脳科学者が解説 「記憶力」「集中力」が上がる食事方法
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脳科学者の西剛志先生が、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)にゲスト出演。脳にいいという「低GI食」や、食事が集中力や記憶力へ大きく影響することについて解説した。
食事が「集中力」や「記憶力」に影響する
上柳:先生の著書に「脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる 低GI食 脳にいい最強の食事術」(アスコム)がありますが、この「低GI」とはどういうものなのでしょうか?
西:GI(グリセミックインデックス)は、簡単に言えば「糖質」を取った時の血糖値の上昇を100とした時にどれくらい上がるか、という指標です。「高GI」は血糖値が上がりやすい食べもの。「低GI」は血糖値が上がりにくい食べ物のことです。
上柳:その血糖値が上がると、どうなるのですか?
西:例えば、たくさん食べた後に眠くなること、ありませんか?
上柳:ありますよね。
西:たくさん食べたのに、なぜかおなかが空くことはありませんか?
上柳:あります。食べたのになんでだろう、と。
西:大量の糖質を取ると、急激に血糖値が上がってしまいます。すると、脳にとっては危険な状態になり、脳が指令を出して大量の「インスリン」を出し、血糖値が急に下がってしまいます。これを「血糖値スパイク」といいます。
こうなると、結局は「脳」にエネルギーが行きません。なので、集中力、記憶力が落ちて眠くなるんです。
上柳:食事の内容によっては、眠気を誘ってしまったり、集中力を落としてしまったりするのですね。
「低GI食」とは
上柳:「低GI食」は分かりやすいものだと、どういうものがありますか?
西:基本的には、白いものより茶色いものが多いです。例えば――
・白米よりも「玄米」
・うどんよりも「蕎麦」
・白い食パンよりも「ライ麦パン」
――こうしたものの方が血糖値が上がりにくいです。
上柳:低GI食を食べると、血糖値はゆるやかに上がってゆるやかに下がり、インスリンもゆるやかに出る。その方が、脳がよく働くということですね。
難病の症状が消えていった経験
上柳:先生は脳科学者ですが、東京工業大学大学院生命情報専攻修了とのことで、大学に行こうと思った時は、何になりたいと思われていたんですか?
西:昔から生き物が大好きだったので、当時は生物学者になりたかったんです。人の体の仕組みに興味があり、もちろん、脳にも興味がありましたが、いろいろと転機がありました。
上柳:転機とは?
西:実は30代前半で難病を宣告された経験があり、それを転機に自分の人生を振り返ったんです。最新の研究で「脳が痛みを生み出している」ということが分かっているのですが、それで私は脳に興味をもち、研究したんです。そうしたら実は、病気が完治してしまったんです。
上柳:どんな難病だったのですか?
西:自己免疫疾患といって、自分の免疫が自分自身を攻撃してしまう病気でした。
上柳:治療法はあったのですか?
西:現在もそうですが、難病というぐらいなので。対処療法はありますが、完治はしにくいといわれています。
上柳:でも西先生は、ほぼ治ってしまったと?
西:そうですね、私の中では治ったと思っていますが、専門用語ではこういう状態を「寛解(かんかい)」といいます。
上柳:「寛解」、そういう症状が消えていったということですね?
西:はい。難病が発症してから3年半ぐらい闘病生活をしていましたが、結局3年半で寛解してしまいました。それから十数年たっていますが、全く症状が出てなく、元気にさせていただいています。
皮肉なことに、私は大学で免疫系の研究もしていたんです。免疫のことばかり考えていたら、免疫の病気になってしまったという話なんです。
上柳:ですが、そういう大変なことを経験されると、毎日の食事に気をつけようと思いますよね。
西:本当にその通りで、普段食べているものがいかに自分の体に影響するか、ということを意識し始めたのは、この病気がきっかけでした。
「脳」は大量のエネルギーを消費する
西:脳は、非常に大量のエネルギーを消費する組織です。体全体のたった2%の質量しかないのですが、エネルギー消費量としては全体の20~25%も消費しています。
先日、将棋の羽生善治さんをずっと取材している記者さんから話を伺いましたが、羽生さんは対局時に4キロも痩せるそうで。ものすごく頭を高速回転させているんですよね。
上柳:4キロも! そういえば、藤井聡太さんも対局時、結構がっつり食べている様子が紹介されていますよね。あれぐらい欲してしまうということなんですかね?
西:そうですね。脳は大量のエネルギーを消費するので、カロリーが少なくなってしまうと、どうしても集中力や記憶力が落ちてしまいます。
上柳:具体的にどういうものが、脳のエネルギーとなるのですか?
西:基本的には「ブドウ糖」から供給されるエネルギーで、「カロリー」と言われるものです。ただ、先ほども紹介したように、急激に血糖値が上がるような食事をしても、脳にエネルギーは行きません。
定常的にエネルギーを供給できるのが、「低GI食」と呼ばれるものです。低GI食は、血糖値がゆるやかに上がって、ゆるやかに落ちるので、「定期的なエネルギーを長時間、脳に供給できる食べ物」なんです。
「高GI食」を「低GI食」に近づける食べ方
西:脳にエネルギーが行かないと「集中力が落ちる」という現象が起きます。さらに、「記憶力も落ちる」ということも分かっています。
そこで、オートミールやライ麦パンといった低GI食を食べるのをお勧めしていますが、「高GI食」を食べたとしても、「食物繊維が含まれていればGIが下がる」という傾向があります。
例えば、朝食に野菜や果物などの食物繊維が豊富なものを食べてからパンを食べると、食物繊維が小腸のクッション材となり、糖質の吸収が遅れます。ですから、高GI食を食べても低GI食に近い食事が実現できます。
低GI食で「集中力」「記憶力」「情報処理力」が上がる!
西:低GI食に関するいろんな研究があります。例えば、21歳前後の若者を対象にした研究で、「低GI食」を食べると、「食後2~3時間後の集中力と記憶力が20~30%上がる」という研究があります。
一方、「高GI食」を食べると集中力と記憶力が下がってしまいました。だから、白い食パンだけを食べてしまったり、ご飯だけとか、そういう食事だと2~3時間後の集中力や記憶力が落ちてしまうんです。
上柳:食事でそんなにも差が出るのですね。
西:また、11~14歳の子どもを対象にしたイギリスの研究では、食事が「情報処理力」に20%前後も影響することが分かりました。
上柳:受験を控えた学生さんを持つ親御さんなんかは、食事を工夫してあげることが、お子さんを応援することに繋がりそうですね。
西:ただ、注意していただきたいのは、低GI食を毎日取る必要はないんです。「明日は大事な日だ」「ここぞ!」という時にとればいいと考えています。低GI食にしていただくと、パフォーマンスが上がります。
毎日やらないと……と、義務感でやってしまうのは、脳に最も良くないんです。ストレスは学力を下げてしまうので、ストレスに感じてしまったら意味がありません。高GI食を食べたい時もあるでしょうし、もちろん取っても大丈夫です。ただ、ここぞという時は、低GI食を取っていただくと良いと思います。
「低GI食」というとダイエットにいいことで注目されがちだが、脳にも素晴らしい影響を与える。脳を働かせるには食事からのエネルギーが必要で、脳に適切なエネルギーを届ければ、集中力、記憶力、情報処理力のパフォーマンスをアップできる。仕事や勉強に集中できない、なぜか頭が働かない、食後はいつも眠い……こうした悩みのある方は、低GI食を試しに取り入れてみてはいかがだろうか。
脳科学者・西剛志先生と、上柳昌彦アナウンサーの詳しいトーク内容は、「食は生きる力今朝も元気にいただきます」特設コーナーHP(https://www.1242.com/genki/index.html)から、いつでも聞くことが可能だ。
番組情報
「上柳昌彦 あさぼらけ」内で放送中。“食”の重要性を再認識し、「食でつくる健康」を追求し、食が持つ意味を考え、人生を楽しむためのより良い「食べもの」や「食事」の在り方を毎月それらに関わるエキスパートの方をお招きしお話をお伺い致します。
食の研究会HP:https://food.fordays.jp/