それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
新型コロナウイルス感染予防のために、「マスクをしよう」「手を洗いましょう」……私たちは、このメッセージを何度も何度も耳にして来ました。
そして、家に帰ればマスクを外し、水道の蛇口を開いて石けんで手を洗う。けれどもこのとき、頭の隅で「ああ、こうして手を洗えない人もいるんだ」ということを、チラッとでもイメージできる人が何人いるでしょうか?
去年(2020年)3月、ユニセフ(国連児童基金)が明らかにしたデータによりますと、基本的な手洗い設備が自宅にあるのは、世界で5人のうち3人に限られている。つまり世界の人たちの40%、およそ30億人が、石けんと水で手を洗う設備が家にないということです。
開発途上国では4分の3近くの人が、基本的な手洗い設備を自宅に持っていません。また、世界の学校の3分の1以上、開発途上国の学校の半分には、子どもが手を洗う場所がまったくないのだそうです。
このショッキングな現実は、私たちが普段行っているコロナウイスルとの戦いのなかで、置き去りにされているようです。しかし、それを忘れず、この問題に真正面から向き合っている生徒たちがいます。
青森県三戸郡南部町の「青森県立名久井農業高等学校」では、去年2学期の終業式の日、さまざまな部活動やコンテストなど各種大会の受賞に関する表彰が行われました。
そのなかの1つが、持続可能な開発目標(SDGs)に関する取り組みに対する表彰状=SDGs推進副本部長、加藤勝信内閣官房長官賞の受賞。そして、ストックホルム青少年水大賞2020国際大会・グランプリ受賞。
気候変動対策活動の普及・促進への積極的な取り組みに関する表彰状。これは、小泉進次郎環境大臣賞に輝きました。いずれも、受賞したのは「環境研究班」の生徒さんでした。
名久井農業高校の環境研究班というのは、いわゆる部活ではありません。2~3年生が選択する「課題研究」の授業の一環として開講されています。その生徒たちが、世界の水と食糧の問題に取り組んでいるとは驚きです。
一体、どんな指導をされているのか? 担当の木村亨先生にうかがいました。
「この環境研究班というのは、もともとは草花の研究グループとして立ち上がったものなんです。八戸の種差海岸に自生していたサクラソウが、2011年の震災の津波で打撃を受けたとき、県の許可を得て絶滅が危惧されたサクラソウをタネから育てたことで、土壌改良や農薬を抑えた水耕栽培などにも研究の幅を広げて来ました。でも私がしたことは、指導というよりも生徒と一緒に『やったぁ!』『できたぁ!』と遊んで来たようなものです」
このように、とっても明るくて低姿勢。生徒たちの研究も楽しかったはずです。
生徒たちが関心を持ったのは、世界の乾燥地帯の雨水利用システムでした。せっかく苦労して貯めた雨水が、雨季の大雨によって土壌が流出。その土壌が河川に堆積して大洪水が起きる。乾燥地帯の歴史は、その繰り返しでした。
そこでひらめいたのが、日本の家屋に古くから使われていた土間の工法だったと言います。古い家屋の玄関や土間をご存知の方ならわかると思います。
土間の下にある土の部分=三和土(たたき)は、それはそれは固い土でした。土と消石灰とにがりを混ぜ固めてつくった三和土。途中、にがりは塩分が含まれているので中止。砂やワラを混ぜて、どうしたら、どこまで固くなるかを研究しました。
「つくっては壊し、つくっては壊し、最高のものができるまでには100個以上の三和土をつくりましたね」と笑う木村先生。相撲の土俵など、日本人は昔から土を固めることが得意だったようです。それが世界の乾燥地帯の水不足を救う一助になるかも知れません。夢が広がります。
また、微生物を組み込んで水の浄化力を強化。沼や池で植物を栽培して、食糧不足の解消につなげようという研究も、未来が垣間見えます。木村先生の声がはずみます。
「本当は、環境研究班は2018年で解散予定だったそうです。それが研究成果のおかげで認めてもらえました。『興味のある1年生も集まれ!』と募集をかけたら、4人も来たんですよ!」
北国・青森の名久井農業高校の春は、もうすぐそこです。
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ