宇宙食にも認定! 干物『まるとっと』が空を飛ぶきっかけは学生?
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
毎日発表される新型コロナウイルスの感染者数をにらみながら、「この辺りなら行けるかな?」「ここは難しいかも」と、夏の旅行プランを練っている方もいらっしゃるかも知れません。
和風旅館の朝飯といえば、アジの干物、厚焼き玉子、焼きのり、納豆、味噌汁、ご飯…といったところが相場です。特に旅館の朝食では、アジの干物がスターになることも多いですね。
今回ご紹介するのは、そんなアジの干物の有名メーカー。愛媛県にある株式会社「キシモト」のアジの干物です。
専務の岸本賢治さんにうかがうと、魚を骨ごと食べられる人気商品『まるとっと』を、地元の研究所と大学で共同開発したのは、10年ほど前。介護施設のお年寄りの言葉がキッカケだったと言います。
「若いころのように、お頭付きの魚を丸ごとバリバリ食べたい!」
しかし、魚の骨はお年寄りが間違って飲み込む誤嚥や、喉のトラブルの元。骨の部分をきれいに取り除いたサイコロ型の練り製品を食べていたそうです。
お年寄りの願いを意気に感じた岸本さんは、猛然と魚の骨にアタックします。夜に思いついたアイデアを、翌日には研究所で実験。来る日も来る日も実験、実験という日々が続き、加工実験に使ったアジは、1年間で1万匹を超えたと言います。
こうして成功したのが、アジやタイを頭から丸ごと食べられる『まるとっと』。その試食会の日、85歳~100歳までのお年寄り17人を集めて、『まるとっと』を食べていただきました。
試食が終わったお年寄りは、次から次へと岸本さんに握手を求めて来たそうです。
「ありがとう!」「こんなものがつくれるなら、もっと早くつくれや!」
岸本さんの手を握り、涙ぐんでいる人さえいたそうです。
通常の干物と比べて、40倍ものカルシウムを摂れるという『まるとっと』は、学校給食のテストでも99.6%が完食という好成績をおさめました。当時、女性や子供たちのカルシウム不足が問題になっていたこともあって、『まるとっと』は脚光を浴びる商品になったのでした。
そんなある日、岸本さんのもとへテレビ取材の依頼が入ります。相手は、松山工業高校の生徒たち。「『まるとっと』の開発話を番組にして、放送コンクールに出したい」という申し入れを、岸本さんは快諾しました。
インタビューの最後に、高校生が「岸本さんの夢は何ですか?」と訊きました。
「そうだなぁ……『まるとっと』を宇宙に運びたい!」
軽く夢を語ったつもりなのに、若さというのは純粋で大胆です。高校生はJAXA=宇宙航空研究開発機構に電話をして、岸本さんの夢を相談したというのです。
JAXAの宇宙食担当者から電話が入ったのは、それから数日後のことでした。
「一度、お会いできないでしょうか?」
とにかく話だけは聞いてみようと、愛媛県庁へ出向いた岸本さん。JAXA側の説明はなるほど、納得のゆくものでした。
■宇宙空間の「無重力」状態は、骨にとっていい状態とは言えない。
■地上で生活するのに比べて、およそ10倍ものカルシウムが消費される。
■長期間の宇宙滞在で、骨粗鬆症を発症することもある。
■そこで、普通の魚と比べてカルシウムが数十倍も摂取できる『まるとっと』を、宇宙食研究として進めてもらえないか?
昔から宇宙やロケットに憧れを持っていた岸本さんは、天にも昇る心地でJAXAに通い、その基準をクリアするために改良に改良を重ねて、宇宙食『スペースまるとっと アジ』を完成させました。ふと気づけば、さらに5年の月日が流れていました。
そして、めでたく『スペースまるとっとアジ(燻製しお味)』を、JAXAが宇宙日本食として認証。
これまで、やきとり、羊羹、柿の種、切り餅、ガムなどが認証されていますが、干物の認証は日本初の快挙です。訓練中の宇宙飛行士・野口聡一さんが宇宙へ飛び出すときは、きっと一緒に……ということになるでしょう。
岸本賢治専務はおっしゃいます。
「私は10月で80歳になります。それもたった40人の会社で、少年時代からの憧れだった宇宙へ商品を打ち上げられるなんて、こんな歓びはありません。まさに『少年よ、大志を抱け』ですね」
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