三原駅「元祖珍瓣たこめし」(980円)~快速「瀬戸内マリンビュー」で満喫!呉線の旅【ライター望月の駅弁膝栗毛】

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快速「瀬戸内マリンビュー」

山陽本線の三原から分かれて、瀬戸内海沿いを進む「呉線」。
最近は、映画「この世界の片隅に」でも、戦時中の汽車が丁寧に描かれ、話題を呼んでいます。
呉線を旅するなら、何と言っても、快速「瀬戸内マリンビュー」!
平成17(2005)年秋から、週末を中心に広島~三原間で運行されています。
今回乗車した三原発の「瀬戸内マリンビュー」は、三原を14:26に発車すると、忠海、竹原、安芸津、安浦、安芸川尻、広、呉に停車し、終点の広島には17:04に到着。
瀬戸内海の美しい車窓を満喫する2時間半あまりの旅となります。

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快速「瀬戸内マリンビュー」

「瀬戸内マリンビュー」は、元々、普通列車用だったキハ47形気動車を改造して生まれた車両で、船をイメージした「丸窓」が印象的です。
2両編成のうち、広島寄りの1号車が指定席で、車内にはソファーシートが並びます。
三原寄りの2号車は自由席で、本来のキハ47の車内が色濃く残っています。
外観も山側となる車両は、元の窓割りが比較的よく残っていますね。

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快速「瀬戸内マリンビュー」

海側の窓は「マリンビュー」にふさわしく、比較的大きめに改造されています。
指定席車内は山側の座席も、海側を向いたベンチタイプのソファーに・・・。
快速列車ですので、春・夏・冬の「青春18きっぷ」のシーズンには、そのまま乗車可能。
指定席車両も520円の指定席券を追加するだけで乗車することが出来ます。
また、呉線は全線ICOCAエリアですので、Suica/PASMOなどが使えるのも有難いところ。

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呉線からの瀬戸内海

「瀬戸内マリンビュー」が三原駅を発車して10分と経たないうちに、進行方向左手がパァーッと青くなって、車窓には「瀬戸内海」が広がりました。
瀬戸内の海を行き交う貨物船や漁船、海の向こうに連なる「しまなみ」・・・。
列車も車窓が美しい区間ではゆっくりと走って、存分に“マリンビュー”を楽しむことが出来ます。
雨が少ない瀬戸内だけに、天気に恵まれ、美しい景色に逢える確率が高いのも嬉しいところです。

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呉線からの瀬戸内海

海沿いをのんびりゆったり走るローカル線は、やっぱり鉄道旅の醍醐味!
静かな海、のんびりした空気、心地よい揺れに、だんだんと心が癒されてきます。
呉線は広島側の列車は多いものの、三原側は日中1時間半以上も列車が空くローカル線。
絶景が一番楽しめるのは、この列車が少ない区間で、しかも普段は通勤形の車両が中心です。
その意味でも、せっかく呉線を旅するなら「瀬戸内マリンビュー」の指定席がイイのです。

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元祖珍瓣たこめし

呉線の旅のお供にしてほしい駅弁があります。
それは、三原駅弁・浜吉(はまきち)の「元祖珍辨たこめし」(980円)!
昭和28(1953)年に誕生した、60年以上の歴史を誇る「浜吉」随一のロングセラー駅弁です。
タコの足の数にちなんで、八角形の折詰に入っているのが特徴。
三原は、世襲制でタコの漁業権が受け継がれるという、瀬戸内有数の「タコの町」なのです。

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元祖珍瓣たこめし

とじ紐をほどいて八角形のふたを開けると、いい匂いと共に、キラキラ輝くタコが現れました。
タコは決して珍しい食材ではないハズなのに、「珍辨(ちんべん)」とは何故か、調製元の「浜吉」に伺うと、先々代のご主人が「珍彦(うずひこ)」さんというお名前だったことに因んだものなんだそう。
自分の名前を冠した駅弁ということは、自信をもって送り出した駅弁であることの証左。
駅弁屋さんには、社長さんが自信作を送り出す時に、自分の名前を冠することがあるんです。

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元祖珍瓣たこめし

私自身、積極的にタコを食べる方ではないんですが、「元祖珍辨たこめし」だけは別格です。
冷めているのに茹でたてのように柔らかく、実に心地いい歯ざわり。
よく煮込まれたタコを噛みしめるほどに、タコへの愛おしさのようなものを憶えてきます。
「浜吉」によると、タコは年配の方でも安心して食べられるよう、秘伝のたれを使ってじっくりと炊き上げたといいます。
加えて、たこ飯には、ダシを取りながら、細かく刻んだタコを炊き込みました。
この“小ダコ”をご飯の中から掘り出すのも、食べている時のささやかな楽しみなんですよね!

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瀬戸内の海を眺めて、元祖珍瓣たこめし

今回、「元祖珍辨たこめし」をいただいて、改めて感じたのは「玉子焼」の美味しさ!
いわゆる錦糸玉子的に載っているんですが、しっかりと厚手のものが刻まれているんです。
『せっかく食べるのに、ペラペラの干からびたのじゃイヤでしょ?』
お店の方が仰ったこの言葉に大拍手を送りたい!
確かに最近、彩りで載せられた“やっつけ錦糸玉子”な駅弁が多いなぁと感じていたんです。
ココで手を抜かずしっかりと味わいのある玉子を使うから、タコとの味のバランスがいいのかも。

10代の頃、糸崎機関区でよく蒸気機関車を見ていたという、ニッポン放送の栗村アナウンサーによれば、「浜吉の玉子焼はスーパースター」だといいます。
三原辺りではその昔、祝言のようなハレの日には、たいてい「浜吉」のお重が振る舞われたそう。
重箱の中から現れる玉子焼は、一瞬でも目を離せば、ほかの誰かがパクッといってしまうくらい絶品で、「浜吉」の仕出しでは、圧倒的な人気があったというんです。
昔から地元に愛されてきた味がココに詰まっているかと思うと、感慨深いものがありますよね。

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呉線からの瀬戸内海

思えば、映画「この世界の片隅に」でも、昔の祝言のシーンが描かれていました。
昔はそれぞれの家で結婚式を挙げるのが普通で、「浜吉」の料理も長年、そういった席で出され、地元の皆さんの人生の節目で、記憶に残ってきたのでしょう。
そんな「浜吉」の料理は、「駅弁」という形で、昔から糸崎駅で機関車付替えの間に立売りされて、多くの旅人の記憶にも残ってきました。

呉線の車窓に静かな瀬戸内の海を眺めながら、「元祖珍辨たこめし」の柔らかいタコを噛みしめて、地元に、旅人に、愛されてきた味に思いを馳せれば、いつの間にか心がポッと温かくなりますよ。

(取材・文:望月崇史)

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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