【ライター望月の駅弁膝栗毛】
出羽富士の名で親しまれている鳥海山。
この麓に広がる田園風景の中をトコトコと走る1両のディーゼルカーは、秋田県由利本荘市内を走る「由利高原鉄道」鳥海山ろく線の列車です。
由利高原鉄道は、旧国鉄矢島線を引き継いだ第3セクターの鉄道で、JR羽越本線の羽後本荘駅から分岐し、矢島駅までの間・23kmを結んでいます。
せっかく由利高原鉄道の列車に乗るなら、お薦めは羽後本荘10:43発の「まごころ列車」。
一見、ごく当たり前の普通列車ですが、よく見ると「まごころ列車」のヘッドマークが!
今から5年前、平成25(2013)年から、矢島駅9時台発、羽後本荘駅10時台発の列車には、「まごころ列車」の愛称が付けられ、沿線やファンの方に親しまれています。
この「まごころ列車」の名物といえば?
秋田おばこ姿の列車アテンダントさん!
実は「まごころ列車」の愛称が付けられる前から、この時間帯の列車にはアテンダントさんが乗務して、乗客の皆さんに秋田弁によるおもてなしが行われていました。
今では時刻表にも「まごころ列車」の愛称とヘッドマークを装着している旨が記載されており、
すっかり由利高原鉄道の“看板列車”となっています。
由利高原鉄道が鉄道趣味的に興味深いのは、前郷駅におけるタブレット交換!
前郷駅は旧・由利町の中心にあって、全線のほぼ中間にある有人駅です。
実は由利高原鉄道では、今や希少な存在となったタブレット閉塞が健在。
タブレット閉塞とは、タブレット(通行手形)を持った列車だけが走ることが出来る仕組みで、
上り・下りの列車のすれ違いが行われる際には、タブレット交換が行われるんですね。
「まごころ列車」のスゴイところは、普通列車なのに車内販売があること!
キーホルダーやタオルなどのオリジナルグッズがメインで食べ物は少なめですが、地元の業者さんによるご当地ブランド牛を使った「ハーブ園 秋田由利牛カレー」(600円)も・・・。
車内販売と合わせて、しおりタイプの記念乗車証が配られました。
ちなみにコチラ、みんなアテンダントさんの手作り・・・そう伺っただけで嬉しくなりますね!
羽後本荘から39分、「まごころ列車」は11時22分、定刻通りに終点・矢島駅に到着。
アテンダントさんは、沿線の見どころや穴場スポットなどを、分かりやすく解説してくれました。
東京から「まごころ列車」に乗車する場合は、秋田新幹線「こまち1号」や上越新幹線「とき301号」~特急「いなほ1号」乗継ぎでは間に合いませんので、鉄道利用では前乗りが基本。
これも、地域にお金を落としやすくする1つの仕組みと考えていいかもしれません。
鉄道旅の利点は、何と言っても、酒が呑めること。
実は矢島駅の横は「天寿酒造」という酒蔵で、気軽に地酒の試飲が楽しめます。
この日は、ココでしかいただけないフルーティな味わいの「純米大吟醸 鳥海山」の生酒を。
これに火を入れた「純米大吟醸 鳥海山」は、“ワイングラスでおいしい日本酒アワード”で2017年度の最高金賞を受賞した酒で、ワイン好きの方にもイケるキリッとした味わいです。
生駒藩の小さな城下町として栄えた矢島の町をぶらりと歩いて駅に戻ると、名物の「桜茶」を出して下さったのは、矢島駅売店「まつ子の部屋」の主・佐藤まつ子さん。
訪れた方1人1人に気さくに声をかけていくまつ子さんには、ファンの方も多いようです。
去年(2017年)4月には、そんな旅人との出会いのエピソードを綴った「みちのく『小さな駅』まつ子の部屋」という本を出され、矢島駅で買うと、ご本人のサインもいただくことが出来ます。
私もまつ子さんとおしゃべりして、列車が矢島駅を発車しようとしたその時・・・。
な~んと! まつ子さんがサプライズを仕掛けて下さいました!!
わざわざ、私の名前を書いて、ホームにお見送りに来て下さったのです。
しかも、列車が見えなくなるまで、ずっと手を振っていらっしゃるではありませんか。
駅弁膝栗毛としても、去年(2017年)の「東北エモーション」以来の嬉しい出来事!
この“人の温かさ”があるから、東北の鉄道旅は止められないんですよね。
まつ子さんが「由利牛弁当、おいしいよ~!」とイチオシして下さった弁当がコチラ!
その名も「昔ながらの秋田由利牛すきやき弁当」(1,200円)といいます。
通常、由利高原鉄道でのイベントや1度に5個以上の予約があった時だけ製造・販売されている、フツーはまず出会えない希少な駅弁!
今回は由利高原鉄道の皆さんにご協力いただいて、特別に作っていただきました。
緑色の素朴な雰囲気の掛け紙を外すと、フワッと甘い香りが漂います。
牛肉は冷めても柔らかく、これぞ懐かしい甘めの味わい!
お手拭きもちょっぴりレトロなものが使われていていいですね。
コチラの駅弁は、平成24(2012)年から由利本荘市内の町おこし会社「わくわくエンターテイメント」が販売を手掛けています。
全国和牛能力共進会、いわゆる“和牛オリンピック”で全国トップクラスの高い成績をおさめたこともあるという「秋田由利牛」。
その希少な部位を使って作られているため、安定供給が厳しく、ロスの問題もあることから、「秋田由利牛すきやき弁当」は、5個以上の予約限定販売となっているそうです。
(電話:0184-56-2736、由利高原鉄道本社・平日9:00~17:00)
SNS等でも繋がりやすい昨今、5人以上のグループで由利高原鉄道を訪問する時は、ぜひ日本トップクラスの和牛の味を味わっていただきたいものです。
由利高原鉄道の最新車両・YR-3000形気動車は、ボックスシートに大きめのテーブルが常時、設置されているのが特徴で、普通列車では日本トップクラスの駅弁を食べやすい車両です。
そんなYR-3000形車両が脇を通り抜けていくのは、国の登録有形文化財となっている由利本荘市の「旧・鮎川小学校」。
実はココ、この夏から、大いに注目されるスポットなんです。
このレトロな校舎を活用して、今年(2018年)7月にグランドオープンを予定しているのが、「鳥海山 木のおもちゃ美術館」。
東京・新宿区にある「東京おもちゃ美術館」の姉妹館です。
現在、由利本荘市によって整備が行われており、今後は由利高原鉄道の車両の1編成も「おもちゃ列車」として生まれ変わることが予定されています。
さらに「鳥海山木のおもちゃ美術館」への最寄り駅となる鳥海山ろく線・鮎川駅を「おもちゃ駅」としてリニューアルしようと、「クラウドファンディング」も実施されています。(4/24まで)
集められた資金によって、この駅がおもちゃ美術館の玄関口にふさわしいものとなることで、列車~駅~美術館と、「おもちゃ」をキーワードにワクワクのある導線が期待されています。
なお、駅と美術館の間は、シャトルバスで結ばれる予定だということです。
今年も桜の花が咲き始めた由利高原鉄道・鳥海山ろく線の沿線。
大型連休明けには、田んぼにも水が貼られ、雪残る鳥海山の水鏡が広がります。
「まごころ列車」のアテンダントさん、矢島駅のまつ子さんをはじめとした人の魅力はもちろん、そして川あり、峠あり、トンネルあり、のどかな風景に心癒される鉄道です。
街から遠いからこそ、そこには全国のファンに愛されるホンモノのローカル線があります。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/