東海道新幹線で「車内ワゴン販売」が終わり、駅の売店が強化される背景とは?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

旅海苔弁―銀鱈西京焼―

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この夏に発表された東海道新幹線「のぞみ」「ひかり」で行われてきた車内ワゴン販売の10月末での終了は、大きな話題になりました。長年、この車内販売を担当してきたのが、「株式会社ジェイアール東海パッセンジャーズ」です。そこで今回は、この20年あまりの「駅弁」を取り巻く環境の変化とともに、車内ワゴン販売の終了と新たなサービスの背景にあるものをトップに伺いました。

N700S新幹線電車「こだま」、東海道新幹線・小田原~熱海間

N700S新幹線電車「こだま」、東海道新幹線・小田原~熱海間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第45弾・ジェイアール東海パッセンジャーズ編(第5回/全6回)

小田原駅を発車した東海道新幹線「こだま」が、みかん山を貫いて、次の熱海駅へ加速していきます。「こだま」では、平成24(2012)年3月のダイヤ改正で、ワゴンによる車内販売が終了しました。ただ、「こだま」は途中、5分前後停まる駅も多く、ホームの売店で、弁当やお茶を購入できる駅も多いもの。時刻表で停車時間を確かめながら、各停車駅で駅弁を買い集めて、我が家で“プチ駅弁大会”を楽しむこともできます。

ジェイアール東海パッセンジャーズ・松尾啓史代表取締役社長

ジェイアール東海パッセンジャーズ・松尾啓史代表取締役社長

ジェイアール東海パッセンジャーズの松尾社長は令和3(2021)年の社長就任後、改めて東海道新幹線の駅弁を食べ歩いて、自社の「深川めし」をはじめ、崎陽軒の「シウマイ弁当」、松浦商店の「天下とり御飯」といった昔からの駅弁が、いまも販売されていることに感心したと言います。一方で、いまでも「美味しい」と感じられるところに、各社さんのすごい努力の跡を感じたのだそう。そんな駅弁の「変化」にまつわるお話から伺いました。

東京駅の「デリカステーション」(画像提供:ジェイアール東海パッセンジャーズ)

東京駅の「デリカステーション」(画像提供:ジェイアール東海パッセンジャーズ)

●20年で変わった「駅弁売店」

―令和4(2022)年で、創立20周年を迎えた「ジェイアール東海パッセンジャーズ」ですが、この20年で「駅弁」は、どのように変わりましたか?

松尾:弁当の流行り廃りで言えば、1つの食材を使った「のせ弁」が流行った時期がありましたが、いまは改めて幕の内の波が来ていると感じます。弊社としては、売店の形態が大きく変わりました。対面式の売店から各店舗に陳列された弁当をお取りいただく「デリカステーション」の形が多くなりました。お客様に「(自分の好みで)選んでいただく」という100系新幹線電車で培った「カフェテリア」の発想が活かされたのかなと思います。

―「デリカステーション」はいま、自社の弁当以外にも、さまざまな業者が製造された弁当をたくさん置くようになっていますが、これはどうしてですか?

松尾:これも弁当をお客様に「選んでいただく」という考えからです。弊社では弁当製造も行っているプライドがありますので、自社の弁当を召し上がっていただきたいという本音はあります。でも、「選んでいただく」のはあくまでもお客様です。「起点はお客様から」というのが、弊社のコンセプトですので。お客様が選ばれたものから、我々が学ぶこともたくさんあると思うんです。

16両編成のN700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三河安城~名古屋間

16両編成のN700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三河安城~名古屋間

●なぜ、「車内ワゴン販売」は終わるのか?

―販売形態という意味では、「のぞみ」「ひかり」で行われてきた「車内ワゴン販売」の終了が発表されました。いまの車内販売は、どの点が厳しいのでしょうか?

松尾:シンプルに売り上げが厳しいです。駅構内の商業施設が充実したことで購入されたものをお持ち込みになるお客様が増えました。これも、お客様が「選んでいただいたこと」なので受け入れざるを得ないと思っています。(車内販売は)列車外より魅力的な商品を販売するのが基本コンセプトですが、時代の流れは厳しいですね。加えて、労働力不足もあります。16両編成を1人で回るとなると、労働環境としても決していいとは言えません。

―確かに最近、「ワゴン販売は1台のため、全ての車両を回りきれない場合がある」と、車内放送が入ることがありますが、16両で400mですから大変ですね。

松尾:もともと、「ジェイアール東海パッセンジャーズ」が目指したものは、新幹線のお客様に、少し上質な非日常感のあるサービスをお届けすることでした。1人の販売員がワゴンを押しながら必死に走り回って、お客様から「大変そう」と思われる状況では、上質なサービスとは言えません。そこでJR東海と相談した結果、(現状のマンパワーで上質なサービスを提供することが可能な)グリーン車のサービスに特化することになりました。

既に売店で使われている10月からの「JR東海リテイリング・プラス」の紙袋

既に売店で使われている10月からの「JR東海リテイリング・プラス」の紙袋

●10月に「ジェイアール東海パッセンジャーズ」と「東海キヨスク」が合併して、「JR東海リテイリング・プラス」へ

―私もコーヒーチケットを購入して、ワゴン販売をしばしば利用していましたが、普通車を利用する立場としては、ちょっと寂しいですね。

松尾:普通車のお客様から「サービスの低下だ」となってはいけませんので、その分、ホーム上やコンコースの売店を充実させて、“選択の機会”をたくさん設けてまいります。10月には「東海キヨスク」と合併して「JR東海リテイリング・プラス」となります。弊社としてはキヨスクさんと合併することで、店舗も増えて、サービスの質も向上させることが期待できます。

―なぜ、このタイミングで合併することになったのでしょうか?

松尾:現状、ホームには弊社売店とキヨスクさんがあって、販売しているものが異なります。でも、お客様は、ジェイアール東海パッセンジャーズか、キヨスクの店か区別されません。これまでも入ってみたら「弁当がない」「土産がない」とお困りになるお客様が多くいらっしゃいました。これはサービスの質としては決して良くないんです。できるだけお客様にストレスを感じさせないサービスを提供したいということで、経営統合をすることになりました。

旅海苔弁―銀鱈西京焼―

旅海苔弁―銀鱈西京焼―

駅弁売店の形態が変わっていくなかで、今年(2023年)1月26日、東京駅18・19番線ホームの14号車付近に誕生したのが、店内調理の海苔弁とおむすびの専門店「ホーム厨房 米‘n(こめいん)」です。目玉の海苔弁は、旅行の時間を楽しく豊かにしたいという思いから「旅海苔弁」と命名され、銀鮭塩焼・銀鱈西京焼の2種類が楽しめます。今回は、「旅海苔弁―銀鱈西京焼―」(1280円)をいただいてみました。

旅海苔弁―銀鱈西京焼―

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【おしながき】
・白飯(山形・庄内産コシヒカリ)
・海苔(有明海産海苔)
・銀鱈西京焼
・若鶏の唐揚げ
・金平ごぼう
・梅干し(紀州南高梅)

旅海苔弁―銀鱈西京焼―

旅海苔弁―銀鱈西京焼―

山形・庄内平野の専業農家の方が丹精込めて育てたというコシヒカリのみを使ったというご飯。その上に有明海産の焼海苔が敷かれ、真ん中に焼魚(銀鱈の西京焼)が載ります。生後3ヵ月以内の若鶏を使って2段階で味付けした唐揚げをはじめとしたおかずが、ホーム上の厨房で1つ1つ手作業によって作られています。売店営業時間は午前7時~午後2時。お昼前ごろからは、他のジェイアール東海パッセンジャーズの一部駅弁売店でも数量限定で販売されます。

N700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三河安城~豊橋間

N700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三河安城~豊橋間

車両が変わり、駅が変わり、売店が変わって、車内販売も変わっていく東海道新幹線。時代が変わり、人が変わっていけば、サービスもまた、変わっていくものかも知れません。そのなかで、この10月から「ジェイアール東海パッセンジャーズ」も新たな会社に変わっていきます。次回・6回シリーズの第6回では、駅弁への思いとともに“変わっていくこと”への哲学も伺っていきます。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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