奄美大島にある郷土料理の店「なつかしゃ家」店主・恵上イサ子さんが、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)に、リモートでゲスト出演。奄美料理の特徴や魅力、恵上さんが教員から飲食店の店主となったきっかけについても語った。
恵上さんは中学校の校長を定年退職後、奄美の食文化を後世に伝えるべく、2012年古民家を改築した「なつかしゃ家」をオープン。2021年には、アジアの豊かな食文化を伝えるレストランのリスト「エッセンス・オブ・アジア」にて、日本からの6店舗にも選出。一度訪れた人はイサ子さんに会いに行きたく、また足を運ぶといわれている。
■人の温かさを感じる奄美料理
上柳:奄美大島の料理というと、どんな特徴があるのでしょうか?
恵上:奄美の料理は、食べることによって作った人の温かさや、うれしさ、そういったものが一つ一つの食材を通して伝わっていくのが、奄美料理の原点なのかなと考えています。
上柳:恵上さんは生まれた時から奄美大島で育ち、その料理はお母様から習ったのですか?
恵上:そうですね、すべての原点は母の手作り料理です。他にも、教職生活38年の間に奄美群島をいろいろと回ったのですが、その所々のいいもの、繋いで伝えているものを食べさせていただき、こういった経験が元になっていると思います。
上柳:島の中でも食文化は違うものなのですか?
恵上:全然違っていて、集落ごとでも異なります。例えば、私のレシピ本『健康・美肌・長寿の島の贈り物 奄美ごはん』(東京ニュース通信社)の中でも紹介していますが、「三献(さんごん)」という儀式が奄美大島本島にはありますが、喜界島や徳之島にはありません。
上柳:「三献」は祝いの儀式のことだそうですが、具体的にどういうものなんですか?
恵上:お祝い、結納、年初めなどに食べるものです。一番大事な人を迎える時、奄美本島の人たちは「三献」という料理でお迎えをしています。
上柳:本の中で「三献」について、一の膳、二の膳、三の膳と紹介されていますが、これも地域によって違うのですか?
恵上:はい、一の膳と二の膳はほとんど一緒ですが、三の膳は異なります。
上柳:赤いお椀に入ったのが一の膳で、餅のお吸い物。「お雑煮」とは言わず、「餅のお吸い物」というのですね。
恵上:そう、雑煮とは言わないんです。
上柳:そして二の膳は、昆布締めにした白身魚の刺身に、生姜を添えていますね。これは、奄美のどの辺りの地域で食べられているのですか?
恵上:この二の膳は、奄美大島本島のものです。
上柳:三の膳は黒いお椀で、豚肉のお吸い物が出てくると。
恵上:はい。私が北大島、笠利町の出身なので豚肉を。他の地域だと、鶏のお吸い物、蟹のお吸い物、魚のお吸い物など、地域ごとで変わります。
上柳:奄美大島の中でも、地域によって本当に全然違うのですね。
■なぜ、教員から飲食店の店主に
上柳:中学校の校長先生までされて、その後、食べ物のお店を出すというのは、なかなかの決断ではないかと思います。何が恵上さんの背中を押したのですか?
恵上:思春期の子ども達と接して、ご飯を食べられなかった子ども達も結構いたんです。家出をしたりとか、いろんなことがありました。その時、1杯のおみそ汁が子どもの心を救ったこともあり、そういう子達を二度と作りたくないという思いから、退職後は、かつての教え子達が訪ねて来られるような店を作りたかったんです。
そして、奄美大島の食文化、祖先の方々が繋げてきたものを大事にしたいなと。そんな2つの思いがあってお店を始めました。なので、そんなにすごい決意があったわけではなく、現職時代から考えていたことです。
上柳:子どもたちがご飯を食べられなかった、という話ですが、食べるものがない環境で暮らす子ども達がいた、ということですか?
恵上:いろんな家庭環境の子ども達がいまして、母親が夜の仕事に行って朝起きられないから、朝ごはんが食べられないとか。夜の仕事をするから、夕ご飯の準備ができていないとか、そういう子ども達が結構いました。その中には貧しい子ども達もいたんですが……。
上柳:なるほど……。実際に郷土料理の店「なつかしゃ家」をオープンさせたところ、教え子の皆さんが結構手伝ってくれているそうですね。
恵上:そうなんです。いろんな物を届けてくれます。ある子は、「ギンメダイを釣った!」と言って、大きな発泡スチロールに入れて神戸から送ってくれたり、奄美大島に帰って来るたびに、28キロもの魚を持ってきたり。喜界島や徳之島で取れたもの、いろんな海の幸、山の幸が送られてきます。お店のスタッフにも、教え子たちがいます。
■恵上さんが作る奄美の魅力たっぷりの料理
上柳:「なつかしゃ家」で料理の注文をすると、大きな竹で作ったかごで食事が運ばれてくるそうですね。私も写真で拝見しましたが、ものすごく雰囲気がいいですね。
恵上:ありがとうございます。奄美大島のご飯は茶色っぽいものが多いんです。色味があまりないので、お客さんが来た時、ぱっとインパクトを与えるためにはどうすればいいかな、と考えて昔の人たちが使っていた竹ざる、竹かごを使っています。結構皆さん珍しがってくれるんですよね。
上柳:珍しいですよね。竹かごの中に小鉢があって、その中にいろんな食材が乗って、美しいですね。
上柳:レシピ本『奄美ごはん』には17品のレシピが掲載されていますが、どれもおいしそうですね! 中でも、表紙にもなっている「ハンダマご飯」は鮮やかなピンク色のご飯ですね。これはどうやって、こういう色になっているんですか?
恵上:奄美や沖縄では「ハンダマ」という名前ですが、他の県では「水前寺菜」「金時草」とも呼ばれている野菜を使った料理です。ハンダマを沸騰しているお湯に入れ、再度沸騰した時にお酢を入れます。そうすると、すごく発色が良くなるんです。
上柳:このハンダマは、ビタミンB2、ビタミンA、鉄分などを含んでいて、血液をきれいにして貧血を防ぐ“血の薬”と言われているそうですね。葉っぱがちょっと紫色をしていますが、これでピンク色を出しているのですね。
「奄美大島のご飯は茶色っぽいものが多い」とお話されていましたが、ハンダマご飯の鮮やかなピンク色は、とても目を引きますね。
2021年に世界自然遺産に登録され、豊かな自然だけでなく、その食文化も注目される奄美大島。奄美ならではの食材、調理法、食文化に触れることは、いつもの料理に役立つだけでなく、見るだけで旅をした気分になれるはず。
奄美大島の郷土料理の店「なつかしゃ家」店主・恵上イサ子さんと、上柳昌彦アナウンサーの詳しいトーク内容は、「食は生きる力今朝も元気にいただきます」特設コーナーHP(https://www.1242.com/genki/index.html)から、いつでも聞くことが可能だ。
番組情報
「上柳昌彦 あさぼらけ」内で放送中。“食”の重要性を再認識し、「食でつくる健康」を追求し、食が持つ意味を考え、人生を楽しむためのより良い「食べもの」や「食事」の在り方を毎月それらに関わるエキスパートの方をお招きしお話をお伺い致します。
食の研究会HP:https://food.fordays.jp/