【ライター望月の駅弁膝栗毛】
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キハ189系・特急「はまかぜ」、山陰本線・鎧~餘部間
大阪から播但線経由で、主に兵庫県の但馬地方を結ぶキハ189系の特急「はまかぜ」。
3往復の定期列車のうち、浜坂発着の1・4号と、鳥取まで足を伸ばす2・5号のハイライトは、何と言っても、山陰本線を代表する絶景「餘部(あまるべ)橋梁」でしょう。
特に冬場は、同じ兵庫県でも、瀬戸内の神戸・姫路とは全く異なる但馬の雪景色。
特急「はまかぜ」は、1つの列車で、2つの趣ある車窓が楽しめる列車なのです。
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余部鉄橋「空の駅」
山陰本線の餘部橋梁は、明治45(1912)年に東洋随一の鋼トレッスル橋(鉄橋)として架けられ、一世紀近くにわたって使われましたが、平成22(2010)年にコンクリート製の橋になりました。
架け替え後は、昔の鉄橋の一部が残され、「余部鉄橋 空の駅」として整備されています。
高さおよそ40m、天候に恵まれれば、美しい日本海を望むことが出来ます。
橋梁の下を通る国道178号には、道の駅も併設されており、クルマで訪れる人もいます。
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余部クリスタルタワー
そして去年(2017年)11月、この「空の駅」に繋がる全面ガラス張りのエレベーターが完成し、「余部クリスタルタワー」と名付けられました。
“観光名所っぽい”ネーミングですが、素晴らしいのは「余部鉄橋 空の駅」がJRの餘部駅と繋がっていますので、観光客だけでなく、駅の利用者も気軽に使えること。
これまで駅へ急な坂道を登っていた地元の方を思えば、とても有難い施設かと思います。
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元祖かに寿し
さて、特急「はまかぜ」は、朝夕の1往復、大阪~鳥取間で運行されています。
冬は、大阪~浜坂間に「かにカニはまかぜ」という臨時列車も増発されています。
そんな山陰の冬の味覚をギュッと詰め込んだロングセラー駅弁が、鳥取駅にあります。
その名も「元祖かに寿し」(1,080円)!
鳥取駅弁でおなじみの「アベ鳥取堂」が手掛けています。
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元祖かに寿し
昭和27(1952)年に発売開始、60年前の昭和33(1958)年に通年販売を開始した、鳥取駅を代表する駅弁です。
実は全国の“かに寿し駅弁”の元祖とされるのがこの駅弁。
カニの甲羅に似せた八角形の折詰も、「アベ鳥取堂」が元祖なんだそうです。
錦糸玉子には鳥取産の卵を使い、塩昆布と奈良漬の付合せも食欲をそそります。
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元祖かに寿し
昔ながらの寿司らしい酢の香りを感じながら、しっかり身の詰まったカニに箸が進みます。
「アベ鳥取堂」からクルマで1時間圏内にある、香住を中心とした鳥取県東部から兵庫県北部の港で水揚げされたベニズワイガニにこだわっているのだそう。
その意味でも「元祖かに寿し」は、山陰本線・餘部橋梁の車窓から、カニの故郷・日本海を眺めていただくのに一番似合う駅弁と言ってもいいでしょう。
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ツキうさぎ
ちなみに今回、久しぶりに「アベ鳥取堂」の駅弁をいただいて気付いたのが、「ツキうさぎ」という小さな栞が同封されていたこと。
因幡の白うさぎにちなんだネーミングで、うさぎにまつわるチョットいい話が書かれていました。
実はコチラにも「元祖かに寿し」の薀蓄が書かれているほか、「アベ鳥取堂」が誇る他の駅弁のラインナップも記載され、通販で買える商品のハガキにもなっています。
駅弁を買っていい気分になってもらいながら、しっかり次の商売にも繋げていこうという、涙ぐましい努力が感じられて、嬉しい気持ちになりました。
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キハ47形・普通列車、山陰本線・鎧~餘部間
冬の日本海は、晴れ間が出たと思ったら、10分後にはホワイトアウトのような状態になってしまうこともあるくらい、かなり気まぐれな天候。
今シーズンは雪が多く、餘部橋梁のある山陰本線・城崎温泉~鳥取間は、しばしば運休に見舞われてしまい、沿線の観光地の中には大変な所も多かったようです。
概ね春の彼岸までとなるカニシーズン、ぜひ本場へ今季のカニの食べ納めに出かけてみてはいかがでしょうか。
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/