命を奪うのではなく“頂く”~『猪骨ラーメン』で猪をいただける店
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
亥年ですが、猪を食べたことはありますか?
その旨さに魅せられた人がいます。吉井涼(りょう)さん、37歳。東京・丸の内のオフィスで働いていた吉井さんが脱サラして、愛媛県今治市に移住したのは2015年のこと……大きな転機となったのは、東日本大震災でした。
「いま思えば恥ずかしい話なのですが、私はあの大震災に遭遇するまで、食べ物はお金さえ払えばどこでも手に入ると信じていました。近くのスーパーの棚からほとんどの食料品が消えたとき、自分が食べる物くらいは、ある程度、自力で何とかしないと……。そう思ったんです」
野菜は何とか作れそう……魚は昔よく釣りに行っていた……では肉はどうしよう? そのときに生まれた選択肢の1つが、野生動物を獲って食べる「狩猟」でした。
吉井さんは狩猟免許を取得後、猟銃を購入……いざ猟師の道へ!
ところが関東圏で捕獲される猪や鹿は、残留放射能の関係で、当時、ほとんど食べられないことが分かりました。そこで、住み慣れた東京を離れて、移住を決意します。
「妻に相談すると、やっぱり最初は反対されましたね。でも、最終的には『面白そうね!』と言ってくれました」
「暖かい島で、誰か狩猟について教えてもらえる所がいい」と、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ海道」……その瀬戸内海に浮かぶ「大三島」を移住先に選びます。
吉井さんは、地元の団体「しまなみイノシシ活用隊」に入り、狩猟に関していろいろと教えてもらえることになりました。
初めて猪をズドン! と撃った日のことは、忘れはしません。「くくり罠」にかかって暴れまわる猪、その頭を猟銃で狙います。大型の動物を初めて殺す緊張のあまり、弾が外れ、2発目でどうにか仕留めることができました。
「いままで何十頭も猪を仕留めて来ましたが、心がけていることは、苦しませずにとどめを刺す……そして命を『奪う』のではなく『頂く』、そう思うようにしています」
血抜き、内臓の摘出、そのあと皮を剥ぎ、全ての骨を外し、ブロックごとに肉を切り分ける……。これを自分1人でやったときには、丸1日半を超える時間がかかりました。
そして、初めて食べた猪の肉……。吉井さんは、「なんて美味しいんだ!」と驚きました。イヤな臭みは全くなく、赤身に旨味があり、脂身にはイベリコ豚をも髣髴とさせる味わい。ところが地元では、猪の骨を活用せず、山のなかに埋めていました。それを見て、吉井さん、ひらめきます。
「こんなに旨い肉が付いている骨なら、きっといい出汁が取れるはず」
食べ歩きをするほどラーメンが大好きな吉井さんは、この島の特産品になるラーメンを作ってみようと思い立ちます。3年ほど試行錯誤を繰り返し、2,000食を試作……こうして2018年4月、島で唯一のラーメン屋さんを開きます。
お店の名前は、「猪」の「骨」と書いて、『猪骨(ししこつ)ラーメン』。
「お店を開くまで、いちばん苦労したのは資金集めでしたね。大学時代、一緒によく遊び、留年まで一緒にした友人がいて、やつがポンと50万円を出してくれたときは嬉しかったですね。彼はいまシンガポールで働いているので、いつかシンガポールに店が出せるほど、猪骨ラーメンの旨さを世界に広めることができたらいいな、と思っています」
去年、台風や豪雨のとき、風評被害もあってか客足が激減しました。お客さんを待っていてはダメだと思って、通販も始めました。吉井さんの信念は「なんとかなる」ではなく「なんとかする」。
2019年のお正月……お店には、こんな貼り紙がありました。
「本日は、おかげさまで、完売しました! 食べられなかった方、申し訳ありません」
猪骨ラーメン
所在地:〒794-1304 愛媛県今治市大三島町5516
電話:0897-72-8780
URL:https://www.shishikotsu.com/営業日:水~日曜
■12:00~14:00(ラストオーダー13:45)
■17:00~19:00(ラストオーダー18:30)
定休日:月・火曜(祝日の場合は変更あり)
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ