「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
多くが明治・大正時代からの歴史を誇る、東海道本線の駅弁屋さん。なかでも沼津を拠点に駅弁の製造・販売を手掛ける桃中軒は、今年(2021年)で創業130年の節目を迎えました。その老舗が作る鯛めしは、駿河湾の最奥で育まれてきた鯛の食文化と伝統を守りながら、2000年代以降も、お客さまの声に基づいたリニューアルを行っていて、進化を止めることがありません。
東海道「鯛めし」紀行・桃中軒編(第3回/全5回)
東海道本線の国府津から御殿場を回り、沼津で再び東海道本線と合流する御殿場線。昭和9(1934)年の丹那トンネル開通までは、東海道本線だった路線です。現在は毎時1~2本の普通列車と、小田急線から直通してくる特急ロマンスカー「ふじさん」が走ります。沼津では朝夕を中心に東海道本線の静岡・浜松方面および、東海道新幹線と接続する三島への直通運転も行われています。
勾配が厳しい御殿場回りの時代は、沼津でも補助機関車の増解結が行われ、丹那トンネル開業後も電気機関車と蒸気機関車の付け替えが行われていました。このため、沼津には列車が長く停まり、駅弁文化は大きく発展してきました。今年(2021年)で創業130周年を迎えた沼津駅弁・桃中軒でも、明治末期から「鯛めし」(800円)を販売しています。富士山と鯛が大きく描かれた、静岡の駅弁らしい掛け紙が旅情を誘いますね。
【おしながき】
・醤油めし
・鯛そぼろ(姫鯛、真鯛)
・鶏つくね
・黒はんぺん青のり揚げ
・姫鯛西京焼き
・しば漬け
・わさび漬け
・わらび餅
桃中軒によると、鯛のそぼろにはかつて黒鯛を使っていましたが、いまは姫鯛と真鯛の2種類を使用。淡白な真鯛に美味とされる姫鯛を混ぜることで、味に深みを出していると言います。たしかに桃中軒の鯛めしは、鯛のうま味が、しっかりと感じられるのが特徴。一時、醤油飯とそぼろを別盛りにしていましたが、お客様にアンケートを行い、そぼろがこぼれにくい折に改良、わさび漬け、スプーンも添えるなどのリニューアルを行ったということです。
いまも沼津には、朝夕を中心に、グリーン車を2両連結した東京方面からの普通列車が顔を出し、私自身も小さいころからよく乗ってきた湘南電車の名残りを感じさせてくれます。思えば昔、西伊豆へ釣りに出かけた父がよく黒鯛を釣ってきたもの。鯛が身近な駿河湾だからこそ育まれてきた駅弁とも言えます。紙蓋から掛け紙が復活、角形の折にリニューアルされた「鯛めし」。創業130年の老舗が作る鯛めしの進化は、まだまだ続きます。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/