【ライター望月の駅弁膝栗毛】
上越線の小出と磐越西線の会津若松を結ぶJR只見線。
冬場は並行する国道252号が新潟・福島の県境で閉鎖されるため、この時期は、只見線が新潟・中越地方と福島・会津地方を直接結ぶ、唯一の交通機関となります。
ただ、只見線の只見~会津川口間は、平成23(2011)年の豪雨被害のために運転を見合わせており、令和3(2021)年度に予定されている復旧までは、代行バス輸送が続きます。
只見線沿線は、日本有数の豪雪地帯として知られますが、この冬は寒中にもかかわらず、ほとんど雪がありません。
小出を発車する只見線の列車は、7:58、13:11、17:10、19:57発の1日4本。
この時間にやって来た列車の2両目は、“小出(こい・で)と会津(あい・づ)”を結ぶことから、“恋愛”にちなみ「縁結び列車」と銘打った奇抜なピンク色の塗色が施されているようです。
さて、上越線から只見線が分岐している小出駅前からは、魚沼市内に点在する温泉地へ、「南越後観光バス」の路線バスが運行されています。
この日は、30分ほどバスに揺られて、「栃尾又(とちおまた)温泉」を目指しました。
週末の東京からは、東京10:16発「とき315号」に乗ると、浦佐・小出での接続が良好。
本数は少なくても、新幹線・在来線・路線バス・温泉宿の連携が望まれる地方の交通です。
古くからの湯治場として知られる栃尾又温泉。
日本秘湯を守る会の宿でもある右手の「自在館」、左手の高台には、食事のファンも多い「宝巌堂」、そして昔ながらの湯治宿「神風館」という個性的な3軒の宿があります。
温泉は全ての宿が共通で、「したの湯・うえの湯」と「おくの湯」で、1日ごとに男女入れ替え。
日帰り入浴の受付はなく、3つの宿に泊まることで、その素晴らしいお湯を堪能できます。
栃尾又温泉で自然湧出している栃尾又1号泉は、36.8℃、ph8.6、成分総計272.4mg/Kgの単純弱放射能泉で、日本有数のラジウム泉として知られています。
栃尾又では体温と同じくらいのぬる湯にじっくりと浸かる、「長湯」という入浴法をいまも伝承。
私は宝巌堂さんによくお世話になっていますが、栃尾又のお湯に1度浸かると、なぜかウトウトしてしまい、気が付けば2時間ほど経っていた…なんてこともしばしばです。
都会の喧騒を忘れ、静かにただ癒されたいとき…栃尾又は最高の場所だと思います。
旅のスタイルに合わせて、思い思いの宿が選べる栃尾又の旅。
最寄りの新幹線駅・浦佐には残念ながら駅弁がありませんので、それぞれの行程に合わせ、越後湯沢へ戻るか、あるいは長岡へ出るか?
長岡へ出ると、明治20(1887)年創業、おなじみ「池田屋」の駅弁が待っています。
今回は、思い思いの楽しみ方をする人が多いという、「とりそぼろ弁当」(890円)をご紹介。
【おしながき】
・白飯(長岡産米)
・焼き鳥(もも)
・鶏そぼろ
・錦糸玉子
・蒲鉾
・山菜醤油漬け
・しば漬け
赤いボックスを開けると、目を引くのが、真ん中に2本載った「焼き鳥」!
お酒大好きな方が多い新潟・長岡ならではの、“呑める駅弁”なんですよね。
串のままつまんで〆にそぼろ御飯もよし、常連さんのようにほぐして焼き鳥丼にするもよし。
生姜を効かせた甘辛濃いめの鶏そぼろと錦糸玉子でバランスを取りながら、長岡産の美味しいお米を食べ進めていけば、いただく人の“創造力”をもかき立ててくれるでしょう。
新潟には、のんびり・ゆったりを意味する「じょんのび」という方言があるそうです。
小出~只見間の約47Kmを1時間15分あまりかけてのんびり走る只見線の普通列車。
体温ほどのぬるい温泉に長い時間かけて、ゆったり浸かる栃尾又温泉。
“じょんのびを極める”なら、やっぱり魚沼の山々に抱かれたいもの。
都会の人の多さに飽きたら、新潟でのんびりしてみてはいかがでしょうか?
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/