秋田の老舗駅弁屋さんが、「秋田の食」をアピールする理由
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
在来線特急時代、約7~8時間を要していた東京~秋田間。秋田新幹線の開業により、いまでは最速3時間半あまりまで短縮され、首都圏の駅にも秋田駅の駅弁が日常的に置かれるようになりました。それでも、秋田の老舗駅弁屋さんは“秋田の食”のアピールに余念がありません。その背景には、ふるさと・秋田への大きな誇りと危機感がありました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第41弾・関根屋編(第6回/全6回)
岩手・盛岡と秋田・大曲を結ぶ「田沢湖線」を走る秋田新幹線「こまち」号。田沢湖線は、昭和57(1982)年の東北新幹線・盛岡開業によって、盛岡~秋田間の特急「たざわ」が走り始めたことで大きく運命が変わりました。そして、秋田新幹線のルートになり、平成8(1996)年には1年間運休してレールの幅を広げる工事が行われました。翌1997年から秋田新幹線「こまち」の運行が始まり、現在に至ります。
かつては3つの駅弁屋さんが営業していた秋田駅。いま、秋田市を拠点に駅弁を製造しているのは、「株式会社関根屋」ただ1軒となりました。「いまはお客様の声がダイレクトに届くようになりました。お客様や関係者の声をより活かして、駅弁づくりをしています」と、話すのは、関根屋の金子達也代表取締役です。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第41弾・関根屋編、ラストとなる今回は、駅弁作りで大切にしていることから伺っていきます。
●駅弁で「秋田の食」の情報発信を!
―金子社長にとって、「駅弁作り」でいちばん大切なことは何ですか?
金子:全国的に“秋田を忘れている”方が、とても多いと危機感を持っています。秋田に1人でも多くのお客様にお越しいただけるように、食の情報発信が大事だと考えています。秋田県産食材、伝統的な調味料、食文化を盛り込んで「秋田の食の情報の商品」としての駅弁、秋田にお越しいただくきっかけになる駅弁を作っていきたいです。「いぶりがっこ」で痛感しましたが、知らなかったことを知っていただくことで、物事は大きく変わるんです。
―そこまで「情報発信」にこだわるのは、どうしてですか?
金子:生産者の皆さんの高齢化が深刻だからです。昨年(2022年)、長年取引をしていた秋田蕗(ふき)の生産者の方が廃業されました。ジュンサイを採る人も少なくなっています。だからこそ、駅弁で食の情報を発信することで、後継者の危機にスポットを当てたいと考えています。情報発信によってそういった課題も注目されるようになればと期待しています。
●これからも残していきたい、秋田駅弁の「台車売り」!
―その意味でも、首都圏への発信力を持っているJRさんとのコラボレーションは欠かせないですね?
金子:JRさんとは情報交換したり、(できるだけ密に)連携を図るようにしています。JRさんからの要請で作る駅弁もありますし、こちらから提案することもあります。令和3(2021)年の東北デスティネーションキャンペーンでは、約4年をかけたロングラン企画として、秋田県内の地域別に名物を盛り込んだ「秋田のんめもの弁当」を、製造・販売いたしました。昨年(2022年)は、秋田駅開業120周年記念弁当も製造しました。
―一方で、秋田駅ホームの駅弁の「台車売り」も残していきたいですね。
金子:現在、台車売りは在来線ホームで、特急「つがる」「いなほ」と、快速「リゾートしらかみ」の発車に合わせて行っています。とくに「リゾートしらかみ」にご乗車になるお客様は予約弁当の受け渡し場所にもなっています。なまはげのお面を頭に載せて担当している田中さんは、秋田駅のホームでの台車売りをやりたくて弊社に入って下さいました。秋田駅開業からの鉄道構内営業者として、今後も続けていきたいです。
●田沢湖線の険しい山のなかを走り抜ける「こまち」で駅弁を!
―関根屋創業120年を超えて、今後はどこを守り、どこを発展させていきたいですか?
金子:駅弁をベースに、伝統の製法についてはしっかりと守っていきたいです。ただ、商品開発は、時代の流れにあったものをやっていきたいと考えています。いまは健康志向が高まっていますので、極力、添加物を減らしたり、ご飯の量も考えていかなくてはいけませんが、秋田という土地柄、米農家さんが多いので、米の量を減らすのは本当に悩ましいですね。ただ、米の産地ですから、ご飯のメニューは、もっともっとアレンジしてみたいです。
―金子社長お薦め、関根屋の駅弁を“美味しくいただくことができる”、鉄道の車窓は?
金子:田沢湖線ですね。冬は雪景色、秋は車窓からの紅葉、そして春は桜が楽しめます。国道46号と並行している区間もありますので、「こまち」と車が並走する風景もあります。険しい山のなかで新幹線車両とクルマが並走する風景は、駅弁をより美味しくいただけると思います。首都圏からのお客様は、どうしても田沢湖、角館でお帰りになる方が多いので、これを何とか、秋田まで足を伸ばしてもらえるように、今後も呼び込んでいきたいです。
最近、話題になっている「秋田の食」といえば、秋田米の新品種「サキホコレ」。秋田駅のコンコースにも本格デビュー記念のモニュメントが設置されるなど、大きくPRされています。このサキホコレを使って作られている関根屋の駅弁が、「サキホコレ弁当」(1280円)です。2021年秋のプレデビュー時に数量限定で販売され、昨年秋からこちらも本格デビューとなりました。掛け紙にも“うまさ全開”と書かれていますね。
【おしながき】
・サキホコレの白いご飯
・秋田牛すき焼き風煮(椎茸・筍入り)野菜添え
・比内地鶏ミニメンチ串
・いぶりがっこ盛り合わせ(大根・人参)
・秋田県産とんぶり入り蒲鉾
・秋田県産椎茸煮
・厚焼き玉子
・こごみ胡麻和え
・梅
「サキホコレ弁当」は、関係者の皆さんと色々、意見をぶつけ合って開発されたと言います。なかでもこだわりはご飯の位置。サキホコレがメインであることを打ち出すために真ん中にご飯を配置したのだそうです。秋田牛のすき焼き風煮、比内地鶏のミニメンチはもちろん、とんぶり入り蒲鉾、こごみ、いぶりがっこといったおかずがぎっしり。ご飯はもちろん、おかずも秋田らしさ満開の駅弁に仕上がっています。
「鉄道開業150年記念ファイナル JR東日本パス」の利用期間は、3月15日(水)まで。多くの方は東北新幹線「はやぶさ」で青森へ行くか、秋田新幹線「こまち」で秋田へ行くかの二択で迷われるかも知れませんが、両方へ行くのも楽しみ方の1つです。今回は行けない方も、1ヵ月もすれば、本格的な桜のシーズンがやってきます。今年(2023年)は北東北の桜を追いつつ、秋田の美味しいご飯をいただきながら、笑顔満開の春を迎えてみませんか?
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/