「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
東京と神戸を結ぶ「東海道本線」には、いくつもの支線があります。熱海から分かれて、伊豆の東海岸を走るJR伊東線もその1つ。特急「サフィール踊り子」「踊り子」をはじめ、東京方面からの直通列車が多く運行され、伊東から先は伊豆急行線へ直通しています。その境界駅・伊東にも少しユニークな鯛めし駅弁があります。そして一緒に買い求めたい懐かしいアイテムも販売されているんです。
東海道「鯛めし」紀行・祇園編(第4回/全5回)
伊豆の東海岸を行く伊豆急行の「リゾート21」。前面展望と海側の眺望が優れた車両として知られ、熱海と伊豆急下田の間を特別料金不要の普通列車として運行しています。いまは「キンメ電車」と「黒船電車」の2編成が活躍中。沿線の名物・金目鯛にちなんだ赤いカラーリングの「キンメ電車」は、今年(2021年)、外装と内装の一部リニューアルが行われ、6月11日から運行されています。
「リゾート21」が走る東伊豆の鉄道は、熱海~伊東間がJR伊東線、伊東~伊豆急下田間は伊豆急行線となっています。乗務員の交代が行われる伊東駅では、伊豆急行線の開業に先立つ2年前の昭和34(1959)年から、「祇園」によって駅弁が販売されており、「いなり寿し」が名物駅弁となっています。じつはこの祇園でも、数量限定で“鯛めし”が製造・販売されており、知る人ぞ知る人気駅弁となっています。
祇園の鯛めしは、その名も「鯛どんたく」(880円)。めでたい「鯛」の駅弁に、オランダ語のゾンターク(休日)に由来する“どんたく”とネーミングしているのもリゾート地・伊豆らしく、掛け紙を外した瞬間からお祭り気分が始まりそうです。伊東はオランダ船で日本に来て、江戸時代初期に徳川家康の外交顧問となった三浦按針(ウィリアム・アダムス)が日本初の洋船を造った地。夏には「按針祭」が開催されています(今年は規模縮小予定)。
【おしながき】
・味付ご飯(国産米使用、鶏出汁)
・鯛おぼろ
・ホタテ唐揚げ
・椎茸煮
・牛蒡煮
・香の物
懐かしさを憶える丸い経木のわっぱ型容器に入った祇園の「鯛どんたく」。面白いのは、時間をかけて仕上げた自家製の鶏出汁スープで炊いた味付けご飯が使われていること。祇園によると、鯛おぼろも安心して食べられるよう「骨がないか」「お焦げがないか」確認しながら、職人さんがすべて手作業で仕上げていると言います。このため1日の製造個数に限りがあり、個数限定になっているそう。じつはとても手間がかかっている駅弁なんです。
ちなみに、伊東駅で駅弁と一緒に買い求めたいのが、ポリ茶瓶入りの「ぐり茶」(130円)。駅弁と一緒に販売されるお茶は、明治時代から長らく陶器製の汽車土瓶が使われたあと、この“ポリ茶瓶”が取って代わりました。しかし、昭和の終わりごろにペットボトルが普及して、すっかり下火になってしまいましたが、伊東駅の売店ではいまも健在! 昭和40~50年代の国鉄の旅を知る皆さんにとっては、きっと「懐かしいお茶」に違いありません。
東海道本線の熱海から分かれて、網代、伊東、熱川、稲取、河津と東伊豆の温泉地と魚の美味しいまちを貫いて、開国のまち・下田を目指すJR伊東線・伊豆急行線。全線単線ですので、途中駅で列車すれ違いのために長めの停車もあって、のんびり・ゆったり懐かしい旅が楽しめることでしょう。ちょっとユニークな鯛めしと、いまや希少な存在となった“ポリ茶瓶”を求めて、東海道からチョット寄り道してみるのも、楽しいひとときですよ!
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/