駅弁大会から見える、「味の継承」問題
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
過疎化、少子化、事業承継……いまの日本が抱える問題は、「駅弁」にも大きな影を落としています。問題を抱えながらも、何とか踏ん張っていた地方の駅弁屋さんのなかには、災害などをトリガーに、廃業に追い込まれるケースは珍しくありません。その結果、いまでは、全国の駅弁業者は100を大きく割り込んでいます。戦後すぐのころは、「駅弁大学」という言葉もありましたが、いまは駅弁屋さんより大学のほうが、はるかに数が多くなっています。
京王百貨店新宿店「第58回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」見て歩き(第5回/全5回)
岩手県の県庁所在地・盛岡市と三陸海岸の宮古市を結んでいる山田線。「山田線」の路線名は、海沿いの山田町に由来しますが、平成31(2019)年3月に宮古~釜石間が、三陸鉄道に移管されたことで、山田町を通らない山田線となっています。快速「リアス」は、盛岡~上米内間の各駅と陸中川井、茂市、千徳に停まりながら、約2時間20分の旅。急行バスが優勢な区間ですが、バスの圧迫感が苦手な方には、大変ありがたい存在です。
快速「リアス」が発着する宮古駅でかつて販売されていた駅弁が「いちご弁当」。うにとあわびを使った「いちご煮」に由来する郷土色豊かな弁当で、「駅弁膝栗毛」でもご紹介したことがありますが、残念ながら製造元の廃業により販売が終了しました。この「いちご弁当」(2350円)を、米沢駅弁・新杵屋が受け継ぐ形で復刻。京王百貨店新宿店の「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」には、今回初めて登場し、注目を集めています。
【おしながき】
・茶飯
・うに
・あわび煮
・桜漬け
・茎わかめ
・酢蓮根
蓋を開けた瞬間からフワっと広がる磯の香り。これぞ「いちご弁当」です。新杵屋によると、味の復刻はとても厳しかったと言います。宮古へ何度も通って、魚元の女将さんやお勤めになっていた方に付いて調理法を学んだそうで、そのこだわりと手間に大変驚いたと言います。舩山社長は、「女将さんや亡くなられた親方が頑張ってこられた姿を見ているので、(受け継いだ味を)大切にしていきたい」と話しています。
このような形で、駅弁屋さんの廃業後、レシピを他の駅弁屋さんが受け継ぐケースが、近年は目立っており、京王の駅弁大会でも「輸送駅弁」として販売されている松山名物「醤油めし」も製造元は岡山駅弁の三好野本店です。こちらも長年にわたる駅弁屋さん同士の横のつながりから、レシピを受け継いで「味の継承」が行われた一例。それぞれのお店がしっかり続いて、土地の水・空気で作られた弁当が提供されることが第一義ですが、次善の策として、このような「味の継承」は、今後もあり得るのかなと思います。
今回の「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」ではローカル線応援企画として、福井の越美北線・九頭竜湖駅に隣接する道の駅で販売される弁当をモチーフとした「越前大野 九頭竜まいたけ弁当」(1200円)も実演販売されています。こちらは、京王百貨店の方が、たまたま道の駅に立ち寄ったことがきっかけで弁当化されたそう。故郷の味が東京で評価されることで、新たなご当地名物も生み出してきた駅弁大会。果たして新名物となるか?
この九頭竜湖駅がある越美北線は昨年(2022年)、全線開通50年を迎えました。今後、北陸新幹線敦賀開業という大きな動きはありますが、ローカル線としては厳しい状況です。これから人がどんどん少なくなる日本にあって、鉄道、駅弁、百貨店、それぞれの文化を一体、どう「継承」していくのか? 時代の曲がり角で、伝統の駅弁大会に関わる皆さんの努力と創意工夫が、今後の日本を育む「種」となって欲しいと願いました。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/