フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は「あいづち」について---
【あいづちを意識していますか?】
「へぇー」「そうなんですか!」「なるほど」など、効果的なあいづちは潤滑油となり、会話を盛り上げる要素だと言われています。
「昨夜おもしろいことがあったんですよ」「はい」「それは何かと言うと……」「はい」「食事のときに」「はい」「私が」「はい、はい」
このように、同じあいづちばかりを何度も文節ごとに入れられると、ちゃんと聞いているのかな? と感じてしまいます。
自分ではあまり意識していないと思いますが、あいづちの言葉やタイミングはクセになっていることが多いので、気づきにくいのです。ましてや「君、あいづちが変だよ」と指摘されることなど皆無でしょう。
ただ、アナウンサーは違います。話す技術のなかで、あいづちは基本中の基本と言ってもいいほど大切なのです。
【アナウンサーの基本技術】
アナウンサーの仕事のひとつ、インタビューの技術としては、次の3つがポイントです。
まず、相手のコメントにかぶらない(同時に話さない)。それから、「はい、いいえ」で答えられる質問はしない。そして、効果的なあいづちをする。
同時に音を発すると、相手の声がクリアに聞こえないだけでなく、編集する際に邪魔になります。また、質問に対して「はい」と答えられると話が終わってしまうため、オープンクエスチョンにします。
「赤が好きですか?」ではなく、「何色が好きですか?」と聞けば、「はい、いいえ」で終わらずに話が広がって行きます。そして、相手が話しやすいように効果的なあいづちを打つことが重要になります。
さらには、あいづちばかりが際立たないようにするため、うなづきを多くしたり、同じ言葉を何度も使わないことも、聞き手として心がけます。「あなたの話に興味があります、もっと話してください」という気持ちを表すのです。
あいづちはあまり長くない方が、相手の話を邪魔しません。
「俺、実はダイエットを始めたんだよ」
「えっ?」
「ははは、コロナ太りしちゃったんで、戻したいなと思って」
「ああ、そうなんだ」
「でさ、1ヵ月で3キロやせたんだよね」
「おおっ! それはすごい」
「それが意外と簡単でさ、絶対に効果が出るから、君もやってみたら?」
「う、うーん。できるかな?」
「秘訣は朝ご飯。レシピを教えるよ」
「いいね」or「いや、やめとくよ」
これは超絶に簡単なあいづちです。日本語の基本母音「あ、い、う、え、お」を使っています。意外と会話は十分に成り立ちます。その他にも「へ、ふ、ほ」も使えますね。
【政治家はあいづちをうたない】
先日、7年8ヵ月ぶりに総理大臣が変わり、菅内閣が発足しました。政治家の発言は一言、一言が重要ですが、あいづちには特に神経質です。記者の質問に「はい、はい、そうですね」と発言すると、記者の意見を認めたと言われかねないからです。
例えば、「それは必要ないということですね?」との質問に、あいづちのつもりで「はい」と発言しようものなら、その部分を切り取って『必要ないと認めた』と書かれます。
「いや、そういう意味で言ったわけではなく、返事だよ」と言ってもあとの祭り。「言いましたよね?」と突っ込まれます。ですから、政治家は会見において、決してあいづちを打つことはないのです。
菅首相の官房長官時代の会見では、記者の質問にうなづくことはあっても、声は出していません。それは上記のことがあるからです。
また、『その批判は当たらない』『そのようなことは断じてない』などの「菅官房長官語」については、正面から向き合っておらず、何も答えていないと指摘されています。良し悪しは別として、これには理由があります。
記者から質問されると、何かしら返答する必要がありますが、ここで最大のリスク回避をしています。つまり、「その批判」や「そのようなこと」などの指示語を使って、記者の質問を繰り返さないようにしているのです。
例えば、記者が「政府の計画がずさんということではないでしょうか」と質問するとします。それに対して、「そのようなことは断じてない」と否定します。しかし、この指示語を外すと、「政府の計画がずさん……ということではない」となりますが、菅氏本人が「政府の計画はずさん」と発話しているため、記者の受け止めは「ずさんと言った」と飛躍してしまうのです。
少しややこしいですが、要するに“言質を取る”と考えていただければいいでしょう。「あなたは総理をバカだと思っていますよね」と聞かれて、「いいえ、私は総理をバカだと思っていません」と否定しても、「総理をバカだ」と声に出しています。記者の意見をオウム返しにすることで、間接的に「総理をバカだ」と言っているのと同じと受け止めるのです。
これは強引で印象操作ぎりぎりですので、ジャーナリズム的にはよい手法とは言えませんが、このようなカラクリがあるため、あいづちには注意を払っています。
【息を合わせるのではなく、ずらす】
ところで、あいづちをうまく入れるコツは呼吸にあります。「呼吸を合わせる」のです。
日本語には「息を合わせる」という言葉があり、行動するときに調子や気持ちが合うことを指します。会話がポンポン調子よくはずむと、息が合う2人と言ったりします。
しかし現実的には息を合わせるのではなく、ずらす。話している目の前の人とは、逆の呼吸をします。これは同時に言葉を発しないためです。
Zoomなどの動画会議システムで、この現象を実感した方も多いでしょう。同時に数人が話すことで何も聞こえず、「え?」「何て?」という発言が多くなる。あまりにスムーズではないので、「キャッチボールにならないな……」と感じたことでしょう。
これまで「あの人と話すときは、何だか話しにくいな」と感じた経験はありませんか? それは呼吸が合わないのです。「ええ」「あぁ」など、一言あいづちを返すことによってタイミングを計り、呼吸を工夫してみてください。意外にうまく行くかも知れません。
人との接触が戻り、会話をする機会も増えています。楽しいおしゃべりのために、あいづちを少し見直してみるのもよいのではないでしょうか。(了)
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
Facebookページ @Announce.AUBE