八戸駅弁・吉田屋「駅弁プロデューサー」の、米と魚へのこだわりとは?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

三陸大漁市場 極

画像を見る(全10枚) 三陸大漁市場 極

駅弁の基本・米。駅弁各社ごとにさまざまなこだわりがあります。八戸の駅弁屋さんがとくにこだわるのは、ご飯の炊き方。使用している青森県産米「まっしぐら」にふさわしく、気候や米の状況に合わせて、真面目に炊き方を変えていると言います。毎年送り出されている数々の新作駅弁の開発エピソードとともに、トップに伺いました。

青い森701系電車・普通列車、青い森鉄道線・上北町~乙供間

青い森701系電車・普通列車、青い森鉄道線・上北町~乙供間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第44弾・吉田屋編(第5回/全6回)

東北新幹線の開業に伴って、JRから移管された青い森鉄道の普通列車が、青森・南部地方の水田のなかを軽快に駆け抜けていきます。車両に描かれているのは、青い森鉄道のイメージキャラクター「モーリー」。誰にでも優しく、芯の通った性格という設定があるそうです。青森県のブランド米の1つ「まっしぐら」は、米の食味・品質の追及に“まっしぐら”に、“きまじめ”に取り組む気持ちを込めた命名。ここにも“芯が通った”思いがあります。

株式会社吉田屋 吉田広城 代表取締役社長

株式会社吉田屋 吉田広城 代表取締役社長

この「まっしぐら」を使って作られているのが、青森・八戸を拠点とする「株式会社吉田屋」の駅弁です。吉田広城代表取締役社長は、「まっしぐらは、米粒1粒1粒が大きいので、食べたときの満足度も高い、ユニークなお米」と分析しています。じつは米へのこだわりがとても大きい吉田社長。米を炊くのは、「めちゃめちゃ大変」なのだそうです。

青森県産米「まっしぐら」のご飯

青森県産米「まっしぐら」のご飯

●1年に3回、炊き方を変える吉田屋のご飯!

―米の炊き方には、どんなこだわりがありますか?

吉田:炊き方は1年に3回くらい変えています。湿度が高いいまの時期、湿気が少なくなってきた11月ごろ、そして新米が入って来たときです。加熱時間、水分量など、全部変えます。米の出来も毎年変わりますので、あらゆる炊き方を試して、その米に合った最もいい方法で炊き上げています。とくに新米に切り替わるときが気を遣います。年が明けた1~2月ごろ、水分量が落ち着いてきたら、新米の新たな炊き方を決めていきます。

―米の味は、どうやってチェックしていますか?

吉田:米粒を練ります。練ると、米のまとまり具合、糖質、水分、脂分がわかります。じつは米も脂を含んでいるんです。これが指先でわかります。私は中学生のころからよくやっていました。“スライム”みたいな触感が好きだったんですよ(笑)。100%正確ではありませんけれど、米粒に触ればだいたい何の品種かわかりますよ。粒が小さいからコシヒカリ系かなとか。

とろサーモンハラス焼き

とろサーモンハラス焼き

●駅弁の安定供給のため、神経を使う魚介類の仕入れ

―主力の魚駅弁は、価格高騰の影響を受けていますか?

吉田:いいクオリティの海鮮食材を必要なトン数、しっかりと集める必要があります。弊社では、自社ならではの味付けがありますので、それに見合ったものを仕入れるようにしています。昔は大量仕入れをすれば、「ちょっとマケて下さいよ」と言えた時代でした。いまは、「ウチのクオリティに見合った○○を、何とか△△トン用意してもらえませんか?」という時代になっています。鯖、いくら、ハラスなど、いま最も神経を使うのが魚介の仕入れです。

―地産地消には、どの程度こだわっていますか?

吉田:地産品で物量が揃うようなら使います。途中で在庫切れになるのがいちばん困ります。3.11以降は地産の幅を広げて、海鮮食材は「東北産(三陸産)」なら、地産として考えるようにしています。牡蠣は青森では取れませんから三陸です。北海道に進出しましたので、北海道産食材も使っています。大玉ほたてをはじめ、最近は「こぼれイクラ……」の駅弁も北海道産の大粒いくらを使ったものを作り、一部の駅で販売しています。

吉田社長の駅弁考案イラスト

吉田社長の駅弁考案イラスト

●トップダウンで、毎年20種の新作駅弁を入れ替え!

―「駅弁プロデューサー」と名乗っていらっしゃいますが、それはなぜですか?

吉田:いま、商品作りはトップダウンで行っています。私が思いついた新商品のイメージを絵で描いて、それを社員に流して開発します。基本的に、私の舌を通過してから、商品は作られます。この取材を受ける前も、新作の酢飯の味を確認してきたところです。どの業者さんにも「開発会議」があると思いますが、弊社の新商品は全て私が作っています。そういう会社は、他にほぼないのではないかと。それゆえの「駅弁プロデューサー」なんです。

―常に新商品を出されている印象がありますが、アイデアはどこからひらめきますか?

吉田:作らなければいけない時期になると、何となくアイデアが出てきます(笑)。弊社は約70種の駅弁を製造しています。そのうち20種を毎年入れ替えているんです。皆さん、「そんなこと、できないでしょう?」と言うんですけれど。私が描いた絵を、その通りに商品化してもらいますが、実際に作ってみて、思ったより見た目が悪くて変えることもありますし、そのまま作ると、高額すぎて商品化は難しいねということもあります。

三陸大漁市場 極

三陸大漁市場 極

吉田社長が描いた新しい駅弁のイラストには、「三陸大漁市場」の文字がありましたが、八戸駅の駅弁売場をのぞくと、早くもこの7月から「三陸大漁市場 極」(1680円)として並んでいました。パッケージには、イメージとして描かれていたものがリアルな写真となっています。頭のなかに浮かんだイメージを具体的なものにしていく作業は、大変なことですが、新作として形になると、開発・発売に携わったすべての皆さんが報われることでしょう。

三陸大漁市場 極

画像を見る(全10枚) 三陸大漁市場 極

【おしながき】
・醤油味ご飯
・蒸しうに
・ほたて白だし煮
・茹でズワイガニ
・炙り煮穴子
・かきオイスターソース煮
・かにそぼろ
・鮭そぼろ
・いくら醤油漬け
・厚焼き玉子
・錦糸玉子
・わさび菜醤油漬け
・しば漬け

三陸大漁市場 極

三陸大漁市場 極

ふたを開けた瞬間、たっぷりの海鮮食材に「これはお値打ち!」と嬉しくなりました。カニ、大玉ほたてが目を引く一方、うに、いくらの定番はもちろん、牡蠣、炙り煮穴子まで入って、彩りも華やかです。まさしく“大漁市場”のネーミングにふさわしい盛り付けですね。実際にいただいてみると、鮭や蟹のそぼろといった、一見、脇役に見える食材がいいアクセントになっていて、箸がどんどん進むのが嬉しいところです。

キハE130系気動車・普通列車、八戸線・陸中八木~宿戸間

キハE130系気動車・普通列車、八戸線・陸中八木~宿戸間

港町・八戸と三陸海岸を結ぶのがJR八戸線です。八戸線では週末を中心に、観光列車「TOHOKU EMOTION」も運行されており、岩手・洋野町では地元の皆さんが、大漁旗を振って歓迎してくれます。モチーフとなったのは、今年(2023年)、再放送で改めて注目のTVドラマ『あまちゃん』。八戸線の終着・久慈では、三陸鉄道リアス線と接続しています。次回は吉田屋・吉田広城社長のインタビュー完結編。話題のコラボ駅弁も登場します。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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