学校の授業が眠くなる本当の理由

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は「注意を向けさせる技術」について---

学校の授業が眠くなる本当の理由

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【自転車とぶつかった瞬間】

「いけない! お米を買い忘れた!」

駅の近くのスーパーを出て家路を急いでいた私は、我が家にはお米がないことを思い出しました。慌てて一方通行の道を渡ろうとしたとき、今度は携帯電話がぶるぶるっと鳴り、急いでポケットに手を入れました。

その次の瞬間、ドスン!!……背中を大きな丸いものに勢いよく押され、携帯電話は手を離れて宙を舞いました。我に返ると、私はうつぶせで道路に倒れていました。え? 転んだ? 立ち上がらねば! 急いで膝をつこうとしましたが、足に力が入りません。

背後からは「あ、あ……」と言う声。振り向きたいのに体が動きません。人が集まっている気配を感じながらも、私は声を出すことができずにそのままの姿勢で倒れていました。

10秒ぐらい経ったでしょうか。ようやく事態が飲み込めるようになりました。どうやら後ろから自転車に追突され、その衝撃で派手にうつ伏せに転んだようなのです。相手もうろたえていて、「あ、びょ、病院」とか「お、起きる……」など言葉になっていない言葉を発しています。

私は冷静にいろいろ考えていました。携帯を拾わないと……。でも、なぜぶつかったのだろう。このあとどうすればよいのだろう。

学校の授業が眠くなる本当の理由

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【意図的に注意をうながす】

事故はさまざまな不注意が重なって起こるのではないかと考えます。私は道路を渡る際に、右側から来た自転車を見ていませんでした。確認しなかったのです。

人間は行動を起こすとき、注意深く状況や物事を観察し、これから起こる出来事を予想して動こうとします。そうすることで予想と違うことが起こっても反応でき、対処しやすくなります。行動自体を効率化することも可能です。

しかし、こうした人々の習慣や予想を上手く利用して、意図的に注意を向けさせようとする方法があります。ニュースでこのような表現を耳にしたことはありませんか?

「新しい映画が公開されました。その内容とは?」

「体の不調を訴える人が増えています。そのわけは?」

「車が炎上、その驚きの原因とは」

このような表現です。次はどうなるのか注意喚起した上で、CMの時間を利用して視聴者に考えさせ、見たい、知りたい、という行動につなげています。

これによって私たちはCMになってもチャンネルを変えることをためらい、ホールドすることになります。問いかけをし、いったん間をつくることでテンポを変えているのです。

学校の授業が眠くなる本当の理由

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【興味があるのになぜ眠くなる!?】

テンポは規則正しい方が気持ちよく感じます。毎日同じ時間に起きて、同じ時間に食事をし、同じ時間に会社に行くという行為は何年も続けることができ、習慣化すると考えなくても行動できるようになります。

さらに、規則正しいテンポは安心にもつながります。寝坊したり、電車に乗り遅れたりすると、1日中ザワザワと落ち着かないですよね。ですから、同じテンポで進むことは一見重要に感じます。

一方、大学の授業が面白くなかったり、興味がある話なのに途中で眠くなってしまったり、講演会がつまらなくなるのはなぜでしょう? もちろん、内容が難しかったとか、話し手のしゃべり方が下手だったなどが理由として挙げられることもあります。

では、テンポはどうでしょう? 話が同じ調子で進んでいませんか? ひとことで調子と言っても、なかなかピンと来ないかも知れません。

いいテンポや調子は気持ちのよいものですから、意識しないと気づかないとも言えます。それゆえ、眠くなる原因にテンポや調子が挙げられることは多くないのです。

学校の授業が眠くなる本当の理由

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【同じ調子はいい気分を誘発する】

では、以下の文章を見てみましょう。敢えて、リズムやテンポに着目して特徴を探して行きます。

「私は道路にうつぶせで倒れていました。相手は茫然とたたずんでいました。自転車は道路に逆さまになっていました。私の携帯電話は数メートル先に落ちていました。誰かが拾って渡してくれました。携帯電話は粉々に割れていました。それを見た私は、とてもショックをうけました」

全文章が同じテンポで進んでいるのがわかりますでしょうか。さらにこの程度の短い文章を連ねると、抑揚も同じようにつけて読んでしまいます。

話している声をお届けできないのが残念ですが、声に出すと同じ音から始まり、同じ高さに上がり、同じ場所で下がって来て、同じ音で文章が終わる。無理に音符をつけると「ドドドド、ファーファファ、レレレレレ」といった感じで、小気味いい節まわしが永遠に続く感覚です。

このように私たちは、同じ調子で話が進行することを予想できると、気持ちがよくなって安心してしまうのです。これが眠くなる理由です。音域が一定の幅しか出ない人や、言葉にクセがある方も同じです。

調子よく話が進んで行く……その一方で、聞いている側もそのテンポに慣れることで眠気が誘発される。私はこのように思っています。だからこそ、テンポを変えることが大事なのです。

学校の授業が眠くなる本当の理由

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【注意を向けさせる技術】

テンポや調子を変える手法はいろいろあります。前述のニュースのように、「いったいなぜ?」と問いかけ、少し間をおいて再び話し始めたり、突然、小さくささやくような声を出し、注意を向けさせるなどです。いわゆる強弱、緩急をうまく使います。

一方、変な抑揚や節まわしに気づくにはどうしたらよいでしょうか? ポイントをひとつご紹介します。助詞に注意してください。

「しゃべり方【でー】、注意を向けさせるの【にー】、必要なこと【はー】、内容や技術ではなく【てー】、助詞【のー】使い方です」

カッコで強調した部分にアクセントを置いてしまうと、助詞が強調されてしまいます。強調するのは助詞ではなく、あなたが最も重要だと思う単語=言葉です。いかがでしょう、クセは見つけられましたか?

さて、足に力が入らず立ち上がれなかった私ですが、頭を打っていないか、骨が折れていないか、などを注意深く確認しました。幸い大したことはなかったようです。もちろん忘れずに2キロのお米を買うこともできました。

家に着くまでの時間は大きくテンポが変わった1日で、私の印象に残りました。 (了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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