「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
いよいよ明日・3月16日は、JRグループのダイヤ改正。新しい新幹線の開業、新型車両のデビューなどさまざまな話題がありますが、東海道新幹線では早朝・深夜帯の列車が増発されます。新たに走り出す列車が旅に出たい気持ちを後押ししてくれることもありますね。そんな新幹線や在来線の列車に乗って眺めるご当地の山や海は、いつの時代も旅人の胸を打ちます。そんな旅人のお供・駅弁を作り続けて133年の会社のトップに訊きました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第49弾・桃中軒編(第6回/全6回)
新丹那トンネルからいくつかのトンネルを抜けて、東海道新幹線の列車が三島のまちに入ってきました。先日も三島に停まる「ひかり」号を利用しましたら、海外からの乗客が、駅弁を買い求めて、美味しそうに召し上がっていました。私も駅弁を取材して20年以上となりますが、日本の鉄道文化と食文化に触れている海外の皆さんを見ると、嬉しいもの。その意味でも、「駅弁」は、文化の交流ツールとしても役立っているのかも知れません。
今回取材した静岡県沼津市を拠点に駅弁を製造している株式会社桃中軒の宇野秀彦代表取締役社長も、「海外の方はクルマ移動より、鉄道移動。その意味では、駅弁の親和性は高いはず。海外の方が『EKIBEN』として認識してもらえるようにしていけたら面白いですね」と語ります。「駅弁屋さんの厨房ですよ」第49弾・桃中軒編もいよいよ完結。宇野社長に駅弁作りで大切なことを伺いました。
●安全を大前提に、作り手1人1人が「美味しいものを届けたい」の思いを!
―宇野社長にとって、「駅弁作り」でいちばん大事なことは何ですか?
宇野:安全を大前提に美味しく感じていただけるものを作ることではないでしょうか。駅弁は工業製品と違い機械化できるものではありませんので、1つの弁当がお客様に届くまで少なくとも20人以上の人の手を介して作られます。その過程にいる1人1人が美味しいものをお客様に届けたい意識を持たないと、お客様に美味しいものは届かないと思います。100年以上続けてきたこの気持ちを受け継いでいくことが大事かなと思います。
―桃中軒は最近、駅弁大会などの催事にも積極的ですね?
宇野:2023年の京王の駅弁大会に久しぶりに出させていただきました。今年(2024年)も新作駅弁で出店いたしました。これも「静岡の味」を首都圏をはじめ、多くの地域の方に知っていただきたいというのが第一。そして、駅弁大会や催事に出店することで、私たちもお客様のお顔が見えて、生の声をお聴きすることもできるのが大きいですし、全国有数の駅弁業者さんと一緒に仕事をすることが、大きな刺激になっています。
●「EKIBEN」を日本観光のマストアイテムに!
―ニッポンの「駅弁」、これからはどうあるのがいいと思いますか?
宇野:海外からの来客が増えています。いま、いらっしゃっている方は「日本の文化」を楽しみたい方が多いそうです。そのなかで140年近く続いている駅弁文化は、他の国にはないものです。加えて、これだけ美味しいものを、列車に乗って手軽に召し上がっていただけるアイテムも他にないものです。海外の方の認識も高まりつつあるいまだからこそ、駅弁を日本の観光のマストアイテムにしていけるような取り組みをしたいです。
―富士山があって東西に長い、静岡県だからこその「駅弁文化」もありますね?
宇野:静岡は美味しい食材がいっぱいある県です。その分、駅弁屋独自の「腕」にかかっているところが大きいのかなと感じています。東海道という大動脈に恵まれているところもありますが、全国では1県1~2社となってしまっている駅弁業者が、静岡ではいまも多くが健在であるという点は、とてもユニークだと思います。
●三島からの新幹線は「進行方向右側」に座ると、駅弁が一層美味しい!
―桃中軒を、今後どのような会社にしていきたいですか?
宇野:コロナ禍を経て、ますます時代の流れが速くなっていると感じています。だからこそ時代に合わせたお客様へのアプローチが大事だと思います。静岡の恵まれた食材を使いながらいろいろな方に召し上がっていただける、そして選んでいただける商品作りのできる会社にしていきたいです。(静岡はさまざまな点で恵まれていますが)この恵みに甘んじることなく、商品開発をしていかないといけませんね。
―宇野社長お薦め、桃中軒の駅弁を美味しくいただくことができる、鉄道の車窓は?
宇野:新幹線でしたら、三島駅からご乗車いただく場合は、「進行方向右側」に座っていただくのがお薦めです。下り列車からは程なく大きな富士山が見えてきます。上り列車は、新丹那トンネルを抜けると、右手に相模湾の海が見えてきます。在来線の列車は厳しいかも知れませんが、三島から上りの特急「踊り子」号に乗車される場合も、進行右側の席(A席)を指定していただければ、海がお楽しみいただけると思います。
今年(2024年)1月に行われた京王百貨店新宿店の「第59回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」に合わせて発売された新作駅弁が、「富士山雪化粧 三島清流うなぎめし 沼津香まだい寿司」(1940円)です。旧駿河国・沼津の名物と、旧伊豆国・三島の名物を組み合わせた、桃中軒ではいままであまりなかった2つの味を一緒に楽しめる駅弁です。期間限定、数量限定で販売されています。
【おしながき】
・白飯
・うなぎの蒲焼き
・割り干し漬け
・まだい寿司
・なた豆の花
・ガリ
・伊豆天城産本山葵
真ん中の三角のマスに入った沼津が誇るまだい寿司。白身魚で雪化粧の富士山を表現しています。もちろん静岡県産のだいだい入りの特製酢で〆ているので、ふんわり柑橘系の香りが広がり、酢飯に散らされた山葵の茎と葉がピリッと食欲をそそります。そして、「化粧水」とも云われる、三島の軟水にさらされた浜名湖産のうなぎの蒲焼きは、贅沢の一言。三島の有名店に並ぶ時間のない方には、駅弁が有難い存在になりそうです。
日本人なら誰もが思い浮かべるであろう、白い雪を頂いた富士山。東海道新幹線では、いちばんの絶景と言っても過言ではありません。でも、富士山の雪化粧が観られるのは、春の旅まで。それも気温の上昇につれて、霞んで見える日や見られない日が多くなります。いよいよ明日3月16日はJRグループのダイヤ改正。この春は新しい時刻表を片手に、富士山を眺めながら、鉄道で駅弁の旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/