【ライター望月の駅弁膝栗毛】
平成27(2015)年3月、長野~金沢間が開業した北陸新幹線。
東京~金沢間は途中、大宮・長野・富山のみに停車する「かがやき」によって、最速2時間28分で結ばれ、首都圏と北陸地方はグッと近くなりました。
今年(2021年)3月のダイヤ改正では、上野~大宮間の最高時速が130kmにアップして、さらに1分短縮されることが発表されています。
(参考)JR西日本ニュースリリース・2020年12月18日分
新幹線の開業で大きく変化している、北陸地方のJR線と駅弁事情。
北陸本線・加賀温泉駅を拠点に駅弁を手掛ける「高野商店」は、全部で11人の社員で、加賀温泉・金沢・福井の各駅に向けて、駅弁を製造しています。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第24弾・高野商店編は、5代目で自ら調理場に入ることもあるという、高野宣也(よしなり)社長にお話を伺っています。
●北陸新幹線金沢開業で、金沢の駅弁需要は一気にアップ!
―北陸新幹線の金沢開業から5年。最近は金沢駅の駅弁売場でも高野商店の駅弁をよく見かけるようになりましたが、どのような変化がありましたか?
金沢駅には、昭和のころから「北陸トラベルサービス」の売店がありましたので、以前から高野商店の駅弁は金沢でも販売していましたが、開業を機に駅の売店の多くがJR系の売店となったことで、それらの売店で他社さんと一緒に置いてもらえるようになりました。
車内販売は終了しましたが、新幹線の開業で金沢の売り上げはグンと上がりました。
金沢駅に関しては、開業以前の3~4倍と言ってもいいくらいだと思います。
―ただ、金沢駅への輸送は、以前より負担となっていませんか?
高野商店も始業時間を早め、午前2時から金沢向けの駅弁をつくり、車で搬入しています。
現在は加賀温泉駅、金沢駅共に駅弁の納入業者なので、駅弁が売れている実感はないのが正直なところですが、その分、会社としては駅弁製造に集中できています。
以前は駅の売れ行きや天気予報を見ながら、駅弁の製造個数を決めたりしていましたが、いまは納入個数が決まっていて、経営的には健全化していると言えるのかも知れません。
●コロナ禍は補助金の仕組みが早くつくられた分、震災のときより心強い!
―高野社長がお父様の跡を継いで、経営に携わるようになって20年あまりだそうですが、激動の20年、ご苦労も多かったでしょうね。
いちばん苦しかったのは、平成23(2011)年の東日本大震災のときですね。
旅行需要が、一気に冷え込んでしまいましたので。
コロナ禍は、経営者への補助金が充実しているので、何とか乗り切ることができています。
補助金は足しにしかなりませんが、それだけでも“見捨てられている感”がないんです。
いまを耐え忍べば、「また何とかやってやろう!」という気持ちにさせてもらえるんです。
―コロナ禍では、いち早く駅弁を冷凍化して、「通信販売」に参入されたのが、記憶に新しいですが、反響はいかがですか?
各メディアで取り上げていただいたお陰で、反響が大きかったですね。
とくに10月に日本経済新聞週末版のNIKKEIプラス1で「炙りのどぐろ棒寿し」を取り上げていただいたときは、一時受付をストップしたほどです。
贅沢を言えば、できるだけ、分散して注文してもらえると有難いのですが……。
最近興味深いのは、個人の方からの駅弁に関する問い合わせが増えていることですね。
●Go To トラベルキャンペーンで旅する世代が若返った!
―いわゆる「自粛期間中」の金沢駅、加賀温泉駅はいかがでしたか?
あんなに人のいない金沢駅は見たことがなかったですね。
最悪のゴールデンウィークでした。
高野商店も(2020年)5月は完全休業しました。
(緊急事態宣言明けの)6月くらいから私のワンオペで再開して、夏くらいから、お客様がちょこちょこと戻ってきて下さいました。
―「Go To トラベルキャンペーン」はいかがでしたか?
(2020年)11月は、本当にお客様が増えました。
地域共通クーポン券が、たくさん駅で飛び交っていました。
とくに加賀温泉郷の旅館にお泊りになったお客様が、駅でよく使ってくださいました。
小さい高級なお宿ほど、こんなに忙しいのは初めてというほど、満館が続いたと言います。
あと、お客様の年齢層が若返った印象を強く受けました。
(高野商店・高野宣也社長インタビュー、つづく)
平成28(2016)年の発売から5年、駅売りはもちろん、昨年(2020年)の大型連休を前に冷凍による通信販売にも対応した「炙りのどぐろ棒寿し」(1600円)。
駅ではもちろん、常温(冷蔵ケース)で販売されています。
高級感漂う、黒いパッケージに大きく書かれた「のどぐろ」の文字と、のどぐろの絵に食欲をそそられて、手に取ってしまいそうですね。
【おしながき】
・すし飯(石川県産コシヒカリ)
・のどぐろ(赤ムツ)
・白板昆布
・きざみ生姜
昔ながらの駅弁のように1つ1つ手作業で笹の皮に包まれている「炙りのどぐろ棒寿し」。
笹の皮を広げれば、炙りの香ばしさと甘めの酢飯の香りが、辺りに広がります。
棒寿しの酢飯の押しは軽めで、フワッとしたご飯の食感を残した感じ。
のどぐろのうま味、ご飯の甘味と酢の酸味、焦げ目のわずかな苦味など、1本の棒ずしにいろいろな味が隠れていて、感覚を研ぎ澄ましていただくとより美味しく感じられそうです。
現在、大阪~金沢・和倉温泉間で運行されている特急「サンダーバード」ですが、2020年代半ばまでには、北陸新幹線が敦賀まで延伸される予定となっています。
合わせて、並行在来線となる北陸本線も、第三セクターの鉄道へと移行します。
次回は、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第24弾、高野商店・高野宣也社長インタビュー完結編、これからの駅弁へかける思いをお届けします。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/