【ライター望月の駅弁膝栗毛】
日本最長の鉄道路線として知られる「山陰本線」。
京都から福知山、城崎温泉、鳥取、米子、松江、出雲市、益田、東萩、長門市を経由して、下関の1つ手前・幡生(はたぶ)で山陽本線に合流するまで、670kmあまりの路線です。
区間によって路線の性格に差はありますが、非電化区間も多く、総じて日本の古き良きローカル線の雰囲気を色濃く残した、鉄道旅好きにはたまらない路線です。
今回は鳥取県岩美町の岩美駅で途中下車。
鳥取駅から普通列車で城崎温泉方面へ3駅・20分あまり、ホームに降り立つと懐かしい雰囲気の木造駅舎がお出迎えです。
岩美駅舎は明治43(1910)年築の駅舎がリニューアルされながら、今も使われています。
平成6(1994)年には、天皇・皇后両陛下もお立ち寄りになった由緒ある駅なんですね。
そんな岩美駅から路線バスで10分ほど、やって来たのは「岩井温泉」。
およそ1,200年の伝統を誇る、山陰地方有数の歴史ある温泉です。
「ゆかむりの郷」とあるのは、岩井温泉に伝わる「ゆかむり」という、頭に手ぬぐいを載せて「湯かむり唄」を歌いながら、柄杓で湯をかぶる風習によるもの。
今回は画像右手に建つ「岩井屋」さんに、久しぶりにお世話になりました。
「岩井屋」の名物といえば、何と言っても、大浴場の「源泉長寿の湯」。
立ったまま入ると、胸まで浸かる深い浴槽が特徴です。
しかも、このお風呂、底の敷板の真下から湧き出す温泉もそのまま使われています。
そう、湧きたてのピュアな温泉が楽しめる「足元湧出」の温泉なんです。
しかも、温泉がしずしずと掛け流されていく贅沢なお湯遣いがたまりません!
体の芯からじんわり温まる「岩井屋」のお湯は、岩井温泉第一泉源、47.6℃、ph7.3、成分総計1,735mg/kgのカルシウム・ナトリウムー硫酸塩泉。
温まってきたら、掛け流される温泉に湯の香を感じながら、湯端でボーッとしていると、時折、浴槽の下のほうから、ぷくぷく~っとお湯が湧きあがってくるのが分かります。
地球の恵みに、自然と感謝の気持ちが生まれ、心と体が癒される瞬間です。
「岩井屋」をはじめとした岩井温泉は勿論、冬の山陰地方の温泉では、カニ料理をふんだんにいただけるコースが充実しています。
温泉旅の帰りにも、そんなカニの余韻に浸りたい時は、やっぱりカニ駅弁!
今回は、鳥取駅弁「アベ鳥取堂」の「ほかほか蟹めし弁当」(1,390円)をいただいてみました。
紐を引っ張って蒸気で温める、冬に嬉しい加熱式の駅弁です。
ふたを開けると、湯気と共にいいカニの風味が感じられるのが、加熱式の醍醐味!
カニのハサミも入って、ビジュアル的にも食欲をそそる駅弁です。
レギュラーで販売されている「山陰鳥取かにめし」の加熱式版という位置づけで、かにめしは、かに味噌と共に炊き込まれたものです。
雪の降るエリアは、改札からホームへの移動や列車を待つ間も体が冷えますので、加熱式駅弁の存在が本当に有難いんですよね。
「アベ鳥取堂」によりますと、「かに寿し」系の駅弁と「かにめし」系の駅弁では、カニの水揚げ港を変えていて、「かにめし」系は主に境港のものを使用するこだわりがあるといいます。
かにめしのベニズワイガニには、境港のもののほうがより適しているのだそうです。
なお、この駅弁、鳥取駅の売店では、冬季などタイミングのいい時だけの限定販売品。
確実に入手したい時は、事前の予約をお勧めしますということでした。
鳥取周辺の山陰本線では、国鉄時代からのキハ47形気動車が健在。
車内はリニューアルされていますが、俗に“タラコ色”と呼ばれる朱色一色の車両がのんびりと走る様子は、何だか懐かしくて、自然と優しい気持ちになれるものです。
しかも、ちょっとの雪でも止まることは無く、白い雪を身に纏いながら逞しく走ります。
新幹線・電車・自動改札などなくても、温泉と人のぬくもりにホッとする鳥取の冬旅でした。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/