡大を受けた法律の改正をめぐり、与野党による党首会談が3月4日に開かれました。法改正の審議は今週10日から始まり、早ければ13日…週内に処理される運びです。
今回は安倍総理大臣らが、野党の党首と各党個別に会談するというものでした。これは熊本地震の復興に向けた補正予算案をめぐって会談した、2016年4月以来のことです。
安倍総理は会談後、「国家的な危機にあっては与党も野党もない、お互いに協力して乗り越えて行かなくてはならない」と述べました。最大野党の立憲民主党・枝野代表も、「審議を急いでやるということについては協力する」と応じました。
ポイントとなるのは、新型インフルエンザ等対策特別措置法に新型コロナウイルスの項を盛り込むか、現行法のままで対応できるかということ。
政府・与党は前者、「現行法が適用できれば早いが、未知のインフルエンザでなくては適用できない。新型コロナウイルスについては指定感染症で、既知のものでそういう解釈はできない」というのが言い分です。その上で、「最悪の事態も想定しながら、緊急事態宣言など、もう一段の法的枠組みの整備が必要だ」としています。
一方、立憲民主党などは後者、新型コロナウイルスは“新型インフルエンザ等”に含まれるとして、「現行法をあすにでも適用すれば迅速に対応できる」という主張です。また、緊急事態宣言について枝野代表は、「現状は要件を満たした状況ではない。使うことを否定するものではないが、宣言を出さなくてもいいように抑え込むのが政府の責任だ」としています。
さらに、宣言を出す場合は科学的根拠や解除要件を示し、国会への事前報告をすべきと注文を付けました。この他、東日本大震災の教訓から、広報担当に情報を集約して1日1回、現状を同じ顔で責任をもって発信すべきという提案をしたということです。
国民民主党からは景気対策への言及がありました。会談前の記者会見で玉木代表は、「東日本大震災以上、リーマン・ショック級の経済危機になる可能性がある」と述べ、10~15兆円規模の大規模な緊急経済対策、家計部門の減税の必要性を訴えました。
会談後、「非常に建設的なご意見をいただいた」と話した安倍総理。枝野代表も「意義のある会談であったとは思う」と振り返ります。今回の会談は各党の主張を、トップ同士がきちんと突き合わせていたのではないかと思います。
国民が求めているのは、こうした政策論争ではないでしょうか。昨今の国会審議では、ヤジや不用意な発言をとらえて審議がたびたび中断したり、挑発や揚げ足取りで貶め合ったりするシーンばかりがクローズアップされています。確かに1つ1つは大切なことかもしれません。また、そうしたシーンはインパクトがあるので、私どもメディアもつい飛びついてしまうのは反省なのですが、見たいのはそんなギスギスしたやり取りではないはずです。
「総理憎し」とばかりに、棘のある言葉を繰り出す野党、事あるごとに旧民主党政権のころを持ち出し、木で鼻をくくった対応の政府・与党…しかし、議員はまがりなりにも全国の選挙区から、選挙という民主的な手続きを経て選ばれた“選良”です。与野党問わず、最低限の敬意は持つべきで、議員を罵倒するのは有権者を罵倒することと同義であると思います。
法改正の審議は前述のように主張の違いがあるため、審議は「はい、そうですか」と簡単には行かないでしょう。また、政治的思惑で言えば、現行法は旧民主党時代につくられたものだけに、立憲民主党としてアピールしたい意図もあると思います。
一方、政府・与党が主張する法改正に、憲法に「国家緊急事態条項」を盛り込む、その橋頭堡とする意図があるのか…見極める必要があるでしょう。そして、何と言っても“足元”の感染防止、検査体制の整備などは同時進行で進めて行かなくてはいけません。
さまざまな思惑はあろうかと思います。ただ、新型コロナウイルスという“危機”に対し、国会審議が真摯で建設的なものになるのであれば、「災い転じて福となす」、ひいては政治不信の解消につながるのではないかと思います。
やればできるじゃないですか…今回の会談で僭越ながらこう感じた次第ですが、国会でもそう感じられる審議を期待したいところです。(了)