五能線「リゾートしらかみ」が大きく変えた、駅弁のあり方とは?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
秋田新幹線が開業して25年あまり。開業に合わせて運行を開始した五能線の快速列車「リゾートしらかみ」は、列車に乗ること自体が旅の目的となる、東日本エリアの“のってたのしい列車”という新しいブランドを確立。全国にユニークな観光列車が生まれるきっかけとなりました。じつはこの「リゾートしらかみ」という存在が、秋田の駅弁が大きく変化するきっかけにもなったと言います。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第41弾・関根屋編(第4回/全6回)
全国のローカル線のなかでも、特に人気を集めるのが秋田と青森の海沿い絶景区間を走る「五能線(ごのうせん)」です。その牽引役を担っているのが、快速「リゾートしらかみ」。「リゾートしらかみ」は平成9(1997)年の秋田新幹線開業とともに誕生し、去年(2022年)で運行開始から25年を迎えました。現在は、「青池」「橅」「くまげら」の3編成によって、秋田~弘前・青森間で、1日最大3往復の列車が運行されています。
この「リゾートしらかみ」の秋田駅発車ホームで、駅弁の台車売りを行っているのが、明治35(1902)年の秋田駅開業とともに、鉄道構内営業を担っている「株式会社関根屋」です。この台車売りは、予約した駅弁の受け渡し場所にもなっており、「リゾートしらかみ」には、なくてはならない“旅のお楽しみ”の1つとなっています。秋田新幹線の開業とリゾート列車がもたらした駅弁の変化について、金子達也代表取締役にお話しいただきました。
●秋田新幹線開業、全車指定席化で、駅弁販売も大変化!
―秋田新幹線の開業によって駅弁が売れる時間帯が変わったそうですが、開業に向け、関根屋で取り組んだことはありましたか?
金子:記念駅弁として「鰰(はたはた)すめし」(いまはお休み中)を開発したことでしょうか。ただ、秋田新幹線では、駅構内売店が全て日本食堂(98年からNRE)が行う形になり、駅弁の納入業者になったのは大きい変化でした。新幹線ホームでの販売や車内販売も叶わず、正直、開業1年ほどは苦しい状況でした。しかし、弊社の駅弁を食べたいというお客様の声に支えられ、新幹線や観光列車への弁当納入ができるようになりました。
―さらに大きな変化があったそうですね?
金子:平成14(2002)年12月1日のダイヤ改正から「こまち」が全車指定席となりました。これに伴って、発車前のホームの人がこれほど少なくなるとは、思いもよりませんでした。ただ、当時は皆さん、この変化は受け入れていたんです。特に冬場、寒風吹きすさぶなか、自由席のためにホームでお客様にお並びいただくのは大変ではないかと。お客様目線で取り組んだ改革だったんですが、まさかこのような形で帰ってくるとは思いませんでした。
●「リゾートしらかみ」が変えた、駅弁のあり方~お値打ち感よりご当地感~
―秋田新幹線の開業と合わせて、五能線の「リゾートしらかみ」の運行も始まりましたが、駅弁に与えた影響はありますか?
金子:大きな影響がありました。まず、お客様の駅弁に対するニーズが変わったんです。それまで駅弁は、ビジネス+αで観光といったコンセプトで開発していましたが、「リゾートしらかみ」では“非日常の駅弁”が求められるようになりました。具体的には非常に地域性の強い駅弁、“お値打ち感よりもご当地感”のある駅弁です。加えて「(リゾートしらかみの)車内で駅弁をいただくのが楽しみです!」とおっしゃってくださるお客様が増えてきました。
―「駅弁をいただく」ことが、旅の目的になっていったんですね。
金子:それまでは移動中に、何となく駅弁を召し上がるお客様が多かったと思うんです。我々もリゾート列車のお客様の感覚で弁当を開発したことがなくて、「値段が高い弁当は売れないだろう」と思っていたので、この変化にはびっくりしました。値段ではなく、ご当地感やコンセプトがしっかりした駅弁を、お客様が求められているのだと気付かされました。その意味では、“乗ってたのしい列車”の運行が、駅弁のあり方も変えてきたと感じます。
●大きくてご飯が多い駅弁から、小さくてご飯が少ない駅弁へ!
―秋田新幹線開業は、関根屋の120年で最大の出来事だったかと思いますが、その後、駅弁を取り巻く環境には、どんな変化がありましたか?
金子:首都圏の「駅弁屋旨囲門」や東京駅の「駅弁屋祭 グランスタ東京」に駅弁を置かせてもらうようになったことも大きな変化ですね。首都圏から秋田へお越しになるお客様のニーズをつかみやすくなりました。また、NRE大宮駅売店と共同で駅弁開発を行った際は、衝撃を受けました。正直、ご飯の量と弁当のサイズは、こんなに小さくていいのかと驚きました。
―ひと昔前の駅弁って、やっぱりご飯が多い駅弁が多かったですよね。
金子:とくに秋田は長年、弁当のサイズが大きかったんです。それは伯養軒秋田支店の弁当が大きく、他社も負けじと弁当のサイズを大きくしていました。秋田新幹線開業後も、NRE秋田支店の弁当のサイズがこれまた大きくて、弊社も大きくせざるを得ませんでした。いざ、弊社の弁当を持って首都圏へ行きますと、当初は大きすぎると置いてもらえず、「これじゃダメだ」と痛感させられました。我々がよしとしていたことが全く正反対だったんです。
秋田駅の駅弁売り場をのぞきますと、少しコンパクトな容器ながらゴールドのパッケージが燦然と輝いているのが、昨年(2022年)の「リゾートしらかみ」運行開始25周年を記念して発売された駅弁の1つ、「秋田まるごと一枚あわびめし」(1550円、原則予約制)です。パッケージにも、「秋田」と「あわびめし」の文字が大きくデザインされていて、強くアピールしています。このくらいのボリューム感なら、駅弁もご当地グルメも一緒に楽しめますね。
【おしながき】
・だし汁ご飯(秋田県産あきたこまち)
・あわび煮
・いくら醤油漬け
・しその実入りわかめ
・錦糸玉子
・りんごのコンポート
だし汁で炊いたご飯の上に、出汁で味を付けたという肉厚なあわびがまるごと一枚、ドーンと載っていて、「秋田まるごと一枚あわびめし」の名前にふさわしい駅弁となっています。いくらや味付けわかめでアクセントをつけながらいただいたら、デザートは、りんごのコンポートでサッパリと〆ることができます。秋田から青森にかけて日本海の絶景を眺めながら、「リゾートしらかみ」でいただくには、最高の駅弁ですね。
全車指定の快速列車として運行されている「リゾートしらかみ」。3月中は週末を中心に、ハイブリッド車両の「青池」「橅」編成による、1日1.5~2往復程度の運行。4月以降は、3編成がフル稼働して、ほぼ毎日、3往復の運転が予定されています。「JR東日本パス」はもちろん、指定席券を購入すれば、「青春18きっぷ」でも乗車できるのが嬉しいもの。春の兆しを感じながら、日本海を眺めて、のんびりと駅弁旅を楽しみたいですね。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/