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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
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ジャズボーカリスト ギラ・ジルカさん
『ケンちゃん』という歌をご存知でしょうか? 歌詞を見ると、「ケンちゃん×56」とあります。何と、56回も続けて「ケンちゃん」を歌っているんです。
先日、お昼の高田文夫先生の番組でこの曲が流れ、「ケンちゃんケンちゃんって、何だこの曲!」と、高田先生も思わず耳をそばだてたと言います。
歌っているのは、ジャズボーカリストのギラ・ジルカさん。「怪獣みたいな名前でしょう?」と、ギラさんは笑います。
「イスラエル人で貿易の仕事のため来日した父が、12歳年下の母を阪急電車で見そめ、『食事に行きませんか?』と声を掛けたのがキッカケで結婚し、昭和44年に私が生まれました。ギラとはヘブライ語で『喜び』。父が名付けてくれました」
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幼少期のギラさん 初めてのNYで
幼稚園から神戸のインターナショナルスクールに通い、小学生のころはピンクレディーや西城秀樹に夢中に。その後のディスコブームではクール&ザ・ギャングが好きで、耳に飛び込んで来るのは歌でもギターでもなく、なぜかサックスの音色でした。
「かっこいい! こんな楽器を演奏したい」と、10歳でブラスバンドに入り、ハイスクールではジャズビッグバンドのリーダーも務めました。
その後、アメリカのバークリー音楽大学に留学し、サックスを本格的に習いますが、ここで思わぬ挫折を味わいます。世界中から才能溢れる若者が集まっていて、自分の知識や技術のなさを痛感し、大きな壁にぶつかります。
他に何か音楽で表現したい! すると声楽の先生から、「歌はあとからついて来るから、とりあえず歌いなさい」とアドバイスを受けます。その言葉を信じて歌のレッスンに励みました。
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NYアポロシアター ギラさんが主催のクワイアで出演した際の集合写真
卒業後に神戸へ戻ると、タレントとしての仕事が増えて来ます。
「あのころはハーフのタレントが人気で、クイズ番組にもよく出ましたね。おバカな外国人を演じることが多くて、だんだん嫌気がさして来たころ、阪神淡路大震災が起きて関西の仕事がストップしたんです」
もう1度、原点に戻って音楽の仕事をしたいと上京。ジャズクラブで歌ったり、FMラジオのDJをしたり、英語教材の声優やCMソングも歌いました。なかでも「fly me to the moon」を歌った全日空のCMは、「誰が歌っているの?」と問い合わせが殺到したそうです。
彼女のライブを聴きに来た音楽プロデューサーから「曲を作ってみないか?」と持ちかけられ、作った2曲が、あのMISIAさんに気に入られてアルバムの収録曲に! さらに20周年の全国ツアーのコーラスに参加することになりました。
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1997年、震災後 東京での仕事が増えて来たころの1枚
去年(2019年)、50歳になったギラ・ジルカさん。誕生日の8月15日には必ず目標を立てます。
48歳になる前、ライブを聴きに来たレコード会社の人に、自分からこう売り込みました。「50歳でメジャーデビューしたいんですが、いかがですか?」と。言ってみるもので、その後はとんとん拍子に話が進み、50歳でメジャーデビューアルバムを発売することになりました。
アルバムのタイトルは『50(フィフティ)』。1つ条件があって、ジャズではなく歌謡曲を歌うこと…いろいろな曲が集められ、そのなかにあったのが『ケンちゃん』でした。
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アルバムのレコーディング現場にて
デモテープを聴いたスタッフも、ギラ・ジルカさんも「ん~~~~」と唸ったまま、言葉がありません。
この曲を作曲した美樹克彦さんは、「この曲がギラさんにいいと思うんだ」とイチオシ! 正直、反対の声もあったそうです。でも、ギラ・ジルカさんには信じた言葉がありました。
「歌はあとからついて来るから、とりあえず歌いなさい」
1度聴くと、『ケンちゃん』が耳から離れない、不思議な曲です。
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「歌はあとからついて来る」という教えをギラさんは信じます
■ギラ・ジルカさんのホームページ
http://www.geilajazz.com/category/live-schedule/
■ギラ・ジルカさんのニューアルバム『50』
https://www.universal-music.co.jp/geilazilkha/