あけの語りびと

「何もなくて」飛び出した故郷・秩父へ、20年後に戻らせた“町の面白さ”

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「何もなくて」飛び出した故郷・秩父へ、20年後に戻らせた“町の面白さ”

民泊施設「ちちぶホステル」管理人 梅澤修さん

「都会に憧れた若いころは、自分の住む町が何もない田舎に見えました」

そう語るのは、埼玉県秩父市生まれの梅澤修さん・46歳。子どものころは野山を駆け回るガキ大将でしたが、中学に入ると勉強が嫌いになり、高校では学校に行かず、家にも帰らず……友達の部屋で好きなパンクロックのレコードを聴いて過ごしたと言います。

そんな毎日ですから、やっとのことで高校を卒業し、ファミリーレストランに就職しても、たった1ヵ月で辞めてしまいます。何をやっても長続きせず、家でゴロゴロ。いままで我慢していた父親にも、「働かない奴は出て行け!」と言われてしまいました。

その言葉を待っていた修さんは、求人情報誌で探していた社員寮のある神奈川県の中小企業に就職します。山に囲まれた秩父から、憧れの大都会・横浜へ向かいました。

「何もなくて」飛び出した故郷・秩父へ、20年後に戻らせた“町の面白さ”

民泊施設「ちちぶホステル」

「仕事は自販機の営業でした。夏なんかは飲み物を補充したりして、きつかったです。でも可愛がってくれる先輩がいて、会社の雰囲気もよかったですね」

ところが、勤めていた会社が大手飲料メーカーに買収されて、職場の雰囲気がガラッと変わってしまいます。入社当時から面倒を見てくれた上司が異動になり、新しい上司は1年中、売上のことばかり言って来る……。そんな大企業体質が肌に合わず、会社を辞めることばかり考えるようになります。

このころ、週末になると梅澤さんは秩父に帰り、地元の子どもたちを自然のなかで遊ばせて、自主性を育むようなボランティア活動に関わっていました。

「実家に帰ると、自分の部屋があの日のまま残っていたのが嬉しかったです。当時、川崎に住んでいて、窓を開けるとダンプや電車、工場の音が聞こえる環境だったんですよ。秩父の朝は鳥のさえずりで目が覚めるんです。『田舎もいいもんだな』と、このころから思うようになりました」

「何もなくて」飛び出した故郷・秩父へ、20年後に戻らせた“町の面白さ”

民泊施設「ちちぶホステル」室内

梅澤さんが会社を辞めたのは5年前。41歳で秩父に帰って来ます。何もなくて飛び出した秩父でしたが、市内を歩くと洒落たお店やカフェができ、移住する人たちも増えていました。

若いころは秩父の歴史や文化、お祭りに無関心でしたが、いったん興味を持つと「面白い町だな」と思えます。さらに、秩父に帰って再発見したのが、「人が温かいこと」でした。人と人とのつながりで紹介された、お洒落な民泊施設「ちちぶホステル」の管理人として働き始めた梅澤さんは、「サムさん!」と呼ばれています。

「音楽イベントなど、いろいろな人が集まるコミュニティに参加すると、埼玉県北(熊谷、深谷、本庄など、秩父と周辺の町々)には面白い人や魅力的な人、才能溢れる人がたくさんいるんですよ。なのに、その魅力をうまく発信できていないんです」

そこでサムさんは周囲の協力を得て、地元の魅力を再発見する「プロジェクトSAM」を立ち上げます。その試みの1つとして、FMクマガヤで『いつかのサムタイム』という番組を始め、埼玉県北の魅力を伝えています。

「1人の人間は、必ず輝くものを1つ持っていると思うんです。それを結集すればもっと大きなことができるはず。ラジオ番組も、いろいろな人の力を結集して始めることができました。コミュニティFMですが放送作家もいて、面白いコーナーをつくり、ゲストを呼んで、毎週水曜日の夜9時から生放送でワイワイ賑やかにやっています」

「何もなくて」飛び出した故郷・秩父へ、20年後に戻らせた“町の面白さ”

民泊施設「ちちぶホステル」室内

盛り上がりを見せる「プロジェクトSAM」では、さらに面白い企画を始めました。クラウドファンディングの支援金額に応じて走る距離が決まる「プロジェクトSAM マラソン基金」です。

秩父から熊谷までは約40キロですが、目標額は70万円(=70キロ)です。埼玉ゆかりの3偉人である渋沢栄一、全盲の国学者・塙保己一、日本人最初の女性医師・荻野吟子。彼らのゆかりの地である本庄や深谷もコースに入れて、サムさんが1人で走り抜くという企画です。

目標額には日々近づいています。もし100万円が集まったら、「もちろん100キロ走ります!」と胸を張るサムさんですが、走るのが得意というわけではなく、フルマラソンの経験はありません。開催日は11月3日・文化の日。

「僕1人では、ここまでできませんでした。みんなの支えがあってスタートラインに立てました。当日も沿道の声援に励まされながら、1歩1歩ゴールを目指したいと思っています」

21歳で秩父を飛び出し、20年が経って故郷の温もりを知ったサムさん。人と人をつなぎ、その魅力を発信しながら、これからも走り続けて行きます。

「何もなくて」飛び出した故郷・秩父へ、20年後に戻らせた“町の面白さ”

FMクマガヤ「いつかのサムタイム」

■民泊宿「ちちぶホステル」
住所:埼玉県秩父市番場町17-14 2F
営業時間:10:00~19:00(水・木定休)
電話:0494-24-3000
https://chichibu-hostel.com

■「プロジェクトSAM マラソン基金」
https://www.itsukanosamtime.com

■FMクマガヤ『いつかのサムタイム』
放送時間:毎週水曜日 21:00~21:54

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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