プーチン大統領の長女「メディア登場」は「後継のサイン」なのか

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東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が1月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシア・プーチン大統領とインド・モディ首相の電話会談について解説した。

マリア・ボロンツォワ=2021年10月13日 Sputnik/共同通信イメージズ

マリア・ボロンツォワ=2021年10月13日 Sputnik/共同通信イメージズ

ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が電話会談

ロシアのプーチン大統領は1月15日、インドのモディ首相と電話会談を行い、ウクライナ情勢をめぐり協議した。さらに2024年のインド総選挙およびロシア大統領選挙での互いの健闘を祈った。

飯田)今年(2024年)は「選挙イヤー」と言われますが、こういうこともあるのですね。

小泉)今年はかなりの選挙イヤーです。そのなかで方向性が見えている国もあります。インドはいまの政権が続投されると思いますが、台湾はわかりません。実際、総統選も予想外の結果になりました。これからは欧州でも選挙がありますし、もちろんアメリカという最大の不確定要素もあります。

2024年は政治が前に出る年になる

小泉)2022年と2023年が軍事や戦争の年だったとしたら、2024年は政治が前面に出てきそうだなと思います。もちろん、その間もウクライナでは戦争が続いており、それ自体は軍事の論理で動くのですが、軍事の論理に影響する「政治の大きな変動」がどのくらいあるかというところです。

飯田)ロシアはプーチン大統領の続投以外、あり得ないですよね。

今年の大統領選で5期目に入るプーチン大統領

小泉)不思議な大統領選挙で、「出る」と言った瞬間にもう当選することが決まっている。2024年3月18日におそらく大統領選になると言われていますが、間違いなく続投が決まると思います。5月に正式に就任し、5期目に入るということです。

飯田)5期目に。

小泉)本来なら憲法上、5期目はできないはずでしたが、4年前に憲法を改正したので、プーチン大統領にしてみると「事実上の終身独裁」を国民に承認してもらう儀式だったのでしょう。実際に改正された憲法では、プーチン大統領はこれから2期続けられるので、2036年まで居座ることができます。つまり、彼が83歳になるまでです。途中、寿命で死んでしまってもおかしくない年齢です。ロシアの長い2000年代が続いていく感じがしますね。

後継者をつくってこなかったプーチン大統領

飯田)「そろそろ後継を」という話は出ないのでしょうか?

小泉)プーチン氏はこれまで意図的に明らかにしてきませんでした。最初の1~2期のあとは、ソ連国家保安委員会(KGB)時代の後輩であるセルゲイ・イワノフ氏か、大学の後輩であるメドベージェフ氏の「どちらか」ということは何となく明らかにしており、最後はメドベージェフ氏を後継指名していました。

飯田)そうですよね。

小泉)当時は「ポストプーチン」が見えていたのですが、2012年に戻ってきたあとのプーチン大統領は、明らかに「この人が後継者だな」という人をつくらなかったのです。「この人が後継者だな」とみられて、大統領任期の終わりにレームダック化することが怖かったのだと思います。そうならないよう、「いつまでもプーチン大統領なのかも知れない。でもどこかで譲るのかも知れない」というような曖昧な戦術を取った。まだ任期は12年ありますので、当面、後継を明らかにすることはないと思います。

プーチン大統領の長女がメディアに登場

小泉)気になるのは最近、プーチン大統領の娘が突然メディアに出てきたことです。これまでは、自分の家族にはまったく触れさせませんでした。自分の家族のことを嗅ぎまわるメディアには圧力を加えるなどしてきましたが、ここへ来て、長女がメディアのインタビューに応じています。

飯田)マリア氏ですね。

小泉)これが果たして後継に関する何らかのサインなのか、ただの気まぐれなのかというところですね。

帝政以来、初めての世襲となる可能性も

飯田)ロシア社会は世襲的な独裁を認めるでしょうか?

小泉)普通は認めないと思います。ロシアの20世紀以降のリーダーは、独裁者であっても世襲はしませんでした。ただ、プーチン大統領が他と違うのは、これまでソ連の独裁者は「ソ連共産党の書記長」という公的な身分で、ソ連共産党のサイクルに従って人間が回っていたのです。しかし、プーチン大統領にはそのような公的な裏付けはありません。彼個人の権力です。もしかすると帝政以来、初めての世襲を考えているかも知れない。それが娘たちなのかどうか。プーチン大統領は離婚して愛人との間に子どもをつくっており、こちらは男の子です。彼の任期が完全になくなる2036年には、男の後継者が出てくる可能性もあります。

飯田)なるほど。

小泉)それまでは家族で何となく集団指導体制を組み、ゆくゆくは本当の「プーチン2世」に継がせたいと考えているかも知れない。当然、プーチン大統領の周りを取り囲む元KGBやガス業界の人たちには、別の思惑があると思います。今後、プーチン大統領が歳を重ねて権力が徐々に弱体化していくなかで、そのような争いが起きてくるのでしょう。どこまでプーチン大統領の権力基盤を掘り崩すかはわかりませんが。

「プーチン大統領の娘」ということで、ロシア社会が女性大統領を受け入れるのかどうかは不明

飯田)以前、「ロシアの人たちはマッチョな部分を好む」という話を聞きました。そうなるとロシア社会にプーチン氏の長女、女性のトップリーダーを受け入れる素地はあるのでしょうか?

小泉)ロシアでも女性の社会進出は進んでいます。2000年代の時点で、町のトローリーバスの運転席に女性が座って操縦していました。「ロシアの女性はこのようなところで働くのだ、すごいな」と思う一方、エリート層のなかでは女性が圧倒的に少ない部分もあります。

飯田)エリート層のなかには。

小泉)一部、地位の高い男性にかわいがられている女性や、かなりの剛腕の女性はいるのですが、大統領や首相、または社長になるなど、公的機関のトップになる女性はあまり見ません。かつてはエカチェリーナがいましたが、果たしていまのロシアが「プーチン大統領の娘」ということで女性大統領を受け入れるのかどうかは、わかりません。

飯田)まずはマスメディアに出して反応を見ているのかも知れませんね。

小泉)何年か前にロシアで流行ったジョーク画像があります。女子大生がプーチン大統領に「女の子でも大統領になれますか?」と質問すると、プーチン大統領が「いいえ、私は女ではないから」と答える。「ずっと俺が大統領なのだ」というジョーク画像でした。

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