札幌から石勝線で日高山脈を貫き、狩勝峠を下って、根室本線・新得駅に入ってきたのは、キハ283系の特急「スーパーおおぞら」釧路行。
よく見ると、7両編成の後部が真新しい橋にかかっています。
新得駅構内の下新得川に架かっていた鉄橋は、去年夏の台風被害で流出してしまいました。
この橋をはじめ石勝・根室線のトマム~芽室間は、甚大な被害を受けてしまいましたが、真冬が来る前に、必死の工事が行われ、何とか昨年末に復旧を果たした区間です。
ただ、今も根室本線・東鹿越~新得間は復旧しておらず、代行バスが運行されています。
今回は新得駅に入っている「新得町観光協会」でレンタカーを借り、十勝平野の牧草地帯を走って1時間あまり、然別湖からも近い鹿追町の「然別峡かんの温泉」にやってきました。
今も携帯電話の圏外となる北海道有数の秘湯の一軒宿。
明治44(1911)年開湯の歴史ある温泉ですが2008年から6年ほど休業、新たな形で平成26(2014)年に復活し、北海道のみならず、全国から多くのファンを集めています。
ただ、ココも去年(2016年)の台風では大きな被害を受けてしまい、長期の休業を強いられました。
ようやく復旧工事が終わって6月中旬から営業を再開、早速6月下旬にお邪魔してきました。
復活の報を聞き、いても立ってもいられず即、予約を入れてしまったのは、とにかく「かんの温泉」のお湯が素晴らしいから!
宿の中に源泉が11もあって全てかけ流し、風呂ごとに違う泉質の温泉に入れるのです。
中でも、宿泊棟「こもれび荘」の1階にある「イコロ・ボッカの湯」は、北海道のみならず、日本の最高レベルにある温泉と言ってもいいかもしれません。
「イコロ・ボッカ」とは“宝物が湧き上がる”の意・・・そう、この風呂、足元湧出なんです!
数ある温泉の中でも、「いい温泉」の基準の1つとされる『足元湧出』の温泉。
底から湧いたばかりのピュアな温泉にそのまま入れる、全国的にも貴重な温泉のことです。
ただ、よく見るとお湯の上のほう、岩肌に茶色い横のラインが・・・。
実はこの貴重な風呂に台風で土砂が流入、ラインの部分まで埋まったままになっていたんです。
復旧に当たって、埋まった風呂を丁寧に掘り返し、再び以前のように湧き出したのだそう・・・。
その瞬間、宿の皆さんがホッと胸をなでおろしたことは、想像に難くありませんよね。
なお、分析表は土砂と共に流出してしまい、まだ再掲されていませんが、以前、私が記録していたものによると、ph7.8、56.4℃、成分総計3,601mg/kgのナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉です。
随所で、底からプクプク~っと気泡と共に湧き上がってくるお湯。
実はこの「イコロ・ボッカの湯」には“神ポイント”があって、岩肌によりかかると、ちょうど寝湯のような体勢を取ることが出来る所があります。
しかも、このスグ近くの岩のすき間に湧出箇所があり、耳元でささやくようにプクプク~っという音が聞こえてきて、これがホントに癒される!
私は平成27(2015)年秋以来の「かんの温泉」ですが、訪れた日はプクプクを超えて「ポコポコ!」という音に聞こえるくらい元気に湧出していました。
『入りに来てくれてありがとう!』
そんな“地球の声”にも聞こえてきました。
今年の北海道は暑いようですが、今の時期、良さそうなのが、滝見の貸切露天風呂(30分間・有料)の「幾稲鳴滝(いねなるたき)の湯」です。
イチイの木をくりぬいて作られた浴槽に、温めの源泉と熱めの源泉が一緒に注がれており、「かんの温泉」では珍しいにごり湯。
鳥の声と滝の音を聴きながら、お湯に身を委ねていると、あっという間に30分が過ぎていきます。
実はかんの温泉を「駅弁膝栗毛」として紹介するのは、平成16(2004)年以来、13年ぶり。
当時は11の風呂が別々に作られていたのですが、2014年の再オープンに当たって、「ウヌカル」「イナンクル」という2つの湯処に大分し、それぞれを1日ごとの男女入替制としました。
もちろん日帰り入浴も可能ですが、出来れば泊まって全部のお湯を体感したいもの。
16室ある洋室のアメニティもよく、地のものを使った料理も美味しくいただくことが出来ますよ。
「かんの温泉」へは、帯広からもクルマで1時間ちょっとあればアクセス可能です。
そこで今回は、帯広駅の駅弁「ぶた八の炭焼あったか豚どん」(1,200円)をご紹介。
実は13年前に「かんの温泉」へ行った時にも、コチラの駅弁をいただいておりました。
調製元は、帯広市内の豚丼専門店「ぶた八」。
「ぶた八」は、改札口からほど近い駅構内(改札外)に屋台のようなお店を出店しています。
駅弁の名前に“あったか”豚どんと銘打たれているのは、黄色い紐を引き抜いて蒸気で温める加熱式容器が使われているため。
豚肉は北海道産のロースを使用、脂身少なめのあっさりとした味わいです。
たれがご飯にもしみ込んでいる様子が伺えますが、これとは別のたれも添えられています。
さァ、撮影が終わったら改めてフタをして、温めていただきますよ!
待つこと数分、フタを開けると白い湯気と共に、炭火ならではの香ばしい香りが立ち込めました。
「ぶた八」の豚どんは、肉に旨味を付ける「漬けダレ」と、8時間じっくり煮込んだという「掛けダレ」という2種類の秘伝のたれが味わえるのが特徴なんだそう。
本格的な夏の観光シーズン、帯広の豚丼専門店は大行列になることもしばしばですが、待つことなく、移動する列車内で本場の豚丼を味わえるのはとても有難い!
思いきりタレのいい匂いを感じて、肉に喰らいつきましょう。
この夏も全国各地で豪雨被害が出ています。
ただ、被害が出た直後は憶えていても、残念ながら時間が経つほど忘れてしまいます。
根室本線は去年秋~冬と長期運休が続き、沿線の町には大きな経済的打撃となりました。
それだけにこの夏は、少しでも多くの方に根室本線で沿線の町を訪ねて貰いたいもの。
あたたかい気持ちは、思い“続ける”ことで初めて相手に届くと思います。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/