それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
夏服と冬服を入れ替える時期、学校に通うお子さんがいるお宅では、冬の制服を引っ張り出して来た家もあるでしょう。背が伸びたりするとズボンのすそが短くなって、思わぬ大出費に……というご家庭もあるかも知れません。
「こんなとき、制服の“おさがり”を譲ってくれる人がいたらいいのに……」
そんなふとした心のつぶやきを、お店をつくることで解決に導いた方がいます。石川県金沢市にお住まいの、池下奈美さん・42歳。ご主人と育ち盛りの男の子、女の子が1人ずつ、4人家族のお母さんです。
池下さんが立ち上げたお店は、「制服リユース リクル」。おさがりの制服を買い取り、販売するお店で、いまから4年半前にオープンしました。
きっかけは、上の息子さんが中学に入ってすぐの時期でした。息子さんを学校に送り出そうとした池下さんは、彼が制服を着た姿を見て驚きます。ズボンから、ひざ小僧がパックリと顔をのぞかせていたのです。
息子さんはボソッと一言、「スライディングごっこして破けた」と言ったそうです。池下さんは、思わず「高かったのにどうしてくれるんや!」と、大声を上げてしまいました。
買ったばかりの制服は1着だけ、替えの制服はありません。かといって、高価な新品の制服は家計に厳し過ぎました。制服をもう使わないような、大きい子どもがいるママ友もいません。
池下さんは、お古の制服を売ってくれるお店を探しました。しかし、制服は学校ごとにデザインが違うこともあり、なかなか古着として出て来ません。城下町・金沢の狭い路地までグルグルと巡っても、広い石川県中を探しても、1軒も見つかりませんでした。泣く泣く新しい制服のズボンを買ったそうです。
下のお嬢さんが中学生になると、成長が早く、新しい制服が必要になりました。古い制服はまだ着られるのにもったいない……ふと、池下さんは思い立ちました。
「インターネットオークションなら、おさがりの制服が欲しい人に届けられるのでは?」
さっそく出品してみましたが、すぐにオークションサイトのアカウントが停止。出品も取り消されてしまったのです。
実は、制服はインターネットでの取引ができません。いまから30年近く前、「ブルセラ・ブーム」という時代がありました。以来、取り締まりが厳しくなり、いまでもネット取引が規制されているのです。古着の制服をやり取りする場合は、お店をつくるしかないということがわかりました。
「ならば、おさがりの制服が買えるお店をつくってしまおう。私が困っているんだから、きっと他にも困っている人がいるはず」
さっそく昔、池下さんが勤めていたホテルの社長さんに相談してみました。
「制服のおさがりにどれくらいのニーズがあるかはわからないけれど、やってごらんよ。1年間ならホテルの空いているスペースを使ってもいい。家賃も要らないよ」
懐の深い社長さんに、胸が熱くなりました。すぐに知り合いへ声をかけて、何とか20着ほど、古着の制服をかき集めました。
2017年1月、池下さんのお店「制服リユース リクル」はオープンにこぎつけました。幸いにも、1ヵ月ほどして地元の新聞が取り上げてくれたため、お店の前に行列ができました。
「よかった、ひとりよがりじゃなかった。みんな、こんなお店が欲しかったんだよね」
「制服リユース リクル」は金沢のお店と、近くの能美市にあるお店、計2店舗になりました。制服を持って来てくれるお客さんは言います。
「思い出が詰まった制服を捨てられない。お金は要らないから、次の人に役立てて欲しい」
預かった制服は、ポケットを裏返して埃を吸い取り、糸がほつれた箇所などを直して洗濯。さらにクリーニングへ出し、入念なメンテナンスを行って、「ほぼ新品」の状態にしてから格安の値段で販売されます。
裁縫が得意なスタッフも入って来てくれたおかげで、運動用のジャージも名前の刺しゅうを外し、リユースできるようになりました。
「こんなにキレイだとは思わなかった!」
お店に並んだ制服やジャージを手にしたお母さんは、こぞって目を丸くします。
リクルの活動を知った地元の事業家の方が、日本青年会議所の「SDGs」にまつわるビジネスコンテストに参加するきっかけをつくってくれました。2021年7月に行われたコンテストでは、2部門で受賞を果たしました。
「SDGs」はほとんど知らなかったという池下さんですが、「いま、制服のリユース活動が楽しい!」とニコニコ顔で話します。
これからも、「もったいない」を「ありがとう」に変えながら、親御さんや子どもたち、スタッフ、そして自分自身の笑顔を「持続可能に」するために頑張りたいと、決意を新たにしています。
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