「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
2024年春の開業を目指して現在、金沢~敦賀間の工事が行われている「北陸新幹線」。金沢~敦賀間の所要時間は最速40分台となる見込みで、いまの金沢行「かがやき」が、そのまま延伸したとすると、東京~敦賀間は3時間10分程度になると予想されており、北陸への新たなアクセスルートになることは間違いありません。今回は、新幹線開業に向けて大きな工事が進む、福井・敦賀で育まれてきた名物駅弁の製造に密着しました。
(参考)JR西日本ホームページほか
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第32弾・塩荘編(第1回/全6回)
大阪~金沢間を最速2時間半あまりで結んでいる特急「サンダーバード」。昭和39(1964)年に運行を開始した特急「雷鳥」をルーツに、平成7(1995)年、「スーパー雷鳥(サンダーバード)」として登場しました。いまも、毎時1~2本の列車が9~12両編成で運行され、北陸本線のエース的な存在。電化区間が直流・交流にまたがるため、両方を走れる681・683系電車が充当されるのも特徴です。
北陸本線の電化方式は現在、敦賀~南今庄間で直流から交流に切り替わります。手前の敦賀駅は、多くの特急が停まる福井県南部(嶺南)のターミナル駅。京阪神からの「新快速」と北陸本線の普通列車、小浜線も接続しています。2年後の令和6(2024)年には、東京・金沢から北陸新幹線が延伸され、敦賀が当面の間の「終着駅」となります。いまは新しい駅舎の突貫工事中。駅周辺には多くの工事関係者の姿が見られました。
敦賀駅の名物駅弁として知られるのが、「元祖鯛鮨」(1030円)。明治36(1903)年から、敦賀駅の構内営業者となっている「株式会社塩荘」が、製造・販売しています。駅弁膝栗毛の恒例企画、「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第32弾は、この株式会社塩荘に注目。駅からは少し離れた国道8号沿いにある工場にお邪魔して、名物「元祖鯛鮨」の製造に密着しました。
調理場の一角に酢の香りが広がりました。塩荘では酢は甘めの米酢を使用。米は、福井県産コシヒカリを使っていますが、酢飯については、コシヒカリに福井県産のハナエチゼンをブレンドしています。
いまは、ガス釜による自動炊飯システムを入れ、品質を安定させているとのこと。それでも冬は、秋に獲れたばかりの新米が入ってくるため、ご飯を炊き上げるのに水の加減が難しい季節だと言います。
一方では鯛の準備が進められていました。現在の「元祖鯛鮨」は、遠洋で獲れた桜鯛を使って作られています。提携した業者から塩漬けにされた鯛を仕入れ、それを職人さんが包丁を使って、手作業で3枚におろしていきます。おろされた鯛は1枚ずつ、丁寧に酢飯の上に載せられていきます。
酢飯と鯛が詰められた升が、プレス用の機械にかけられ、概ね3分~5分押されます。この「押し」がこだわりの1つ。押しが強いとご飯の粒が潰れてしまいますし、逆に弱いと押し寿司とはなりません。その日の製造個数などを加味して、「押し過ぎない」のが、美味しい押し寿司を作るコツ。昔は大きな石を使って押すために、力仕事だったと言いますが、いまは機械の力を借りて、その日に最適な品質を保っています。
絶妙な加減に押された鯛鮨は、食べやすいようにひと口大の大きさに、包丁が入れられていきます。カットされた鯛鮨は、ひし型の折に1つ1つ、丁寧に並べられていきました。
この上にシートを挟んで、ガリと醤油が載せられると、塩荘が誇る「元祖鯛鮨」の完成! なお、醤油はなくても十分に美味しくいただけますが、東日本エリアにお住まいの方から「醤油がない!」という声が多数寄せられたこともあり、いまは醤油も添えているそうです。
【おしながき】
・鯛鮨(酢飯:福井県産コシヒカリ・ハナエチゼン使用、鯛)
・ガリ
・醤油
緑のパッケージを開けると、ひし形の容器から、甘めの酢の香りがフワ~っと広がります。軽く酢で〆られた鯛、程よく押されつつも、ふんわりとした食感を残した酢飯のバランスが、じつに見事な、塩荘の「元祖鯛鮨」です。ひし形の容器なのは、魚に見立てているから。昔はひし形の折箱にレッテル(掛け紙)をかけると、角の部分が魚の尾ひれのように見えたからだと言います。
かつての特急「雷鳥」と並んで、昭和39(1964)年からの歴史を誇る北陸の特急列車が、名古屋・米原~金沢間で運行される「しらさぎ」です。いまの「サンダーバード」が関西~北陸を結ぶ列車であるの対し、「しらさぎ」は中京~北陸を結ぶ列車。北陸は中部地方の一部ですので、名古屋との結びつきも強い地域です。次回は「元祖鯛鮨」を製造する、株式会社塩荘の刀根荘兵衛社長に、敦賀と鉄道・駅弁の歴史を伺います。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/