東京・名古屋・大阪の3拠点で作られる東海道新幹線の「駅弁」、そのこだわりとは?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

ひと手間かけたからあげ弁当

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駅弁屋さんを40社以上巡ってきて感じるのは、駅弁の「ご当地性」の大切さを語るトップの方が多いことです。そのなかにあって、東海道新幹線の駅弁を手がけているジェイアール東海パッセンジャーズは、東京・名古屋・大阪に3つの製造工場を持つ、全国的に珍しい駅弁業者です。それぞれ食文化が異なる3つの地域をカバーするための工夫、苦労を、トップに伺いました。

N700A新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三島~新富士間

N700A新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三島~新富士間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第45弾・ジェイアール東海パッセンジャーズ編(第4回/全6回)

稲穂が垂れる田んぼのなかを、「のぞみ」が駆け抜けていきます。東海道新幹線沿線は、山あり、川あり、海ありと、季節ごとに移り変わる車窓が美しいもの。稲刈り前の田んぼが見られるのも、初秋のほんの一時期だけです。新幹線の車内でパソコン仕事をする方も多いですが、ふと窓の外に目をやると、実りの秋が心を癒してくれますね。今年(2023年)も少しでも多くの地域で豊作に恵まれて欲しいものです。

ジェイアール東海パッセンジャーズ・松尾啓史代表取締役社長

ジェイアール東海パッセンジャーズ・松尾啓史代表取締役社長

令和3(2021)年からジェイアール東海パッセンジャーズのトップを務める松尾啓史社長。社長就任に当たっては、1日3食全てを充てて、まず自社の弁当、サンドイッチ、おにぎりを全ていただくところから始めたそう。そして、休みには全国各地へも足を運んで、現地で駅弁をいただいて、各駅弁屋さんのこだわりを肌で感じることができたと言います。おかげで約8kg太ってしまったという松尾社長に、駅弁へのさまざまな「こだわり」を伺いました。

東海道新幹線弁当の白飯

東海道新幹線弁当の白飯

●東京・名古屋・大阪で足並みを揃えながら、創り出していく地域性!

―駅弁にはどんなお米を使っていますか?

松尾:国産米をブレンドして使っています。そのときそのときで「最も美味しくなる」組み合わせにこだわっています。駅弁ですので「冷めても美味しい」が絶対条件です。レンジでチンすることなく、冷たいままでいかに美味しく味わっていただくかということは、常に研究しています。新米が入ったり、リニューアルの際は、東京・名古屋・大阪の担当者がそろって検討します。東京・名古屋・大阪で味に差が出ないように整えることにも気を遣います。

―食材へのこだわりは?

松尾:海産物は安定供給に苦労があります。例えば、冬場は広島産の牡蠣を使った駅弁を製造・販売していますが、ご好評をいただいていることもあって、安定した量を確保するのに苦労しています。一方、(駅弁に必要な)郷土色を出すことは苦労もあります。「牛めし」の牛肉は地域で違いを作って、名古屋は「あいち牛」「松阪牛」、そして大阪は「近江牛」を使っています。

煮物の盛り付け

煮物の盛り付け

●出汁にこだわる煮物!

―味付けのこだわりは?

松尾:煮物の出汁にはこだわっています。しっかり出汁が沁みわたり、召し上がっていただく際に、邪魔にならない味わいに仕上げています。できるだけ素材の味を活かすようにしています。ただ、野菜も季節や年によって、出来に差がありますので、熟練の職人が、その点を踏まえた味付けを行っています。また、先ほどの「牛めし」でも、牛肉によって味付けを変えています。

―調理方法のこだわりは、ありますか?

松尾:令和3(2021)年から、おかずの調理は、名古屋工場のセントラルキッチンで行っています。計画自体はコロナ禍以前からあり、私が社長に就任したタイミングと前後して、集約を行いました。これによって3工場の味の違いを平準化することができました。一方、地域性は課題となりますので、それぞれの地域をイメージした食材でメリハリをつけることで、ご当地らしさを出していけるように工夫しています。

パッケージが施され、各駅へ運ばれていく「東海道新幹線弁当」

パッケージが施され、各駅へ運ばれていく「東海道新幹線弁当」

●「弁当委員会」で試行錯誤を重ねて生み出される新作駅弁!

―新作駅弁も頻繁に出されていますが、開発はどのように行っていますか?

松尾:社内に「弁当委員会」を立ち上げて開発を行っています。製造と販売の責任者が一堂に会し、弁当のコンセプトを定義するところから始めます。販売側はお客様と接して汲んだものをマーケティングの手法でターゲットを設定して弁当を提案します。一方、製造側は「作りたいもの」を主張します。ここにシビアな“闘い”があります。試作では私もいただいて、試行錯誤しながら作り上げていきます。作り手としてはいちばん幸せな時間ですね。

―ジェイアール東海パッセンジャーズとして発売した駅弁で、反響が大きかったものは?

松尾:平成17(2005)年の「愛・地球博」に合わせて発売した「日本の味博覧」でしょうか。私自身は利用者の立場でしたが、確かに美味しい駅弁でした。(製造に)大変手間のかかる弁当でしたが、弊社の駅弁が進化するきっかけとなりました。現在は、製造・販売を終了しましたが、野菜を多用し、盛り付けにもこだわったコンセプトは、弊社で最も売れ筋の商品である「東海道新幹線弁当」にも受け継がれています。

ひと手間かけたからあげ弁当

ひと手間かけたからあげ弁当

ジェイアール東海パッセンジャーズのさまざまなこだわりのなかでも、駅弁の名前にこだわりが出ているのが、「ひと手間かけたからあげ弁当」(1080円)かも知れません。もともとは、大阪工場で開発された駅弁で、関西地区の売店で販売されていましたが、好評だったことから、いまは、東京・品川・新横浜・名古屋・京都・新大阪の各駅で販売されるようになりました。黒いパッケージが、こだわりたっぷりの上質感を演出していますね。

ひと手間かけたからあげ弁当

画像を見る(全10枚) ひと手間かけたからあげ弁当

【おしながき】
・白飯 梅干し ごま
・鶏の唐揚げ レモン
・自社製タルタルソース
・粉山椒
・漬物

ひと手間かけたからあげ弁当

ひと手間かけたからあげ弁当

鶏のもも肉を醤油ベースのたれに漬け込み、カラッと揚げたという「ひと手間かけたからあげ弁当」。ごろりと5個入った鶏のからあげは、そのままいただいてよし、レモンを絞っていただいてよし、自社製のタルタルソースをたっぷり付けていただいてよし、粉山椒をピリッと効かせていただいてもよしと、味のバリエーションが楽しめます。移動中にしっかりと腹ごしらえをしたい方にはたまらない駅弁でしょう。

N700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・小田原~熱海間

N700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・小田原~熱海間

東京駅を発車して30分あまり、東海道新幹線「のぞみ」は、小田原城をあとにして、西を目指していきます。小田原城は、天正18(1590)年、豊臣秀吉による天下統一の舞台となった城です。1570~90年にかけての日本は、戦国から安土桃山へ時代が大きく動いた20年でした。20年という歳月の間には、世の中のさまざまなものごとが変わっていくものです。次回はジェイアール東海パッセンジャーズとしての20年、そして今後の動きも伺います。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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