喫茶店「のら珈琲」で味わうカセットテープの魅力
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
カセットテープが静かなブームを呼んでいる…そんな話を耳にしたことがあると思います。AERAの2月10日号の特集は、まさに「カセットの魅力」。カセット専門店のオーナーや、アーティストの談話で盛り上がっていました。
東京・中目黒のカセットテープ専門店「waltz(ワルツ)」の品ぞろえは、ざっと6000本! 新品のカセットも数多く並んでいます。定額で「聴き放題」というサービスが主流の時代が続いていますが、2015年にオープンした「ワルツ」は毎年、黒字を続けていると言います。
カセット全盛期を知っている中高年の方は、テープからテープにダビングしたり、CDをテープに録音する楽しみをご存知でしょう。
レタリングシートを使って彼女の名前をラベルにして、「はい、コレ」とプレゼントして喜ばせたり。あるいは、その選曲と構成のマズさが命取りになり、とうとうフラれてしまった…そんな苦い経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
秋田市にある「のら珈琲」は、うまいコーヒーとカセットの喫茶店。店主の森幸司さんに、カセットの魅力をうかがってみました。
「36歳の僕はCD世代です。でも小さいころから、親のラジカセに音楽を録音して聴くことが大好きでした」
それは音がよかったのか、どういうことなのか? 森さんは続けます。
「当時は音の良し悪しはわかりませんでしたが、カセットの全てを閉じ込めるような感覚が好きだったんです。このカセットに大好きな曲が入っているという所有感、安心感のようなものでしょうか? 音の違いがわかるいまは、カセットの音のほうが心地よく、自然に入って来ますね。CDならそこまで聴いていられないというか、耳がつらくなってしまいます。ラジオっ子と言うのでしょうか、少しザワザワしているほうが耳に馴染みやすいんですよね。カセットはいわば、私の『相棒』なんです」
カセットテープを自らの「相棒」と言い切った森幸司さんが、秋田市に「のら珈琲」を開店したのは、2017年暮れのこと。
かつては東京の大型輸入レコード店で働いていた経験もあるそうですが、音楽フェスティバルやライブなどへの出店を行いながら、「ZONBIE FOREVER(ゾンビフォーエバー)」というレーベルも立ち上げたと言います。
以前はCDを出していましたが、いまのリリースはカセットだけ…。これまでに40組のアーティストのカセットリリースを手がけたそうです。森さんにその理由をうかがうと、こんな答えが返って来ました。
「カセットは制作コストが安いせいもありますが、それだけじゃないんです。CDは1度パソコンに取り込むと、原盤の盤面が忘れられてしまう。それは何となく違うなと思い始めたのが、カセットに切り替えた理由です」
自分の目で見たり、手で触ったりできるからこそ、音楽が記憶される。言い換えれば、音楽が自分のものになる。音楽とは単に耳で聴くだけではないもの、だから楽しい。こう感じさせるのが、カセットやレコードなどのアナログが再燃している理由なのでしょう。
森幸司さんは、生まれ育った山形県から東京に出て12年働きました。仕事は大手輸入レコード店から介護職へ7年。結婚1回、離婚も1回。Qurage(くらげ)というユニット名で音楽活動も行って来ました。
この道をなぜ途中で断念してしまったのか、うかがってみました。
「僕にはアーティスト活動は向いてないなと気づいたんです。全国ツアーなんかで各地を巡って行くと、ちょっと知られた曲を『またやってほしい』とリクエストされるんです。それがイヤでイヤでたまりませんでした」
とは言え、カセットだけでは絶対に店は続けられません。そこで、おいしい珈琲があって人が集える場所を作ったら、カセットも売れるのではないか? 森さんは、こう考えました。
珈琲は昔から大好きでした。介護職をしているころは、老人ホームのお年寄りの目の前で珈琲を淹れて、その反応を見るのが楽しみでした。森さんの珈琲の特長は、深煎りの苦みと豆本来の甘みを引き出した味。ある日、店で珈琲を飲んでいた女性客が、ポツリと言ったそうです。
「私…実はあなたのライブに行ったことがあるんです」
あきらめたバンドの夢と、店に流れるカセットのBGM、そして珈琲の香り。この3つが一直線につながり、森さんのなかに深い歓びが満ちたと言います。
どうでしょう? 久しぶりにカセットの音楽を聴いてみたいと思いませんか?
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