秋田の老舗駅弁屋さんがこだわる、“寒さに強い”駅弁作りとは?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

秋田比内地鶏こだわり鶏めし

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駅弁の基本哲学「冷めても美味しい」。全国の駅弁屋さんが、この至上命題をクリアするために、日々、さまざまな努力を重ねています。そのなかにあって、秋田の老舗駅弁屋さんは、冷めても美味しいはもちろん、“寒さに耐えられる”駅弁にこだわって作っていると言います。寒さに強い駅弁を作り上げるためには、どのような調理をしていく必要があるのか、そのトップにお話を伺いました。

E751系電車・特急「つがる」、奥羽本線・八郎潟~鯉川間

E751系電車・特急「つがる」、奥羽本線・八郎潟~鯉川間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第41弾・関根屋編(第5回/全6回)

広大な八郎潟干拓地を望みながら、奥羽本線の特急「つがる」号が走ります。八郎潟はかつて、滋賀県の琵琶湖に次ぐ日本第2位の広さを誇る湖でしたが、昭和30年代から、戦後の食糧不足を解消することを目的として干拓事業が行われ、湖の大部分は農地に生まれ変わりました。広大な農地では、あきたこまちをはじめとした秋田の美味しい米が、育まれています。

(参考)秋田県ホームページほか

株式会社関根屋・金子達也代表取締役

株式会社関根屋・金子達也代表取締役

そんな秋田の米をたっぷり使って作られているのが、明治35(1902)年の創業以来、秋田駅弁を手掛ける「株式会社関根屋」の弁当です。秋田を代表する米といえば、昭和59(1984)年に誕生した「あきたこまち」。さらに、一昨年(2021年)からは、高級ブランドの「サキホコレ」も登場しました。秋田の美味しい米を活かして、一体、どのようなこだわりを持って駅弁を作っているのか? 金子社長に伺いました。

あきたこまちのご飯

あきたこまちのご飯

●秋田が誇る米! 美味しく、美しく、ご飯を届けたい!

―駅弁に使っているお米は、やはり「あきたこまち」ですか?

金子:新作の「サキホコレ弁当」以外の駅弁は、すべて「あきたこまち」を使用して、丸いガス釜で炊いています。ただ、年度・季節によって米の水分量が変わりますから、炊き方も変えています。米は秋田県産で味のブレがないようにエリアを限定して仕入れていて、炊きムラができないよう、できるだけ米粒の大きさが均一になるようにしています。秋田県は、米農家のお宅が多いので、米へのこだわりは強いです。

―秋田の新しいお米「サキホコレ」は、いかがですか?

金子:「サキホコレ」は、(高級なブランド米という位置づけで)あきたこまちと比べて、粒が大きいのが特徴です。炊き上がった際の見た目の色も違いますし、炊く際に使用する水の量も違います。実際に使い始めてからまだ2年目ですので、試行錯誤しながら炊いているのが正直なところです。米粒が大きいせいか、(召し上がった際に)「弾力がある」と、お話しになるお客様も多く、反応も上々です。

秋田牛に片栗粉でとろみをつけていく作業

秋田牛に片栗粉でとろみをつけていく作業

●“寒さに耐えられる”駅弁づくり!

―食材や調理方法のこだわりを教えてください。

金子:食材は多くが秋田県産です。比内地鶏などブランドを謳っているものは100%使うようにしています。秋田牛の弁当などは、冷めても牛肉が乾かないように片栗粉を使い、とろみのあるたれで仕上げています。駅の売り場は冬、冷える立地であることや輸送駅弁も東京まで時間がかかることを考慮し、“寒さに耐えられる”調理を心がけています。とくにご飯がパサつきやすいので、ご飯に具材を載せて覆う弁当(のせ弁)をメインにしています。

―魚介類の駅弁は、価格高騰で大変ではありませんか?

金子:秋田市は日本海に面した街ですので、海の幸をイメージされるお客様が多くいらっしゃいます。人気の「鰰すめし」は食材が揃ったとき、そして、あわびの弁当もできるだけ継続的に販売しています。とくに快速「リゾートしらかみ」は、途中の停車時間も短めで、乗りっ放しになるお客様も多いです。ですので、次に秋田へお越しになった際に街へ出て美味しいものを召し上がっていただくきっかけとして、作り続けていきたいと考えています。

いぶりがっこ(人参)が入った「秋田牛と白神まいたけの弁当」

いぶりがっこ(人参)が入った「秋田牛と白神まいたけの弁当」

●秋田の味を駅弁で!

―秋田ならではの味付けはありますか?

金子:できるだけ秋田の食文化を反映しています。例えば、「サキホコレ弁当」には、仙北市の「御狩場焼」という味噌焼きの食べ方を取り入れています。また、醤油は地元産の甘い醤油を使っています。できるだけ、秋田の食卓の“当たり前”の味を弁当に活かしています。

―「いぶりがっこ」が入った弁当も多いですね?

金子:じつは親戚にいぶりがっこの業者がいることもあり、駅弁にはできるだけ「いぶりがっこ(大根・人参)」を入れています。入れ始めたころは、独特の香りのため、とくに西日本方面のお客様からさまざまな意見をいただきました。「秋田比内地鶏こだわり鶏めし」に入れたのが最初で、そのころは「いぶりがっこ」の説明書きも入れていました。いまでは、だいぶ知名度が上がって、お客様からのご意見も減ってきています。

秋田比内地鶏こだわり鶏めし

秋田比内地鶏こだわり鶏めし

関根屋が初めて駅弁に「いぶりがっこ(人参)」を入れたという駅弁、「秋田比内地鶏こだわり鶏めし」(1150円)。秋田らしく、なまはげのイラストが描かれたスリーブ式の包装にも、「比内地鶏100%」の文字が躍ります。昨年(2022年)秋には鉄道開業150年に合わせ、日本鉄道構内営業中央会による「復刻駅弁」企画にも参加。この駅弁に、昭和のころに使われていた掛け紙を施したバージョンが登場したのも、記憶に新しいところです。

秋田比内地鶏こだわり鶏めし

画像を見る(全10枚) 秋田比内地鶏こだわり鶏めし

【おしながき】
・比内地鶏鶏めし
・比内地鶏照り焼き
・比内地鶏つくね
・比内地鶏ごまそぼろ
・錦糸玉子
・とんぶり入り蒲鉾
・椎茸煮
・ごぼう煮
・ぜんまい煮
・じゅんさい酢のもの
・いぶり人参

秋田比内地鶏こだわり鶏めし

秋田比内地鶏こだわり鶏めし

比内地鶏のガラスープで炊き上げたあきたこまちのご飯。その上に、比内地鶏の照り焼きとつくね、ゴマそぼろを載せ、比内地鶏100%にこだわったという「秋田比内地鶏こだわり鶏めし」。令和2(2020)年秋には、おかずにとんぶり入り蒲鉾が加わって、いぶりがっこ・じゅんさいの酢の物・ぜんまいの煮物などと合わせて、一層、秋田らしさを追求した駅弁になりました。脂が多い食材を冷めても美味しく仕上げているところは、本当に見事です。

EV-E801系電車「ACCUM」・普通列車、男鹿線・船越~天王間

EV-E801系電車「ACCUM」・普通列車、男鹿線・船越~天王間

男鹿線の新型車両「ACCUM」が、寒風山をバックに八郎潟と日本海がつながる船越水道を軽快に渡っていきます。男鹿線は、奥羽本線の追分から分岐する男鹿までの非電化路線ですが、全ての列車がこの大容量のバッテリーを備えた電車によって、秋田発着で運行されています。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の関根屋編も、次回でいよいよ完結。駅弁作りで大切なことを金子社長に伺います。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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