【ライター望月の駅弁膝栗毛】
先日、運行開始1周年を迎えたサイクルトレイン「BB.BASE」。
週末を中心に、内房線・外房線・総武本線・成田線の房総各線で運行されており、始発の両国からは、自転車を折りたたまずにそのまま持ち込めるのが特徴。
乗車には、前日までにこの列車を利用した旅行商品を購入する必要があるものの、沿線から見る限り、この日も盛況の様子で、千葉の週末鉄道旅に新たな彩りを添えています。
思い思いに楽しむ、千葉の週末。
昨年(2018年)12月の週末、千葉駅弁「マンヨーケン」が、創業90周年を記念して、駅弁を通じて親子で楽しむイベント、「ぼくの、わたしのおべんとうをつくろう」を開催しました。
じつは「マンヨーケン」としては初めてというお子様向けイベント。
私もJR総武本線・東千葉駅そばの「セントラルキッチン・マンヨーケン」内にある要売店にお邪魔しました。
お子様たちがチャレンジする駅弁は、「トンかつ弁当」(500円)。
千葉のソウルフードと言ってもいい、ワンコイン駅弁です。
昨年秋に東日本エリアで行われた「駅弁味の陣2018」でも、見事「掛け紙賞」と「エリア賞(南関東部門)」のダブル受賞を果たしました。
2018年12月以降は、掛け紙にもカタカナの「マンヨーケン」のロゴが加えられています。
昨年12月15日・16日、全4回行われた「ぼくの、わたしのおべんとうをつくろう」。
この回は、小学生以下の男の子2名・女の子3名の5名が参加しました。
まずは、マンヨーケンの皆さんの手作りの動画で「トンかつ弁当」の調理風景を紹介。
あの「トンかつ」は、薄く切った豚肉を、180℃の油で1分~1分30秒、カラッときつね色になるまで揚げているのだそうです。
作り方を学んだあと、お子さんたちはオリジナルの掛け紙づくりへ。
「駅弁マーク」と「トンかつ弁当」のロゴが薄く入った“白紙”の掛け紙に、子供たちは可愛らしい絵、リアルなトンかつの絵など、思い思いの絵を描いていきます。
しっかりとした掛け紙のある駅弁は、子供の教材にもなる…、コレは新発見!
「できたよ!」お子さんが元気よく、自慢の掛け紙を見せてくれました。
お子さんたちが掛け紙づくりに励む間、マンヨーケンのスタッフの皆さんは、「トンかつ弁当」の材料を準備、早速いい匂いがして来ました。
できることなら実際に作っている厨房でやりたかったそうですが、実際の駅弁作りと並行することもあって、今回は製造ラインを売店内に“再現”。
コレはお子さんのみならず、駅弁好きには貴重な体験ではありませんか!
掛け紙が出来上がると、子供たちも三角巾やマスク、手袋をして“お弁当屋さん”に…。
そして、実際の製造現場に入るスタッフの皆さんと同じように、入念な消毒をします。
マンヨーケンの皆さんも、一切手抜き無しの真剣な表情。
私は女児向けアニメ番組制作の裏側を見せていただいたことがありますが、それと同様、未来を担う子供たちを相手にする仕事だからこそ、大人たちは「本気」になるのです。
いよいよ、子供たちが自分の手で「トンかつ弁当」を盛り付けていきます。
しっかり「180g」の白いご飯を盛り付けることができるかな!?
マンヨーケンの方に切ってもらったトンかつは、たっぷりソースに漬けていきます。
大きな子は自分の力で、小さな子は親御さんに手伝ってもらいながら、自分だけの「トンかつ弁当」を作っていきました。
盛り付けができたら、いよいよ最後の難関、掛け紙をかけ、紐とじへ…。
まずは、マンヨーケンの皆さんがゆっくり何度も実演しますが、子供たちには難しい!
でも、自分の力で成し遂げることが大事なので、親御さんもゆっくり見守ります。
この紐とじって、大手某駅弁屋さんが、新入社員研修でやるのと同じことなんですから、小さいときに駅弁の紐とじが自分の力でできたことは、とても立派なことなんです。
ぼくだけの、わたしだけの「トンかつ弁当」できました!
参加した皆さんも、自分だけの「トンかつ弁当」に満足そうです。
お子さんのなかからは「駅弁屋さんをやってみたい!」という前途有望な声も聞かれました。
「トンかつ弁当」はワンコイン・500円で販売される駅弁ですが、500円をいただくために、どんな苦労が必要なのかということを学ぶ上でも、いい経験になったことでしょう。
【おしながき】
・ご飯
・トンかつ
・筍煮
・ごま昆布
・しば漬け
昭和40年代から千葉駅で販売されている「トンかつ弁当」は、薄めの肉が特徴。
「マンヨーケン」によれば、少し肉厚になってしまうと、ご意見を寄せられる方もいるとか。
肉厚な駅弁は数多くあれど、“肉薄”が名物になる駅弁は、千葉が唯一無二!
たっぷりつけるソースも美味しさのカギで、製造ラインでは「とんかつソースが白いご飯の下までしっかりしみ込んでいるかどうか」というチェックポイントもあるそうです。
手作業で、1日およそ500枚のトンかつを揚げる日もあるという「トンかつ弁当」。
「マンヨーケン」によると、今回、子供たちをターゲットにしたイベントを開催した理由には、新しい世代の人たちに駅弁、マンヨーケンを知ってもらいたいという思いがあるとのこと。
初の試みということもあり、まだ試行錯誤の段階ですが、できるだけ継続的に開催して、子供たちのデザインによる、特別版の掛け紙を出せたら…というプランもあるそうです。
ほぼ半世紀の歴史を持ち、根強いファンに支えられている千葉駅弁「トンかつ弁当」。
古き良き駅弁のスタイルを今に伝える一方、豚肉の生産も盛んな千葉ということもあって、1つの「千葉の宝」といってもいい食文化だと思います。
子供たちが参加するイベントを通じて、この地域の宝を次世代へ…。
新生「マンヨーケン」の新しい取り組み、今後も注目していきたいと思います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/