【ライター望月の駅弁膝栗毛】
北海道新幹線の開業で誕生した「道南いさりび鉄道」。
かつての江差線・五稜郭~木古内間が、第3セクター鉄道として生まれ変わった路線です。
看板列車は、毎月概ね第1・第3土曜日に運行されている団体列車「ながまれ海峡号」。
じつはこの列車、食いしん坊にはたまらない怒涛の“美味しいものラッシュ”が楽しめます!
今回は「日本旅行」主催のツアーに参加、道南の美味しいものをいっぱいいただきました。
始発の函館駅では、道南いさりび鉄道のアテンダントさんがお出迎え。
「ながまれ」とは、北海道・道南の言葉で「ゆっくりして、のんびりして」の意味です。
「ながまれ海峡号」は函館15:51発、五稜郭から道南いさりび鉄道線に入り、およそ1時間50分かけて木古内へ向かい、約40分の停車後、再び函館には19:47に戻って来ます。
およそ4時間、道南の食と函館の夕景・夜景を楽しみながら、のんびりと走る列車です。
早速乗り込むと、大きなイカや大漁旗の装飾がありますが、どこか懐かしい雰囲気。
この車両は国鉄時代の昭和55(1980)年に作られ、JRから道南いさりび鉄道に譲渡されたキハ40形気動車で、1793と1799の2両が「ながまれ」号として改装されました。
普段は定期列車として運行され、「ながまれ海峡号」として走る前日に社員の皆さんが手作業で道南杉のテーブルやヘッドレストなどを設置しているのだそうです。
指定された座席には、早くもお茶菓子「メルちゃんのうまイカパイ」が用意されていました。
このお菓子は、函館の「プティ・メルヴィーユ」が、「ながまれ海峡号」のお客さんだけに作っている、お店では手に入らない列車オリジナルのスイーツ。
たっぷりのサキイカが使われ、パイ生地のサクサク感とシンプルな塩味がマッチしています。
このほか乗車記念ミニトートバッグ(非売品)をはじめ、参加者だけの特典が続々登場します。
●上磯駅の立ち売り大盛況!
最初の停車駅・上磯では、16:19~38の19分間停まります。
この19分間に行われるのが、北斗市・上磯駅前商店会の皆さんによる「立ち売り」。
いまや希少な窓の開く車両・キハ40形気動車の特性を活かして、地元の商店街の皆さんが、昔のように籠を首からぶら下げて、自慢の品々を販売してくれるのです。
これは敢えて、列車から降りずに、窓越しでお金と商品のやり取りを体験したいものです。
1度立ち売りの方から商品を買うと、他のお店の方の品も欲しくなってしまうもの。
この日は、北海道物産展などにも出店している「華隆」のホッキシュウマイ(300円)に始まり、昭和28(1953)年創業、「大黒屋菓子店」の名物チーズケーキ「峩朗の月」から作ったラスク(200円)、さらには、地元の八百屋さんが旬を迎えた夕張メロンを切りたてで販売!
早くもテーブルの上が、食べ物でいっぱいになってしまいました。
「道南いさりび鉄道」最大の魅力は、何と言っても美しい車窓。
加えて、単線や本州と北海道を結ぶ貨物列車が走る大事な物流ルートであることを逆手にとって、景色のいい矢不来信号場ですれ違いによる19分もの停車時間を設けています。
目の前には函館山と、すそ野に広がる函館の市街地が一望!
「もうお腹いっぱい!」というくらい、美しい景色を楽しむことができるのです。
●木古内が誇る塩パンとイタリアン!
折り返しの木古内には、17時41分の到着。
木古内は、北海道新幹線との接続駅でもあります。
ここで一旦、参加者は列車を下車して、駅前の「道の駅 みそぎの郷きこない」へ。
18:15の集合時間まで、およそ30分の自由時間は、絶好のお土産選びタイムです。
函館では手に入りにくい、松前・江差周辺のお土産がゲットできるのが嬉しいですね。
ココの名物として知られるのが、「コッペん道土(どっと)」の「ぱくぱく塩パン」。
バターが効いていて、いい香りなのはもちろん、かみしめるとジュワッとなります。
外はカリッとしているのに、なかはモチっとしているのが面白い食感。
“行列ができる店”と評判で、しばしば完売してしまうことから、ツアー参加者は函館出発前に予約を受け付けていて、注文した分のパンはしっかりキープしてくれています。
【おしながき】
・季節のサラダ~特製オリジナルドレッシングで~
・江差産ズワイガニの『カニ味噌』のペンネアラビアータ
・ぱくぱく塩パン(木古内みそぎの塩と道産バターを使用)
「ながまれ海峡号」の車内に戻ると、早くも次の食事が用意されていました。
ぱくぱく塩パンの「コッペん道土」には別部門の「どうなんde’s」というレストランがあります。
このレストランは何と! 山形・鶴岡の「アル・ケッチャーノ」の奥田シェフが開店時に監修。
それと言うのも、木古内に明治の初め、旧庄内藩士が多く入植したことが縁なのだそうです。
アル・ケッチャーノ由来の“木古内イタリアン”が列車のなかで味わえるのは素晴らしい!
●国内初のプラットホームでBBQ!
「ながまれ海峡号」のメインイベントは、何と言っても、茂辺地(もへじ)駅でのBBQ!
マイホームBBQは当たり前ですが、鉄道のプラットホームでBBQは全国でもココくらい。
函館への帰りの列車では、茂辺地駅でのおよそ20分の停車時間に、地域の皆さんが地元で獲れた海産物を豪快に焼いて、弁当にしてくれるのです。
茂辺地駅の跨線橋を渡ると、駅舎の脇から早くもジュワ~っといい音が聞こえてきました。
磯の香りに包まれながら、ホッキや帆立が、目の前で炭火によって焼き上げられていきます。
ジュージューとなる煮汁には、貝のうま味がたっぷり!
そのうま味を逃さないように、どんどん折に詰められて「いさりび焼き弁当」が作られます。
ホッキをはじめとした海産物はもちろん、車内で一緒に提供されるご飯も地元・北斗産。
20分の停車時間はあっという間ですが、何とも贅沢なひとときです。
【おしながき】
・北斗海鮮焼き三品(ホッキ・ホタテ・ツブ、北斗市前浜で水揚げ)
・ごはんもの(いなり寿司・赤小梅おにぎり、北斗産ふっくりんこ使用)
・お口なおし(いちご大福)
最高の海の幸に出逢った後は、車窓のメインディッシュ・函館の夜景へ…。
乗車した7月はまだ明るい時間でしたが、車内は減灯され、少しムーディーな雰囲気です。
函館山からの夜景&船の灯りは多くの方が楽しんでいますが、列車からの「横の夜景&船の灯り」は、道南いさりび鉄道に乗った方だけが楽しめる函館の夜景。
これは日が短くなるこれからの季節、もっともっと美しくなっていきそうですね。
手作りのもてなしが、どこか懐かしくて温かい、道南いさりび鉄道の「ながまれ海峡号」。
ツアーを主催する旅行会社&運行する鉄道会社の皆さん、そして、何より地元の皆さんの熱意が、日本トップクラスの“心豊かな”観光列車を作り上げています。
いままで鉄道にあまり興味がなかった方でも、次から次へ登場する美味しい食べものや函館の美しい車窓に、およそ4時間の乗車時間は、あっという間に過ぎていくことでしょう。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/