釧路と網走の間、およそ170kmを結ぶ「釧網(せんもう)本線」。
釧路湿原、阿寒・摩周湖、知床、オホーツク海など東北海道を代表する観光エリアを結んでいる日本有数の風光明媚なローカル線です。
キハ54の単行ワンマン列車が基本で、全線を通しで運行する列車は1日5往復のみ。
うち1本は、一部の駅を通過する快速「しれとこ」となっています。
釧網本線の中で、一度は降り立っておきたい駅といえば「川湯温泉駅」。
ホームに降り立つと、三角屋根の駅舎の向こうに荒涼とした山が顔をのぞかせます。
この山は“裸の山”を意味する「アトサヌプリ」。
「硫黄山(いおうざん)」とも呼ばれます。
山から3kmほどの所に、「川湯温泉」の温泉街が広がっています。
訪れた日、ホームで出迎えてくれたのは・・・「ミヤマクワガタ」!
もう降りた瞬間から、童心に返っちゃいますよね!
駅は夜でも明かりが点いているので、夏の昆虫も集まりやすいのかも!?
学生の頃、予讃線の下り最終列車で八幡浜へ向かうと、途中で乗客は私1人となってしまい、終着の八幡浜駅も営業を終了、出迎えてくれたのがカブトムシ雌1匹だったことを思い出しました。
川湯温泉駅には、平成15(2003)年に造られた無料で楽しめる「足湯」があります。
ココのお湯は、「川湯温泉」とは別の「川湯駅前温泉」。
源泉の温度は63.2℃、ph7.1、成分総計1,916mg/kgのナトリウムー塩化物泉です。
温泉成分たっぷり、“温泉駅”を名乗るのにふさわしい良質な足湯。
列車は2~3時間に1本程度ですので、待ち時間にはピッタリですよね。
温泉で体が熱くなってきたら、駅舎に入っている名物喫茶店「オーチャードグラス」へ。
ソフトクリームでクールダウンといきましょう。
ただでさえ美味しい北海道のソフトクリームを、湯上りにいただくことが出来るなんて最高!
しかも通常、「350円」するソフトクリーム・・・、今回はなんと「100円」にしていただきました。
実はコレ、ちゃんとした理由があるんです。
今回、初めて「ひがし北海道フリーパス」(15,500円)というきっぷを使ってみました。
コレは、バニラエア(またはピーチ)で新千歳に入った当日に、JR新千歳空港駅のみどりの窓口で搭乗券を提示した人だけが買えるお得なきっぷ。
新千歳空港~根室・網走・旭川・富良野・小樽と、北海道のイイとこばかり回れて5日間有効。
もちろん、特急列車の自由席にも乗り放題です。
ホント、これは使い勝手がよく、成田往復・最安2万5,000円くらいで回れてしまう計算。
特典として2枚のクーポン券が付いており、網走監獄とこのオーチャードグラスで使えます。
ご主人によると、『JR北海道の若手の皆さんが頑張って企画した』のだそう。
交通費を抑えて、北海道の美味しいものがいっぱい味わえる嬉しいきっぷです。
川湯温泉駅が開業したのは、昭和5(1930)年のこと。
それから6年後の昭和11(1936)年、今も続くイチイという木の丸太を組んだログハウス風の駅舎が完成、道東を代表する温泉地・川湯温泉の玄関口にふさわしいものとなりました。
昭和61(1986)年に無人化、その翌年、「オーチャードグラス」が開店し、今年で30年。
店内奥、ステンドグラスのある部屋は、元・貴賓室で、昭和29(1954)年、昭和天皇が行幸された折に休憩所として使われたといいます。
1日5往復あまりの列車しか来ない無人駅でも、コレは途中下車する価値があるというものです。
せっかくココまで来て、「川湯温泉」に泊まらないのは勿体無い!
駅から遠い温泉が多い北海道にあって、川湯温泉は駅からバスで楽に行ける温泉の1つです。
川湯温泉駅から温泉街まではおよそ10分、290円。
しかも、「阿寒バス」の時刻表にも、『列車の大幅な遅れを除きバスは接続運転いたします。』という心強い文言が書かれており、鉄道旅好きにはひと安心!
たとえ本数が少なくても、「接続」するダイヤが組まれていることが大事なのです。
「川湯温泉」は、“北の草津”と呼ばれる強い酸性泉が特徴です。
温泉街に降り立てば、温泉らしい硫黄系の匂いが漂い、足湯も点在しています。
この日、お世話になった「川湯観光ホテル」のお湯は、44.1℃、ph1.8、成分総計3,284mg/kgの酸性・含硫黄・鉄(Ⅱ)―ナトリウムー塩化物・硫酸塩泉(硫化水素型)で、風呂はもちろんかけ流し。
久しぶりにピリッとした、“長い泉質名”のお湯を楽しみました。
川湯温泉の路線バスは、「大鵬相撲記念館前」が始発。
そう、川湯温泉は、昭和の大横綱・大鵬が、少年時代を過ごした町なんです。
記念館はリアルタイム世代には懐かしく、私のような後追い世代には新鮮な発見があるかも。
バスはこの後、温泉街をぐるりと回って数カ所に停まり、川湯温泉駅方面に向かいます。
一部の便は、「弟子屈(てしかが)町」の中心部・摩周駅方面へ直通しています。
平成2(1990)年に全国屈指の難読駅名だった弟子屈(てしかが)駅から改められた「摩周駅」。
その駅前、駅を出て左手に店舗を構えるのが「ぽっぽ亭」です。
駅弁大会などの催事で有名な、あの“摩周駅弁”のお店ですね。
店頭には弁当販売ブースも設けられています。
摩周駅の名物といえば、なんと言っても「摩周の豚丼」(1,080円)!
今年(2017年)1月、京王百貨店新宿店で行われた「第52回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」
に十数年ぶりに登場しましたので、ご記憶の方も多いことでしょう。
一時期はラム丼などのラインナップがありましたが、現在は基本、豚丼一本。
事前予約すれば、京王で人気を博した「摩周の豚丼ミックス」も対応いただけるそうです。
輪ゴムで留められた掛け紙を外してふたを開けると、フワッといいたれの香り。
網焼きされた道東産を中心とした豚のロース肉がいっぱいに載っています。
道東の旅では、ずっと海鮮系が続いていたので、ようやく肉にありつくことが出来ました!
醤油ベースのたれは、継ぎ足し継ぎ足し使っているそう。
網焼きすることで余分な脂が落ちるので、美味しいトコだけが焼き上がるといいます。
「摩周の豚丼」は予約が基本なので、ホカホカの温もりを感じる駅弁を手にすることが出来ます。
ただ今回、“駅弁知ったかぶり”な望月は、ちょっと意地の悪い食べ方をして、完全に冷ましてからいただいてみたのですが・・・、厚めの肉も柔らかいままだし、十分に美味しい!!
実はロース肉をチョイスしているのも、「冷めても美味しい」を実現するためなんだそうです。
そして時間が経つほど、“秘伝の”たれが道産米・ななつぼし100%の白いご飯にしみ込んでいって、より味わい深くなるんですね。
出来たてはもちろん、時間が経っても美味しくいただける「摩周の豚丼」です。
「摩周の豚丼」を現地で食べたいけど、列車が少ないから下りられないと思っている方。
「ぽっぽ亭」に電話予約する際、乗る列車を伝えておけば、繁忙時間帯でない限り、摩周駅停車中にホームまで届けてくれるサービスもやっています。
店の営業時間が長いので、夕方の列車でも対応していただけるのが有難いところ。
摩周までは釧路から1時間あまり、網走からは2時間弱ですので、乗る前におサイフの状態を確かめてから電話を下さると有難いということでした。
(営業時間10:00~20:00・LO19:30、不定休、電話015-482-2412、ホーム受取りの場合は、できるだけお釣りの無いようにご用意を・・・)
釧網本線を全線乗ると3時間あまりかかりますが、途中に駅弁販売駅は無く、食事を調達できるのは、この「摩周の豚丼」のみと言っても過言ではありません。
おトクなきっぷを使って、釧網本線でいっぱい美味しいものを味わってみてはいかがでしょうか?
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/